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小さな魔女と野良犬騎士  作者: 如月雑賀/麻倉英理也
第2部 反逆の乙女たち

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第83話 遺跡に住まう魔性




 不穏な空気を醸し出し始めた遺跡探索。

 盗掘の跡は、一ヵ所だけでは無く、この台座型の遺跡に計五ヵ所の同じような痕跡が見つかった。

 盗掘跡自体に危険性はない。跡は全て古い物ばかりで、少なくとも最近は年単位で盗掘は行われていない。なので、この辺りに盗掘家の集団が潜んでいて、調査に来た一行を虎視眈々と狙っている。などという事態には陥らないだろう。


 問題なのは、この遺跡に潜む何かだ。

 遺跡の内部に何か怪しげなモノが潜んでいるかもしれない、というのはロザリンの予測に過ぎない。が、それを調査するのも、任務の内だ。


「ふむ」


 一通り遺跡を見て回った後、ロザリンは仁王立ちで建物を睨み付ける。

 難しい表情をしてコンコンとこめかみを指で叩きながら、遺跡に近づくとボロボロの石壁に顔を近づけ観察する。

 調べているのはロザリンだけで、他の四人は後ろで休憩中だ。

 気温も上がって来たので、カレンとルチアの体力を考慮して、少し早めに休憩を取ったのだが、ロザリンは何か気になることがあるらしく、先ほどからずっとあの調子で歩き回っていた。


「ロザリン。少し休みましょう。小まめに休憩を挟まないと、倒れてしまいますよ」

「もう少し、大丈夫」


 木陰に入ったプリシアが心配して呼びかけるが、それだけ言って調査を続ける。


「もう。昼を回ってるから、外も大分、暑くなってるのに」


 プリシアが心配しながら、頬を膨らませた。

 見て回ったが、この遺跡に入口らしきモノは無かったので、まずは入口探しだ。

 盗掘家が壁を破って中に侵入したのも、出入り口が見つからなかったから。もしくは、入口があると思っていなかったか。内部に人が入れる空間があるからといって、ご丁寧に入口があるとは限らない。

 入口が見つからない場合は、同じく壁を破壊するしか無いだろうが、流石にプリシア達の独断では難しいし、壁を破る為の道具も用意してないので、どうしても見つからない場合は、残念だが撤退するしか無いだろう。


「ん~……」


 段になっている石を手で叩いてみるが、硬い感触がある只の石だ。

 手についた砂粒を、叩いて払い落とす。


「何か、あるのは、確かなんだけどなぁ」

「その何かって、何なんだよ?」

「わぁ!」


 考え込んでいるところを、突然、後ろから声をかけられ、ロザリンはぴょこんと跳ね上がる。

 後ろを見ると、腕組みをしたアルトが立っていた。


「アル、手伝ってくれるの?」

「違う。お前を強制的に休ませに来たの。ロザリンが休憩しないと、プリシアの奴がずっとソワソワして俺が落ち着かねぇんだ」

「……最近、プリシアに優しいよね」

「オメェに言われたくねぇけど!?」


 唐突に半眼で言われ、思わず大声でそう突っ込んでしまう。

 どう考えても、二人の方が急激に仲良くなりすぎだろう。


「んな下らん勘繰りしとらんで、木陰の方へ行くぞ。お前が倒れでもしたら、帰った時に俺がカトレアに殺される」

「むぅ、もう少し」


 マントの襟を後ろから引っ張られるが、まだ疑問が残るロザリンは、足を踏ん張ってそれに耐える。


「もう少しったって、進展は無さそうなんだろ? 今はお前さんお得意の、推理タイムに時間を割いた方がいいんじゃねぇの?」

「多分、考えたり、推理してわかることじゃ、無いと思う。それくらいでわかったら、盗掘家が、とっくに見つけてる筈」

「だったら、余計に一回休め。考えてわからないことなら、一度クールダウンした方が効率もいいだろ?」


 もっともな意見を言われ、モゴモゴと口を動かし不満げな顔をするが、理解は示したのか踏ん張る足の力を緩める。

 それでもやはり心残りなのか、悪戯に手に持った傘の先端で、遺跡の壁を突いた。

 強く先端を壁に押し付けた瞬間、カチッとその部分が音を立てて陥没する。


「……へ?」


 異音に気づき遺跡を見上げると、石壁全体に一瞬だけ光の文様が走り巡る。

 次の瞬間、正面の壁が大きな音を立てて、バラバラと崩れ砂と化した。

 中から現れたのは、内部へと続く入口。中は下へと続く階段になっている。

 後ろで見ているプリシア達も、予想外の事態に唖然と固まっていた。


「こいつは……うッ!?」


 驚きながら中を覗こうとしたアルトは、ビクッと身体を仰け反らせた。

 どうしたの? と見上げたロザリンも入口に近づこうとするが、アルトに肩を掴まれ制止させられた。

 その理由は直ぐに判明する。


「……ッ!? この、気配ッ」


 開いた入口から、怖気のするような風が肌を刺す。

 真夏の気温の中で、遺跡からの風はまるで真冬のよう。いや、実際に寒いわけでは無く、風に含まれた異質な空気が、身体を刺激して鳥肌を立たせていた。

 そしてほんのり香る、生物の腐ったような匂い。

 口元を押さえ、アルトは顔を顰めた。


「こいつ、瘴気が充満してやがる……ちっと、ヤバイかもしれねぇな」

「――兄様!」


 異変を察知して後ろからやってくるプリシア達を、手を差し出し制止させた。


「近づくな。ちょっと、女学生が扱うにゃレベルが高いモンを、掘り出しちまったみたいだ」

「アル。この瘴気、少し、魔力も交じってる……奥に、何かいる」


 入口を睨み付けるロザリンが、微量な気配を感じ取って、アルトにそう告げる。


「そうか……プリシア。お前らは森の入り口に戻って、騎士連中にこのことを伝えてくれ」

「わかりました……それで、兄様は?」

「放って置くわけにゃ、いかんからな。中を調べてみる」


 面倒臭そうに頭を掻くアルトの発言に、皆は驚きの声を上げた。


「お、おいおい! 一人で、こんな中突っ込む気かよ!? 離れてても、けっこう凄い瘴気を感じるんだぜ?」

「明らかに魔物が巣食っているわ。騎士達を待つ方が懸命よ」

「ま、そりゃ正論なんだが」


 首の骨を鳴らしながら、腰の剣を確認する。


「離れてる間に、物騒なモンが外に出て来ても不味いだろ。ちょいと中を調べて、ヤバそうなら足止めしとかんと、ゲオルグの奴に怒られる」

「じゃ、私も、行く」


 そう言って、ロザリンは手を上げた。


「今のでわかったけど、この遺跡、術式が使われてる。なら、魔女の私が同行すれば、何か詳しいことが、わかるかも」

「なるほど。では、私も一緒に行きます」


 頷くプリシアの言葉に、皆は驚いた顔をした。


「私はこの班のリーダーです。ギルドかたはねの人間として、この遺跡の内部を調査し報告する義務が、私にはあります」

「で、でもさぁ」


 心配そうな顔をするカレンとルチアに、プリシアは優しく微笑みかける。


「大丈夫です。本当に危険そうなら、無理はしません。逆に……」


 視線をアルトとロザリンに向け、悪戯っぽく笑う。


「兄様とロザリンだけの方が、無茶をしてしまうでしょう?」


 言われて、アルトは肩を竦めた。

 二人も心配そうな顔はそのままだが、一応は納得したように頷く。


「はい。では、二人は見張りの騎士様に事情を話してください。可能なら、王都に早馬を出した方がよろしいかもしれません」

「わかった。伝えるよ」


 カレンが力強く頷くと、前に出たルチアがプリシアの手を取りキュッと握る。


「気を付けてね……ロザリンも」

「はい」

「ん」


 二人は同時に頷いた。


「兄様。ちゃんと二人を守ってやれよ」

「はいはい、わかったから、さっさと行け」


 苦笑して手を振ると、二人はやはり心配なのか、チラチラと何度も振り返りながら、森の外へと向かって行った。

 残った三人は、顔を見合わせて気分を引き締める。


「んじゃ、先頭は俺が行く……ロザリン」

「ん」


 名を呼ばれたロザリンが、マントの中をゴソゴソと漁ると、小さな手のひら大のランタンを取り出した。

 それを見たプリシアが、顔を顰める。


「それ、小さすぎませんか?」

「大丈夫」


 自信満々に頷いて、口の中で小さく呪文を詠唱すると、指先でコンとランタンを弾いた。

 すると、ランタンに光源が灯り、周囲を照らしだした。

 小さなランタンとは思えない光量に、プリシアは目元を手で覆いながら驚く。


「す、凄い、光ですね」

「ランタン自体が、術式になってるから、長時間でも使用可能」


 これだけの光なら、十分に暗い遺跡の中を探索出来るだろう。

 とはいえ、遺跡の内部がどれだけ広いのかはわからない。

 一応、最低限の装備は整えてあるが、もし迷宮のように入り組んでいたら、今の状態ではちょっとお手上げだ。


「ま、悩んでいても仕方が無い。ある程度まで進んでみて、無理そうなら騎士の連中と合流しよう……二人は、くれぐれも俺の側から離れるなよ?」


 二人は同時に頷いた。

 この二人なら、多少の問題にぶつかっても大丈夫だろうと、内心でそう思いながら、アルトは視線を遺跡の入り口に向けた。


「よし。行くぜ」


 ロザリンからランタンを受け取り、前方に掲げながら、遺跡の中へと踏み込んだ。




 ★☆★☆★☆




 遺跡の入り口は細い階段になっていて、真っ暗な地下へと続いていた。

 内部は気分が悪くなるような、ドロドロとした瘴気が充満しているモノの、不思議とかび臭さなどは感じられなかった。もしかしたら、本来なら神聖な場所で、元は清浄な空気で満たされていたのかもしれない。


 不幸中の幸いだとすれば、遺跡の内部は随分と涼しいことぐらいか。

 アルトがランタンで階段を照らし、ロザリン、プリシアと続いて下へと降りる。

 一歩、階段を降りる度、瘴気はより濃度を増す。

 少なくとも年単位で封鎖されていた場所だけに、溜りに溜まった瘴気は、呼吸をするだけで気分が悪くなってくる。


「……うっ」


 呻き声を上げ、ロザリンが口元を手で押さえる。


「大丈夫ですか?」

「ん。なんとか」


 声をかけるプリシアに、大丈夫だとアピールする。


「森育ちにゃ、ちょいとキツイ空気かもな……なぁに、人体に影響が出るほど濃い瘴気じゃない。小一時間もすれば、慣れるさ」

「ここに、小一時間」


 考えただけで吐き気を催したのか、うぷっとまた口元を押さえた。

 口を押えたまま、後ろで心配そうにしているプリシアに視線を送る。


「プリシアは、平気そう、だね」

「まぁ、私はギルドのお仕事で何度か体験していて、慣れてますから」

「……アルも?」

「ま、お前らよりは多少、経験豊富だからな」

「むぅ、ズルい」


 一人だけ青い顔をしていることに、眉を顰めてそう抗議する。

 言われたところでどうしようも無いと、アルトとプリシアは歩きながら苦笑を浮かべた。

 そうこうしている内に、階段を下り終えて、広い場所へと到着した。

 ランタンを翳し、照らし出された周囲の光景に、少女二人は絶句する。


「……こ、これは!?」

「骸骨……」


 広いフロアには、床一面に白骨化した人の死体が転がっていた。

 それも一人は二人では無い。数えきれないほど、だ。

 驚く二人をその場に待たせ、アルトは数歩踏み出しランタンで照らしながら、フロア内をグルリと見回す。


「……ふぅむ。コイツラ、盗掘家か」


 パッと見、転がっているのは人骨だけ。魔物や、獣の類は存在しない。

 よく見れば骸骨に交じって、風化した鎧や武器なども転がっており、壁や床には交戦した痕跡が残っていた。


「何かと戦ったみてぇだが……あそこか」


 フロアの奥には、更に奥へと続く扉があった。

 完全に閉ざされているわけでは無く、僅かに隙間が空いていることから、封鎖されているわけでは無さそうだ。

 先に進むべきかどうするか、アルトが悩んでいると、僅かだが小さな物音が鳴る。

 それに気づいたのは、ロザリンだけだ。


「……この音?」

「ロザリン、どうしたの?」


 奇妙な物音に、ロザリンも周囲を見回し澄ます。

 音は酷く小さい。が、断続的に、確かに鳴り響いている。

 まるで、骨同士が振動して、ぶつかり合っているような雰囲気の音。

 そんな想像に、ロザリンはハッと顔をアルトに向けた。


「――アルッ!」


 声と共にアルトも異変を察知し、舌打ちを鳴らして腰の剣を抜く。

 瞬間、音が鮮明に鳴り響くと、大音響となってフロア全体を覆い尽くす。

 激しい音の渦に顔を顰め、耳を押さえる。

 音の源は転がっている骨。

 骨の一つ一つが振動を繰り返し、ぶつかり合うことで音を奏でているのだ。

 そして音が止み、一瞬の静寂が満ちる。

 次の瞬間、骨同士はくっ付き合い、一体の骸骨となって立ち上がった。


「――ッ!?」


 ロザリンは驚き、思わず数歩、後ろに下がってしまう。

 フロアを埋め尽くすほどの、スケルトンの群れが、転がる武器や盾を手に取り、空虚な目をアルト達に向けた。

 カタカタと顎を鳴らす姿から発せられる濃い瘴気に、二人は言葉を失っている。


「ボサッとすんな! 武器を構えろ!」


 アルトの激が飛ぶ、

 ハッと正気を取り戻した二人は、すぐさま戦闘態勢に移った。

 ロザリンはマントの内側から取り出した、水神の雫を口に咥え、傘を構える。プリシアも腰のサーベルを抜いた正面に構えた。


「プリシア。無理しないで、下がってて」


 水神の雫によるブーストと、過去数回の戦闘経験により、それなりの自信を付けたロザリンが前に踏み出しつつ、プリシアの身を案じた発言をする。

 が、それに対して、プリシアは呆れたような表情をした。


「何を馬鹿なこと言ってるんですか。戦闘の経験も日々の訓練量も、私の方が貴女よりずっと上なんです。前衛は私に任せて、ロザリンこそ後ろで援護に集中してください」

「ふっ。経験は、量じゃなくて、質なんだよ」

「たった二、三回強い人達と戦ったからって、威張らないで下さい!」

「お~い、阿呆なことやってんな、二体行ったぞ」


 ため息の混じった、アルトの声が飛ぶ。


「「――ッ!?」」


 瞬時に、二人は同時に視線を向けると、錆びついた剣を構え、迫って来るスケルトンが二体、ガチャガチャと奇妙な足音を立てている。

 二人は同時に、俊敏な反応を見せる。

 飛び跳ねたロザリンは、傘を振り上げ、体重を乗せてスケルトンを真上から押し潰した。

 ブースト効果された腕力による一撃で、スケルトンは頭から粉々に砕け散る。

 プリシアは素早く身を低くして、スケルトンの大腿骨をサーベルで横薙ぎに裂く。バランスを崩す上半身目掛け、Ⅴ字で腕を肩口から斬り落とした後、倒れ込んだスケルトンが復活してこないよう、残った骨を足で踏み砕いて無力化した。

 それを横目で見たロザリンが、うわぁと声を上げる。


「えげつない」

「し、仕方が無いじゃないですか! 生半可な攻撃じゃ、スケルトンは無力化出来ないんですから!」


 言い合いながらも、襲い掛かってくるスケルトンを、傘とサーベルで次々と叩き伏せていく。


「どうやら、あっちは、おっと。心配、無いみたい、だなッ!」


 視線を二人に向けたままアルトは、群がってくるスケルトン達を、片手剣と体術で次々と張り倒していく。

 数は多いが、思っていたよりスケルトンの動きが鈍かった為、十数分ほどで全ての敵を無力化することが出来た。


 勿論、三人とも掠り傷一つ無い。

 一転して静まり返り、少女二人の荒い息遣いだけが響く。

 厳しい視線でアルトはグルリと室内を見回し、怪しい気配が無いのを確認すると、短く息を吐いて剣を納めた。


「これで終わり、かな? ロザリン」

「ん。魔力反応は、まだ微量にある。時間が立てば、また再生するかもだけど、それは時間がかかるから、今日のところは大丈夫」

「そうですか……しかし、これは一体? スケルトンなんて、自然発生するモノではありませんのに」


 サーベルを納めつつ、プリシアも恐る恐る室内を見て回る。

 辺り一面、砕け散った骨の山。靴底から踏みつけ、砕ける骨の嫌な感触が伝わり、ゾクリと鳥肌が立つ。


「多分、この瘴気に当てられて、白骨化した死体が、魔物化したんだと、思う」


 魔力を帯びた濃い瘴気を吸収することで、魔物化することは在る得る事。

 この遺跡内の瘴気は人体に影響の出る濃度では無いが、それでも年単位でこの場に留まれば、蓄積された瘴気の影響で、魔物化してしまうだろう。スケルトン達も、元を辿れば遺跡を訪れた、盗掘家達だと予測される。


「お目当ては、この扉の先、か」


 三人の視線が、部屋の奥の扉に向けられる。


「スケルトン自体が瘴気の発生元では無いようですから、恐らく大本は遺跡の更に奥に存在するのでしょう」


 プリシアは、緊張気味にゴクッと喉を鳴らす。


「ド、ドラゴンとか、いたりしませんよね」

「瘴気を纏ったドラゴン、なんて、聞いたこと、無い」

「た、例え話ですッ!」


 ジト目で突っ込まれ、頬を染めながらプリシアは否定する。

 二人の姿を見て、仲の良さにアルトはククッと含み笑いを漏らした。


「さて、どうするリーダー。この先、調べるのか?」


 問いながら、アルトは親指で扉の方を差す。

 プリシアは難しい表情をすると、両腕を組んで逡巡する。

 一応、危惧していた危険な存在、スケルトンはこの場で無力化することが出来た。

 ロザリンの話では、復活までに数日は要するみたいだし、ここは一度外へ出て騎士達と合流し、王都からの増援を待った方が無難だろう。

 しかし、


「……このまま進みましょう」


 プリシアは先に進むことを提案した。

 その決断に、ロザリンはちょっとだけ驚いた顔をする。


「プリシア、もっと、慎重派だと、思ってた」

「まぁ、普段はそうなのですが……」


 指摘され、プリシアは苦笑いをする。


「本来なら一度、外に戻った方が良いのでしょうが、やはり好奇心とでも言いましょうか、先が気になってしまって……」


 ポリポリとバツが悪そうな顔で後頭部を掻いてから、真面目な表情へと切り替える。


「好奇心は半分ですが、ギルドかたはねのサブマスターとして、ここは先に進むべきと判断しました。何の情報も無い以上、ここで引き返して時間をロスした場合、取り返しのつかない事態になる可能性もあります。それに……」


 アルトに視線を向け、ニコリと微笑む。


「戦力的に、ドラゴンが出ても対処できると、私は兄様を信じてますから」

「……さよか」


 信頼の眼差しを受け、アルトは肩を竦めた。

 面倒臭いが、年下の女の子にかけられた期待を裏切るのは、男の矜持にかかわる。

 ロザリンに視線を向けて問うと、彼女もプリシアの意見に同意らしく、真剣な眼差しで頷いた。


「んじゃ、調べてみるか……ま、物騒なモンが出るとは、まだ決まってねぇしな」


 三人は頷き合い、扉へと近づく。

 周囲の壁と同じ材質で作られた扉は、僅かに隙間が空いていて、アルトが両手をそこに差し込むと、力を込めて左右に押しのけた。

 重苦しい音が響き、分厚い石の扉が開かれる。

 奥の部屋から、淡い光が差し込む。どうやら、光源があるらしい。


「ふんっ……にぎぎッ……ひ、らいたぁ!」


 重い石の扉を何とか全開まで開いた先には、スケルトンのいた部屋より遥かに広い空間が広がっていた。

 広い闘技場に似た円形の空間には、壁に複数の光球が浮いていて、全体を照らしていた。

 古い歴史の遺物を目の当たりにして、三人は目を奪われるが、すぐにその表情は嫌悪に強張る。


「――くっ!? こ、また、瘴気がッ!」


 先にフロアは更に濃い瘴気が満ちていて、諸にそれを浴びたアルトは青い顔をして口元を手で押さえた。

 更に、異変はそれだけでは無い。

 いち早くそれを察知したロザリンは、アルトのコートを引っ張り叫ぶ。


「アル! 上から、何か来るッ!」


 瞬間、天井の方から巨大な何かが降って来て、フロアを、いや遺跡全体を震わせた。

 揺れる地面の振動にバランスを崩す二人を、アルトは腕や襟首を掴んで支える。

 アルトも揺れる地面に膝を落としそうになるが、何とか堪えて、地震の原因である正面に降ってきた物体を睨み付けた。


「……おいおい、マジかよ」


 思わぬ光景に、引き攣った表情のアルトが、上擦った声を漏らす。

 視線の正面に佇むのは、青い甲冑を装備した騎兵。

 いや、騎兵と言うのは正確では無いのかもしれない。跨る騎馬には頭が無く、下半身の無い青い甲冑がそのままくっ付いている。まるで、鎧で作られたケンタウロスのような姿で、脇の大きなスピアを携えていた。

 全身に青い炎のような魔力を纏う青い甲冑は、三メートルを超える巨大な姿をしている。

 明らかに、人の規格を逸脱した魔物だ。

 甲冑の魔物は、反響を繰り返すような音を響かせる。


『……ググッ。聖域を犯す、者に、死を……』


 耳が痛くなるような、雑音混じりの声に、三人は顔を顰める。


「おいおい、あのデカいの、随分と物騒なこと言ってるぞ」

「ぐっ……アレ、正気じゃ、無い。瘴気にあてられて、暴走してる」


 敏感に狂った魔力を感じ取ってか、ロザリンが苦しげに呻く。

 甲冑の魔物が長いスピアを一振りすると、石畳の床を割って、前のフロアと似たようなスケルトンが複数現れた。

 アルトは舌打ちを鳴らしながら、腰の剣を抜く。

 どうやら、テイタニアと戦ったぶり依頼に、手応えのありそうな手合いと、やり合う羽目になりそうだ。






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