第82話 プリシア班、遺跡調査へ
まだ日も明けきらぬ早朝。
東街から外に続く門の前には、数名の人影が立っていた。
正式に、騎士団から遺跡調査の依頼を受けて、今から遺跡に向けて出発しょうとするギルドかたはねの面々と、その見送りの人達だ。
と、言ってもかたはねの正式メンバーは、プリシアのみなのだが。
残りは同じ班のカレンとルチア、そしてお目付け役をゲオルグから言い渡されたアルトと、その相棒ロザリンの計五名が、旅支度……と言ったら大袈裟だが、確りと装備を整えて薄暗い門の前に揃っていた。
一応、何かあった時の為に、食糧などは多めに準備してある。その分、荷物も多くなるが、プリシアが馬を一頭借りてきたので、運ぶ手間はなさそうだ。
流石に、夜明け前ということで、全員眠そうな表情をしている。
見送りに来ているのは、カトレアと頭取、そして頭取の車椅子を押す、ギルドの若い衆の三人だけ。
眠そうな皆の顔を見て、カトレアは心配そうに右手を頬に添える。
「本当に大丈夫なの? 大河に近い街道は安全だけど、ボーッと歩いてると、通りかかった馬車に轢かれるからね」
「歩いてりゃその内に目を覚ますよ……ふわぁ」
面倒臭げに手を振ると、言った側から大欠伸をする。
むにゃむにゃと目尻を指で擦るアルトに、目を細めながら側に近づいたカトレアは、首元に手を伸ばすと、皺になっているコートの襟を確りと直した。
されるがままのアルトを、カトレアは呆れ気味に見上げた。
「アンタがそんなザマじゃ、安心して見送れないんだけど……はぁ。仕事さえ無ければ、あたしもついて行くんだけどなぁ」
今日はかざはな亭に宴会の予約が入っており、ランドルフからくれぐれも休まないようにと、釘を刺されているので、カトレアは仕方なく見送りをするだけだ。
「はい。これお弁当。お腹すいたら食べてね」
手に持ったバスケットを、眠気で目がまだハッキリ開いてないアルトに、無理やり押し付ける。
「おお。悪いな」
「日持ちしないヤツだから、夜までに全部食べること。まだまだ暑いんだから、ケチって少しずつ食べようなんて、思わないでよね? 傷んじゃうんだから。それから……」
あれやこれやと、カトレアは世話を焼く。
普段だったら子供かと嫌がるところだが、眠気に負けているアルトはされるがままだ。
「……甲斐甲斐しいことだわ。素晴らしい、愛ね」
一連のやり取りを見ていたルチアは、ほふっと吐息交じりに恍惚の表情を見せた。
カレンも歯を見せて、キシシと楽しげに笑っている。
「モテるねぇ、兄様。こんな甲斐性なしがなぁんで人気なのか、アタシは理解出来ないんだけど」
「ふむ。世話好きの女性に、好かれる傾向があるようなのだけれど……カトレアさん、そこのところは如何なのかしら?」
「本人に直接聞くなんて、いい度胸してんじゃないの」
コイバナには目敏い女学生二人に、カトレアは思わず苦笑いを浮かべた後、軽く手首をぷらぷらと振った。
「んなもん、ノーコメントよ」
過度に怒ったり照れたりせず、カトレアは大人の対応を見せる。
二人はちょっと残念そうな顔をして、今度は視線をもう一組へと向けた。
視線を向けた先には、向い合せに立つロザリンとプリシアの二人だ。
「ほら! 髪の毛が跳ねてるじゃないですか。ちょっと待っててください」
「いい。自然と、直るから」
「駄目です。ほら、動かないで……もう。朝、少し櫛で梳くだけでいいのに、何でそれが出来ないんですか」
「ん。めんどい」
「その一言で私が許すのは兄様だけです! もう、全くもう!」
眠そうな顔をしてゆらゆらと立っている、ロザリンの回りを忙しなく動き回りながら、プリシアは甲斐甲斐しく世話を焼いている。世話好きな彼女のことを良く知る二人からすれば、珍しいことでは無いが、カトレアは唖然とした様子を見せる。
「……どうしたの、あの二人?」
「さぁ。でも、先週カジノから戻って来た時には、あんな様子だったわよ」
世話を焼く孫の姿に目を細めて、頭取はクスクスと笑みを零した。
目が覚めてきた様子のアルトは、ボリボリと頭を掻く。
「ま、仲が良いぶんにゃ、構わないんじゃねぇの」
「ん~、まぁ、そうね。そうだわね」
納得して、カトレアは嬉しそうな表情で二人を見つめる。
色々と気を揉んでいたが、どうやら落ち着くべき場所に落ち着いたようだ。年の近い者同士、回りが気にせずとも、切っ掛けがあれば直ぐに仲良くなれる。
同年代の友人に、縁の無いカトレアには眩しく、ちょっぴり羨ましい光景だ。
「さて。あんまダラダラしてっと、日が昇っちまうな。気温が上がる前に、ある程度進んでおきたいし、そろそろ出発するか」
アルトが声を掛けると、皆が馬の回りに集まり出した。
いざ出発直前というところで、改めて見送りの二人に視線を向けた。
この班のリーダーとして、プリシアは一礼した後、三人に礼を述べる。
「お見送り、ありがとうございます。お婆様、カトレアさん。それでは、言ってまいります」
「はーい。気を付けてね」
「確り、自分の務めを果たすのですよ……アルトも、皆をよろしく」
「へいへい」
頭取の言葉に軽く返事して、プリシアの「それでは、出発しましょう」という合図の元、王都の外へと歩みを進めた。
手を振るカトレア達に見送られ、いざ、遺跡へ。
★☆★☆★☆
日はすっかり昇り切り、周囲の気温も段々と汗ばむ温度になってきた。
エンフィール王国内を旅するにあたって、他国との一番の違いは、やはり水だろう。
ある程度の知識と技術があれば、よほど枯れた土地では無い限り、命を繋ぐ程度の食糧は確保出来るが、飲み水となると、話は違ってくる。
川や水辺で飲み水を確保するのは、旅人にとって必須のことだが、見つけた水辺が必ずしも飲み水に適しているとは限らない。汚染されている場合もあるし、旅慣れた冒険者や飲み慣れた場所の水ならともかく、初めて訪れる土地の生水は、高確率で腹を下す。下手をすれば、命に係わるだろう。
だが、エンフィール王国の水は、水神リューリカの加護を受けている為、王都からよほど離れた場所じゃない限り、赤ん坊が飲んでも問題無いほど浄化されている。
とりわけ大河沿いの街道なら、まず間違いなく行き倒れになることは無い。
おまけに加護のおかげで魔物も出ないから、初めての冒険には適しているだろう。
危険が無い、と言う意味だけなら。
旅支度をした重い恰好で、何時間も歩くのはかなり体力が削られる。慣れているアルトとプリシアはともかく、カレンとルチアは苦しげな表情をしていた。
「……はひ、はひ。まだつかないのぉ~?」
完全に息が上がっているカレンが、掠れた声を上げる。
横を歩くルチアも、無言で同意するよう首を縦に振る。喋るのも億劫なのだろう。
「もう少しですから、頑張ってください」
「もう少しもう少しって、さっきからそればっかじゃんかよ~」
「……まぁ、お約束の、台詞よね」
苦しいなら黙っていればいいのに、ルチアはわざわざ口に出してつっこむ。
二人の服装は夏場でも、厚手の服を着込んで、軽装ながら中に防具も仕込んである。
安全な街道とはいえ、遊びに行くわけでは無いので、普段と同じ恰好というわけにはいかない。
おまけにルチアは、腰の護身用の剣を装備しているのだから、大半の荷物は馬に背負わせているとはいえ、行軍の訓練を受けた騎士科の生徒で無ければ、この装備で長時間歩くのはしんどくて当たり前だ。
剣を持って重い装備をしているのは、プリシアも一緒なのだが。
カジノの時は騒動の所為で、すっかり棚上げになっていたのだけれど、今日こそはアルトがプリシアに相応しい相手か、見極めようと思っていたのだが、この様子では目的どころでは無いだろう。
「も、もう少し、ゆっくり歩こうぜ~」
「そうして上げたいのは山々ですが、これ以上ペースを落とすと、到着予定が昼を過ぎてしまいます」
「それでもいいじゃん。キャンプの用意はしてきたんだから」
「駄目です」
ごねるカレンに、キッパリとした口調で言い放つ。
「日が完全に落ちる前に、キャンプの準備は整えておきたいし、明日は昼には出ないと夕方までに王都へ戻れません。明後日は学校、レポートをまとめる手間だってあるんですから。それに……」
「あ~っ、もう! わかりました。わかったから、お説教はマジ勘弁!」
疲れの苛々もあってか、カレンは叫びながら両手で頭をぐしゃぐしゃっと掻き乱す。
班のリーダーとして間違った判断をしたつもりは無いけれど、唇を尖らせるカレンの姿を見て、ちょっと言い方が厳しすぎたかなと、プシリアは少し落ち込んだ表情を見せるが、側に近寄ってきたルチアが苦しげな声で耳打ちする。
「大丈夫、よ。苛々している内は、まだ余裕だから。どうせ後で思い返して、後悔、するんだから、気にしないであげて」
「……はい」
ルチアの気遣いに、プリシアはぎこちなく笑って頷いた。
疲れていても、こういったフォローを常日頃から忘れない辺り、三人の中でルチアが一番、大人なのかもしれないと、プリシアは内心で自分の口煩さと自責した。
ふと、視線を前に向けると、馬を引くアルトと並んで歩くロザリンが目に映る。
相変わらずの黒マントに蝙蝠傘。
「あの娘は、元気ですね」
ポツリと呟く。
他のメンバーより軽装ということもあるが、やはり森育ちは長時間歩くことに慣れているのか、他の二人とは違い疲れた表情をしていない。
単に表情が出辛いだけ、かもしれないが。
少し歩く速度を上げ、プリシアはロザリンの横へと並ぶ。
気づいたロザリンが、顔を向ける。
「ん? どうした、の?」
「いえ。ロザリンは、疲れていないんですか?」
素っ気ない問いかけに、ロザリンは無表情のまま、プリシアの顔を覗き込む。
ぱちくりする視線に、居心地の悪さを感じて、ロザリンは顔を顰めた。
「な、何ですか」
「……心配して、くれてる?」
「うぐっ」
事実、その通りなのだが、指摘されると妙に気恥ずかしくなり、プリシアは頬を染めて黙り込んでしまった。そして何故、黙り込んだのか理解出来ないロザリンは、不思議そうに眉根を寄せ、顔を見つめたまま首を傾げる。
二人の様子を見ていたアルトは、思わずクッと笑いを漏らした。
「に、兄様っ!?」
「いやぁ、何時もは素直なプリシアにしちゃ、面白い反応だって思ってな。笑って悪かった」
「い、いえ、別にそんな……」
カアッと更に頬を赤く染め、プリシアは照るように俯いてしまった。
それに訝しげな顔をしたのは、横と後ろの計三人。
特に疲れた顔をしている二人は、ジト目をプリシアの背中に向けていた。
「何時もは素直、ねぇ……どうやら、でっかい猫が紛れ込んでるらしいわ」
「まぁ、それはそれで可愛らしいのですが、あまり無理をして偽りすぎると、後々で後悔しますよ?」
「あ~な~た~た~ち~ぃ!」
ギロッと後ろを睨み付けると、二人は素知らぬ顔でそっぽを向いた。
「おいおい。騒いでっと、余計に疲れるぞ?」
苦笑気味に言うと、何故かロザリンが驚いたような表情で見上げてきた。
「なんだよ、その面は」
「凄い。アル、ちゃんとした、大人みたい」
「うるせぇよ。俺はやるときゃ、やる男なの」
「そうです、よッ!」
アルトの言葉を肯定しながら、プリシアが並んで歩く二人の間に割り込み、腕に絡みつくよう抱き着いた。
「兄様は、頼りになる方なんですから」
「おおっ。そんなこと言ってくれんの、お前だけだぜプリシアぁ」
「えへへ」
頭をグリグリと撫でられて、プリシアは嬉しそうにはにかんだ。
後ろの友人二人は、蕩けきった親友の情けない姿に、砂でも口から吐き出しそうな顔をしていた。
そしてロザリンは、むぅと少し不機嫌な顔をしていている。
汗ばむ日差しの下、旅路と呼ぶには、何とものどか過ぎる光景だろう。
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そうこうしている内に、何とか昼前には目的地に辿り着くことが出来た。
途中、アルトに甘えたりはしていたが、そこは真面目なプリシア。ちゃんと歩くペースは計っていたらしい。
街道を外れた先にある、鬱蒼とした森の入り口。
木々が生い茂る森を切り裂くように、不自然が形で人が出入り出来る道があった。
恐らくは事前に、騎士団が道を切り開いていたのだろう。
その証拠に数名の騎士達が、見張るようにその入口に立っていた。
騎士の一人がアルト達の姿に気がつくと、厳しい表情と共に手に持った槍で道を塞ぐようにして声を上げた。
「止まれ。ここより先は、王国騎士団の命により封鎖されている。用が無ければ、早々に立ち去れ」
厳しい口調だが、決して脅しつけるような感じでは無い。
ちゃんと職務として、入口の見張りをしているのだろう。
一行は足を止めると、まずはプリシアが見張り達の前に歩み出た。
「ご苦労様です。我々は騎士団総団長ゲオルグ閣下からの依頼により、遺跡調査を任されたギルドかたはねの者です……証明書を」
言って、プリシアは鞄から取り出した証明書を見張りに渡す。
メンバーの構成を見て訝しげな顔をするが、証明書を確認して表情は一変。直立不動となり、敬礼をした。
「確認しました。お話は聞いています……しかし、此方の方々で、全員なのでしょうか?」
見張りは困惑した様子で、遠慮がちにアルト達を見る。
無理も無いだろう。アルト以外は女子供の集団で、遺跡の調査をするには人数も少なすぎる。
疑った視線を向けないのは、署名にゲオルグの名が直々に使われているからだろう。
とは言え、このような反応、プリシアにはお手のモノだ。
「今回は簡単な下調べがメインですので、少数の構成で参りました。それに、隅々まであら捜しするのは、女性の方が得意なんですよ?」
「なるほど……確かに妻も……いやいや、失礼しました」
軽い冗談に見張りの困惑も和らぎ、笑顔を覗かせていた。
慣れた手腕に、ロザリンは内心で感嘆の声を漏らす。
「この先を真っ直ぐ行けば、遺跡に辿り着けます。一本道だし、距離も近いので迷うことは無いでいしょう。本日は、此方でキャンプを?」
「はい。その予定です」
「でしたら、終わったらお声を掛けて下さい。騎士団のキャンプ地にご案内しますので」
「ありがとうございます」
「いいえ。その他にも、何かあったらご遠慮なく声を掛けて下さい。上からもそう命令されていますので……それでは、お気をつけて」
もう一度敬礼する見張りに見送られ、五人は森の中へと入っていく。
薄明りの漏れる森の中は、清涼な空気に満ちていて、呼吸をする度に疲れ切った身体に活力が戻るような不思議な感じがした。
葉擦れや小鳥の囀りなど、森の中は意外と賑やか。時折感じる気配は、奥に住む小動物だろう。妙な気配は感じないから、魔物や凶暴な獣類は、近くにはいないらしい。勿論、警戒を怠ってはいけないが。
騎士達が丁寧に道を切り開き、均してくれたおかげで、随分と進みやすい。
森の涼しい風と空気の恩恵か、足取りも軽くなり直ぐに道を抜け遺跡のある場所にまで出ることが出来た。
「……これは」
開けた場所に出て、プリシアは感嘆の声を漏らす。
台座のような形をした、大きな石造りの建造物。雨風に晒されてきたからか、ゴツゴツとした表面が年季を感じさせる。
「こりゃ、思ってたより随分とデカいな……こんなのがよく、今まで見つからなかったモンだ」
「大河が近くにあるから、意外に盲点なのかもしれませんね。王都を行き来するなら、普通は大河の船を利用しますから」
なるほど、とアルトは納得する。
「そんなこと、どうでもいいよぉ……疲れたぁ~。ちょっと休憩してもいいよね?」
目的地に到着したことで、気が抜けたのかカレンとルチアはその場にどっしりと腰を下した。
靴を脱いで疲労の溜まった足を揉み解す二人に、アルトは苦笑しつつ馬を引く。
「んじゃ、俺はコイツを繋いでくる」
「はい。では、少し休憩したら、ご飯にしましょう。ロザリン、準備を手伝ってくれます?」
「ん。わかった」
まだまだ余裕のある三人は、テキパキと次の行動に移る。
普段は駄目な大人のアルトも、昔の経験が生かされているのか、随分と頼りになるように見えた。
馬から降ろした荷物を整理しながら、ロザリンは居心地の悪そうな表情をしている二人に視線を送る。
「ここは、やっとくから、二人は休んでて」
「……ごめん。息、整えたら、すぐに手伝うから」
「申し訳ないわ。プリシアも、ごめんなさい」
「な~に言ってんですか」
腰に手を当てて、プリシアは呆れたように言う。
「適材適所です。ご飯を食べ終えたら、ちゃ~んとこき使ってあげますから、今は確り休んでてください」
微笑むプリシアに、二人は顔を見合わせて苦笑した。
★☆★☆★☆
出かけにカトレアから渡されたお弁当を食べ終え、食休みとして暫し小休止した後、いよいよ遺跡調査が始まる。
と、言っても専門的なことが出来るわけでは無いので、とりあえず遺跡の外周をグルリと回ってみることにした。ゲオルグの話では、本当に何も手付かずの状態らしいので、どの時代の誰が、どのような目的で作られた建造物なのか、全く不明だそうだ。
五人はゆっくりとした足取りで、遺跡の周囲を巡る。
「ふむ。パッと見た印象では、さほど古い遺跡では無い様子ですが……兄様は、どう思います?」
「ん~、そうだなぁ」
腕を組み、アルトは遺跡を見上げる。
昔、竜姫と共に旅をしていた頃、遺跡を巡る機会は何度かあったが、竜姫本人があまり歴史や遺跡に興味を抱かなかった為、自然と自分も興味を持ってこなかった。
だから、正直言って、アルトの知識は女学生達と同じ、いや、それ以下かもしれない。
「少なくとも、あんま見たこと無い遺跡ってことくらいしか、俺にはわからん。ロザリンは?」
問われて、ロザリンは首を左右に振る。
「遺跡は、専門外」
「さよか」
視線を他の二人に向けるが、カレンは苦笑い、ルチアも困り顔で首を左右に振った。
どうやら遺跡に造詣が深い人物は、このパーティに皆無な様子だ。
その惨状に、アルトは呆れ顔で頭を掻く。
「おいおい。誰か一人くらい、遺跡に詳しい奴、連れて来るべきなんじゃないのか?」
「ははっ。確かにそれは、そうなんですけど、当初の目的は学校の課題提出の為ですから。専門家の方が同行すると、ちょっと」
「そういや、そうか」
恐らくゲオルグもその辺りのことは理解しているだろうから、専門家のような調査情報は必要ないだろう。報告書の体裁さえ成していて、危険か安全かの有無を記してさえあれば、特に問題は無い筈だ。
そう考えると、途端に気が楽になって来た。
「んじゃ、そんなに焦ることもねぇのか」
「はい。ですが……年代も何もわからないのは、少し困ってしまいますね」
プリシアは軽くため息を吐く、
課題内容はエンフィール王国の歴史についてなので、この遺跡が作られた時代背景がわからないのでは、レポートの書きようが無い。
「でも、遺跡を、調べようって、言いだしたんでしょ?」
「はい。本来、エンフィール王国の遺跡は、年代事に特徴がはっきりとわかれているから、調べること自体は難しく無いのだけれど」
「この遺跡、その特徴に何も当てはまらないんだよ」
ルチアの言葉に続けて、カレンが答えた。
自然とロザリンの視線が遺跡に向く。
「全く、新しい年代の、遺跡ってこと?」
「ん~。それもどうなのでしょう」
歯切れ悪く、プリシアが首を傾げる。
「発見されて無い時代となると、それは随分昔、それこそ古代を通り越して、神代の時代まで遡ることになりますが、流石にそこまで古い建物には見えません」
「だったら、偶然、手法が違っていた、とか」
「あり得なくはありませんが、ここまで王都に近い場所の遺跡ですと、素直に頷き辛いですねぇ」
「それなら……」
「そうですと……」
ポンポンと二人は、考察を交え遺跡に関する意見交換を繰り返す。
頭の回転が速い二人だけに、実にテンポの良い会話の流れだ。
おかげで残りの三人が、全く会話についていけてない。
「なに、あれ。外国語?」
「カレンはもう少し、歴史のお勉強をなさった方がいいわね……まぁ、会話に割り込めない私が言うのも何ですが……あら?」
ボヤいている途中、ふとルチアは何かを視界に納めた。
足を止めたルチアに気がつき、皆も歩みを止めて振り返ると、ルチアは地面に膝をついて遺跡の壁をマジマジと見つめていた。
「何よ、ルチア。歴史的な証拠でも見つけた」
茶化すカレンの言葉に、ルチアは真面目な顔で頷いた。
「ええ。歴史的、とは違うけれど、何かの手掛かりになりそうなモノなら……」
ルチアが指差す先に、皆の視線が集まる。
光の加減でわかり辛かったが、よく目を凝らして見ると、指差した部分だけ敷き詰められた石の色合いと大きさが、他と異なっていた。
「……えっと、これが、何か?」
全くピンと来てないカレンが、戸惑いながら問いかける。
興味深げに覗き込んだアルトは、壁の様子を観察し、ふむと声を漏らす。
「なるほどね……こりゃ、後から塞がれた穴だな。上手くカモフラージュしちゃいるが、ここ数年ってところか」
「わかる、の?」
「ま、これくらいはな」
アルトは身体を起こすと、周囲を見回してから、また遺跡を見上げた。
「なぁ。この遺跡、入口っぽいところ、何かあったか?」
「いえ。それらしい場所は、確認出来てません」
「ってか、入れんの、これ? 大きいって言っても、二階建て民家くらいの大きさだし、石を積み重ねて作ったんなら、中は大分狭いんじゃない?」
「確かに、同意ね……でも、中に入れるとするなら、もしかしてここが入口?」
「いや。ここ数年って、言っただろ」
顎を摩り、少しだけ厳しい視線でその部分を睨んだ。
「こりゃ、盗掘された後だな」
「盗掘って……この遺跡、既に人の手が入っているってことですか?」
「多分な」
アルトは頷くが、納得出来ない部分もあった。
穴を塞いだ場所を見る限り、最近のモノでは無い。だとすれば、何故、最近までこの遺跡の存在が明るみに出なかったのかが疑問だ。
新しい遺跡の発見は盗掘家が情報を売る場合や、彼ら自身の吹聴から噂となって届く場合も多い。手付かずの遺跡ならともかく、既に盗掘されて何年も立っている遺跡が、今まで誰も知らなかったのは少し不自然だ。
「何も、無かったから、噂にも上らなかったとか?」
「俺だったら、せめて元を取ろうとして、遺跡の情報を学者に売るな……それに、きっちり入った後を塞いでるのも気になる」
既に発見されている遺跡ならともかく、見つかっても無い遺跡を盗掘したにしては、後が丁寧過ぎる。
よほど真面目な盗掘家なのか、あるいは……。
「何か、良く無いモノが、出てきた」
ポツリと零したロザリンの言葉に、重い雰囲気が宿る。
自然と五人の視線は、壁の一点に注がれた。
簡単な筈の遺跡調査に、何やら怪しげな気配が漂ってきた。




