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小さな魔女と野良犬騎士  作者: 如月雑賀/麻倉英理也
第1部 天楼奈落

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第52話 能天気通りの心意気






 水晶宮の中枢にある、騎士団の重要な案件を議論する円卓の間。

 数ある英雄と呼ばれる騎士達が、日々熱弁を交わした場所から、一人の女性が肩をいからせて飛び出して来る。

 騎士団の文様が刻まれた扉が、乱暴に閉ざされ、女性は不機嫌なオーラを滲ませて、早歩きで廊下を進む。

 女性はシリウス・M・アーレン第四騎士団団長だ。

 ただでさせ近寄り難い雰囲気を持っているシリウス。特に白銀の甲冑を身に着け、騎士団長としての業務についている時の彼女は、部下達は勿論、同僚の騎士団長達すらも声が掛け辛い。

 特に今は、表情に怒りを張り付けている為、声どころか視線すら合わせられないだろう。

 そんな彼女に声をかけられる人物など、この王都では数人しかいない。


「――待って。待ってってば!」


 扉を開き、慌てて後を追ってきた数少ないその男、シエロが声を掛ける。

 しかし、シリウスは無言のまま、ずんずんと足を先に進めた。


「聞こえているのに無視するなんて、ちょっと酷いんじゃないかい?」


 言葉とは裏腹に、声に咎める意思は無く、シエロは温和に語りかける。

 騎士団長という立場についてからは、随分と減って来たが、昔は今よりずっと沸点が低く、感情的に怒りを露わにすることは珍しく無かった。

 主に怒らせているのは、何処かの野良犬騎士なのだが。

 そんな時に仲裁に入るのが、もっぱらシエロの役目。周囲もすっかりその認識なのか、現在でもこうしてシリウスが機嫌を損ねた時は、回りの騎士達の視線が真っ先に、シエロの方へと向けられる。

 難儀な話だが、今日は少しばかり、勝手が違いそうだ。


「シリウス……シリウスってば」


「聞こえているわ。何度も人の名前を呼ばないで」


 ようやくつれないながらも、問いかけに返答してくれた。


「会議はまだ終わってないのに、何処に行くつもりだい?」

「決まっているでしょう。北街よ」


 予想通りの答えに、シエロは嘆息する。

 その間も、シリウスは足を止めていない。


「……話、聞いてなかったのかい?」

「聞いていたわ。聞いていたから、私自ら北街に赴こうというのよ」


 冷静さを装ってはいるが、口調の端々から怒りが漲っている。

 これは相当怒っているようで、宥めるのに骨が折れそうだと、シエロは頬を掻いた。

 事情を考えればシリウスが怒るのも無理は無いし、心情的なことだけで言えば、シエロも今すぐに北街に乗り込みたいのだが。

 大人の事情が関係して、そうもいかない。


「情報の真偽が定まるまで、全騎士団は待機せよ……総団長命令だよ」


 シエロの言葉に足を止め、クルリとシリウスは振り向いた。

 ギロッと、真正面からシエロを睨み付ける。


「……アルトが北街の、天楼に拉致されたとう情報を持ってきたのは、特務よね?」

「そうだね」

「何故、その場で救出に動かなかった?」


 低い声での問いかけに、僅かな沈黙が流れる。


「……あの時点で、天楼内に特務の工作員が入り込んでいると、彼らに知らせるわけにはいかない」

「それでアルトを見捨てたと?」

「……苛めないでよ、シリウス」


 辛そうな表情を見せ、シエロは視線を逸らした。

 報告を聞いて、シエロも迷った。大怪我を負っているなら、尚更だ。

 しかし、王都の平和を影から守る者として、迂闊な行動を取るわけにはいかない。例えそれで、親友に万が一のことがあったとしても。


「アルトなら迷わず助けに入るわ」

「だろうね。でも……お前は俺じゃないだろ。って、アルトはそう言うんじゃないかな?」

「当然ね」


 頷いて身を翻すと、再び歩き始めた。

 シエロはその背中を追う。


「ちょっと。どうするつもりだい?」

「しれたこと」


 シリウスは真っ直ぐに正面を見据え、当然の如く言い放った。


「今すぐ乗り込んで、天楼を潰すわ。連中がどのような手段を取るつもり知らないけれど、根こそぎ潰してしまえばそれで終わりよ」


 およそ騎士とは思えない発言に、シエロはギョッと驚いて身体を跳ね上げる。


「――ちょ!? ほ、本気で言ってるの!? 明確な証拠も挙がってないのに、そんなことをするなんて、前代未聞だよ。大問題になるし、君だけじゃ無く、動かした騎士団の団員達も処罰されるんだよ?」

「問題無いわ。動くのは私一人」


 無茶苦茶だと、シエロは頭を抱える。

 最近は落ち着いていたのだが、元来、シリウスはこういう女性だ。

 世間では英雄の三傑として、戦女神などと呼ばれ、優美高妙な人物として語り継がれているが、実際は歴戦の猛者ですら裸足で逃げ出す猛将。部隊を指揮するより、最前線で暴れ回っている方が性に合うとう人物だ。

 クールぶってはいるがその実、アルトよりずっと熱くなりやすい。

 戦場で経験を積むことで、そういった猪突猛進な部分は成りを潜めていたのだが、アルトと再会した影響か、また悪い癖がムクムクと顔を出し始めたようだ。

 アルトが囚われているので無ければ、ここまで突拍子も無いことは、言い出さなかっただろうが。

 しかし、それを認めるわけには、シエロも立場上いかない。


「それこそ無茶だよ。君一人で天楼を潰せるなんて……」

「出来ないと思っている?」


 はいと即答出来ないところが、シリウスの恐ろしいところだ。


「で、でも、頭領のシドは過去、何度も戦場を経験している猛者で、報告ではあのボルドも関わっているらしい。幾らシリウスでも、単独で挑むのは危険すぎる」

「そのボルドの所為で、騎士団は動けないのでしょう」


 騎士団が天楼の怪しい行動を掴んでいながら、動けないでいる理由。

 それは、第六騎士団団長アレハンドロ・フォレストと、その後ろ盾である保守派の有力貴族が横槍を入れてきたから。

 何だかんだと理由をつけ、騎士団全体に圧力をかけられ、動きが制限されているのだ。

 無論、殆ど言いがかりに近いモノなので、長いこと制限が続く筈は無いのだが、彼らを操るのがボルドである以上、この遅れは致命的な物になるやもしれない。

 そんな危惧があるのも事実だ。

 だからと言って、こんなに熱くなっているシリウスを行かせるわけにもいかない。


「だから駄目だって」

「私が行くと問題があるのなら、シーさんに行かせる。彼女は一般市民だから、騎士団に行動を制限される謂れは無い」

「そんな言い訳が通じるわけ無いでしょ。総団長だって、今回は見逃してくれないよ」


 シエロの言葉にも耳を貸さず、彼女は歩む足取りを速めた。

 取りつく島も無い態度に、シエロもどうしたものかと困り果ててしまう。

 すると、行く手を遮るように正面に立つ、二人組の姿が現れる。

 正面を塞がれ、シリウスは不機嫌な面持ちで足を止めた。


「ライナ団長に、イリーナ副団長?」


 シエロが驚いた顔をすると、ライナは軽く手を上げて挨拶。イリーナも生真面目に固い表情のまま、ペコリと会釈を送る。

 確か第一騎士団は、団長と副団長が所要で時間が取れないとうことで、代理に人間が円卓の会議に出席していた筈。


「思いの外、用事が早く終わってね。途中参加は不躾かとも思ったけど、色々と不穏な噂も流れているから、顔だけは出しておきたかったんだ」

「……生真面目ね」


 シリウスの呟きが嫌味っぽく聞こえたのか、横にイリーナがキッと睨みつけて来る。

 しかし、当の本人は照れ臭そうに、頭を掻いていた。


「いや、別に真面目ぶっているわけじゃないんだけどな……ところで、急いでいたみたいだけど、もう会議は終わってしまったのかい?」

「……実は」


 余計なことを言うなと、シリウスが横目で睨みを利かせるが、無視して状況をライナに説明した。

 一頻り事情を聞き終えて、ライナは眉根を顰め、シリウスに視線を向けた。


「ああ、そりゃシリウス団長が悪い」


 と、一刀両断。

 シリウスの表情に、不機嫌さが更に増す。


「……マクスウェル団長に言われるのだけは、心外ね」

「そうかい?」

「ええ。だって貴方は、正義マンじゃない」

「――シリウス団長! その物言いはあまりに無礼……」

「よせって」


 堪らず口を挟むイリーナを、片手を差し出しライナが制する。

 そして、困ったように笑みを浮かべ、自分の頭を掻いた。


「正義マンって、俺、そんな風に見えるか?」

「見えるわね。目の前にいる者全員を救わないと気が済まない。そんな面倒な性質でしょ、貴方は。そんな貴方が、アルトを見捨てるような発言をするのは、意外に思っただけ」

「俺からしたら、君の方が意外だけどなぁ」


 心底不思議そうに、ライナは首を傾げた。


「シリウス団長は、あいつがこの程度で折れるような男だと、本当に思っているのかい?」

「――ッ!?」

「……ま、拉致監禁程度じゃ、どうにも出来ないかもね。もしかしたら、監禁した張本人と、仲良くお酒でも飲んでるかもしれないし」


 同意するシエロの言葉に、口には出さないが同じ思いなのか、居心地が悪そうにシリウスは視線を逸らした。

 その姿にクスッと笑みを零した後、ライナは真面目な表情で言う。


「拉致監禁されているのが一般市民なら、俺は騎士として何としても助け出す。けど、相手はアルトだ。俺はそれほど心配はしていない」

「彼は、今は一般市民よ」

「いいや」


 ライナは首を左右に振る。


「あいつは今でも騎士さ。俺はそう思う……勿論、気持ちでの問題だけど」

「……知ったような口で、アルトのことを語らないで」


 睨み付けそれだけ言い残すと、シリウスはクルッとその場で身を翻す。

 急に方向転換して歩き出されて、シエロは戸惑いながら、ライナ達に一礼して後を追いかける。


「ちょ!? シリウス!?」

「戻るわよ。会議、まだ続いているのだから」


 勝手に言い分に嘆息しながらも、機嫌は直った、わけでは無いが、とりあえず矛を収めてくれたことに安堵する。

 慌ただしい二人の後ろ姿を見て、ライナは苦笑を零した。

 そんなライナに、イリーナが微妙な表情で問いかける。


「……よろしいのですか? 天楼が本当にクーデターを企んでいるのなら、その先陣に立つのは団長なのですよ?」

「…………」


 言葉の意味を噛み締めるように瞳を閉じ、ライナは深々と頷いた。

 遅れた理由。それは、総団長が秘密裏に放った、使者と会っていたから。

 第一騎士団は極秘裏に態勢を整え、迅速に動けるよう待機せよ。

 北街が妙な動きを起こした場合、先陣を切って暴徒を鎮圧する。機動力と戦闘力、そしてライナの英雄としての威光を持ち、多少の無理が利く第一騎士団にしか出来ない役割だろう。

 場合によっては、北街が再び戦火に包まれる可能性もある。

 その場にアルトがいるとしたら、そんな状況を放って置く筈が無いだろう。


「構わないさ。どんな理由があれ、その中央にアルトがいるとしたら、俺は状況によっては斬ることは躊躇わない……それは、シリウス団長達には出来ないことだ」


 王都を守るのは騎士や警備隊の役目。

 戦争は終わり、戦う理由の無い者達が武器を取る時代は終わった。

 故にアルトが人を殺せば、それは犯罪なのだ。例え相手が、ボルドのような悪党でも。

 もしも、ライナの目の届く範囲で、アルトが誰かを斬るような場面を目撃すれば、彼は迷うことなく剣を振るうだろう。

 例え誰かに憎まれる結果になろうと、ライナ・マクスウェルは迷わない。

 それが、ライナの持つ騎士としての矜持だから。


「……正義マン、か。今の俺は、昔ほど純粋にはなれないよ。シリウス……」


 自由に剣を振るえるアルトが羨ましと、心内で呟くながらも、ライナ・マクスウェルは真っ直ぐと前を向き廊下を歩み始める。

 自分が進むべき道、守るべき者を間違えないようにと。




 ★☆★☆★☆




「ガツガツガツガツ……」


 カトレアの向ける呆れ顔の視線を受けながら、ロザリンは一心不乱にトマトソースのパスタを掻き込む。

 目を覚ますと、外はどっぷり日が沈んでいた。

 空腹を訴える胃袋の音色に叩き起こされ、慣れない水泳などをした所為か節々が、錆びついた鉄のような感覚だ。

 動く度に痛みが走る身体を強引に起こすと、目の前に座って顔を覗き込んでいたカトレアが、額に青筋を浮かべてにっこりと微笑んでいた。

 一頻りお説教を受けた後、彼女の持ってきた夕食を頂くこととなった。

 びしょ濡れだった服は、カトレアが着かえさせてくれた。あのままで眠り込んでいたら、風邪を引いていただろう。

 寝ている間に自己紹介を済ませたらしく、ラヴィアンローズは当たり前の顔をして、テーブルに座り食事を済ませ、食後のお茶を優雅に飲んでいる。余程気に入ったようだが、一体人の家のお茶を、何杯飲むつもりなのだろうか。


「全く。隊長さんから話を聞いてもしやと思ったけど、危ないことするんなら、誰かに一言伝えておきなさいよ。心配するじゃない」

「んぐんぐ、でも、誰もいなかった」

「伝言くらいは出来るでしょうに……全くもう」


 頬杖をついて、はぁと息を吐く。


「でも、良かったの? 家族サービスの、途中じゃ……」

「こぉら」


 言いかけたロザリンの額を、指でピンと弾く。

 何時も妹や弟達を叱るような態度で、カトレアは頬を軽く膨らませた。


「家族は勿論、大切よ。でもね、能天気通りの皆、特にロザリンと……あ、アルトは、あたしにとって家族も同然なんだから」

「……カトレア」


 ニコリと微笑みかけられ、弾かれた額を触ると、ロザリンは両目をぱちくりさせた。

 不覚にも目頭が熱くなり、鼻の奥がツーンとする。


「……食事、冷めますわよ」

「おっと、ガツガツガツ」


 興味なさげなラヴィアンローズの指摘に、誤魔化すようロザリンは、口元をトマトソースで汚しながら、皿を手に持って残ったパスタを強引に食べる。

 二人は顔を見合わせると、苦笑して肩を竦めた。


「はぐはぐはぐ……んぐっ、ぐぅっ!?」

「はい、お水」


 カトレアから水の入ったコップを受け取り、胸を叩きながら、つっかえたパスタを冷水で流し込んだ。

 朝は全く美味しく感じなかった食事は、今はとても美味しく思えた。

 皿のパスタを綺麗に食べ切り、ほっと一息つく。


「それじゃ、食事も終わったことだし、今後のことを話し合いましょうか」


 カトレアの言葉に、口元を拭って、ロザリンは佇まいを直す。

 そして、真剣な表情でカトレアを見上げると、


「カトレア。この件は、私に任せて……」

「ちょいやっ!」


 スコンと、テーブルの上に乗り出して放つ、カトレアの手刀が脳天に炸裂する。

 まるで、待ち構えていたかのような用意の良い行動だ。


「~~ッ!?」


 頭の天辺を押さえて涙ぐむロザリンを、ジロッと睨み付けた。


「あのねぇ。あんた一人で、どうにかなるようなことじゃないでしょ?」

「で、でも、危ない、よ。あのボルドって人も関わってるし、カトレアに何かあったら、家族の人が、悲しむ」

「……馬鹿ねぇ」


 呆れたように、でも、心遣いが嬉しくて、カトレアは微笑んだ。


「あんたやアルトに何かあったら、あたしは悲しいわよ。それは、店長や通りの皆も一緒だと思うけど?」

「……うん」


 素直に頷いた。通りの人々が、自分を大切に思ってくれているのは、十分に伝わっている。

 けれど、ロザリンには、一つだけ、どうしても消化しきれない気持ちが、胸の奥に渦巻いていた。


「わ、私は、今まで、助けられるばっかりで、誰も助けられて無いから、今度は頑張ろうって、思ってた……だから、最初、皆と会えなかったのだって、ほんとはもっと探せばよかったのに、それを理由に、一人で行動しようとして、ラヴィアンローズに助けられて」


 ラヴィアンローズは素知らぬ顔で、黙ってお茶を啜る。


「それでも、出来ることを、頑張ってみようとして、結局駄目で……私、私、どうしたら、いいんだろうって……アルに、皆を頼むって、お願いされたのに、その期待に応えられないのが、悔しくて、悔しくて……」

「……ほんと、馬ッ鹿ねぇ」


 二度目や優しい口調で、軽くロザリンの頭に手刀を落とした。


「それはさ、アルトが悪い。皆を頼むなんて言われちゃったら、気合を入れ過ぎちゃって当然よね。一人で何でもやろうとするアイツの悪い癖……でもね」


 不意に、寂しげな視線を向ける。


「そんなアイツに頼まれるなんて、あたしは少し、ロザリンが羨ましいかな」

「……カトレア」

「わたくしもアルトに頼られましたわ! ……金銭が絡みますけど」


 何やら対抗意識を燃やして、急にラヴィアンローズが胸を張って、話に割り込んでくる。

 それはちょっと違うだろうと、二人はジト目をラヴィアンローズに向けた。

 コホンと咳払いをして、話を元に戻す。


「誰だってさ、一人で出来ることなんて限られてんだから、あたし達を頼りなってこと。だからさ、あたしらだけじゃアルトや街を助けられないから、ロザリン。あんたの力、貸してくれないかな?」

「うん! ……うん」


 涙声で、ロザリンは何度も力強く頷いた。

 その姿を見てカトレアも、歯を見せてにひっと笑う。

 もしかしたらマグワイヤは、こうなることを予見して、わざわざカトレアを探し声をかけてくれたのかもしれない。

 やっぱりあの人は、良い人だと、ロザリンは心の中で感謝を繰り返す。

 ちょうど会話が纏まったのを見計らったように、入口のドアがノックされると、ロザリンが返答するより先に扉が開かれた。


「お邪魔するわね」

「……全く。話と食事が長いんですよ」


 現れたのは、車椅子に乗った頭取と、それを押す不機嫌面のプリシアだ。

 突然の訪問に、ロザリンは驚いた顔をする。


「二人共……なんで?」

「ふふっ。私達だけじゃ、無いのよ?」


 意味ありげに頭取が微笑むと、その後ろから更に人影が現れた。


「水臭いっすよロザリンさん。困った時はお互い様っすから、オイラを頼って下さいよ」

「ウェイン」

「ロザリン殿。隊長の命により、不肖このクランド。助力に参りました」

「クランド」

「やれやれ。この歳になってのハードスケジュールはキツイんだけど、他ならぬロザリンの為なら、オジサンも断れないよね」

「店長」


 姿を現した計五人の姿に、ロザリンはポロポロと涙を零す。


「な、泣かないでくださいよぉ。何だか、私にまで、移っちゃうじゃないですか」


 引き摺られて、何故かプリシアも涙目になりながら、仏頂面でハンカチを手渡す。

 受け取ったそれで、チーンと勢いよく鼻をかむ。


「ギャーッ!?」


 お約束を経て、涙を拭ったロザリンは、皆を見渡す。

 そして、ペコリと頭を深く下げた。


「色々な事情で、街が、王都が、アルが、大変です。でも、一人じゃ何も出来ないから、どうか力を、貸して下さい」


 ロザリンの言葉に、その場にいた全員が迷うことなく頷いた。

 胸が熱くなるのがわかる。

 一人で何とかしなくちゃと空回っていた自分が、馬鹿みたいだ。


「時間は、あんまり無いけど……皆となら、やれる、よね?」


 見えてきた光明に、ようやくロザリンは希望を見出した。

 一人で敵わないことならば、皆で頑張ればいい。

 これこそ、能天気通りの心意気。

 改めて実感したそれを胸に、ロザリン達の本当の闘いが、今幕を開けた。






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