第44話 すれ違う二人
かざはな亭を飛び出したロザリンは、家に戻り、そのまま部屋に閉じ籠っていしまった。
と言っても、二階の部屋にはドアが無く、階段を昇ればすぐにロザリンの私室。
なのでロザリンがわざわざ、何処からか持ってきた、デカい立て板で階段の出入り口を塞ぎ、室内に入れないようにしていた。
上に何か重い物を乗せているらしく、押してもピクリともしない。
日が暮れて夜になり、かざはな亭の営業が終わり戻って来ても、ロザリンが部屋から出て来た様子は無かった。
居間には家主のアルトと夕飯を届けに来たカトレア、そして偶然様子を見に来たウェインだ。
ソファーに座ったウェインは後ろを向き、階段の方へ心配そうな視線を向けた。
「ロザリンさん、大丈夫っすかねぇ」
「さぁな。ま、腹が減ったら出てくるだろうさ」
一応、軽く事情を聞かせたウェインに、アルトは普段通りの口調で答えた。
けれど、何でヘソを曲げているのか、いまいち理解出来ていないアルトは、面倒臭そうな表情でソファーに寝そべる。
「ったく。何を怒ってんだか……なぁ、ウェイン。お前、話聞いてたんだから、何か思い当るようなこと、あったか?」
「そ、そんなことオイラに聞かれても……」
困り顔で、ウェインは眉根を寄せる。
確かに、その場にいたわけでも無いウェインに、意見を求めるのは酷かもしれないが、心当たりのある人物は、どうも教えてくれそうに無い。
ロザリンの為に持ってきた料理を、お皿に移し替えているカトレアに視線を向けると、彼女もまた、不機嫌な表情でフンとそっぽを向いてしまった。
アルトは顰めた顔を、ウェインの方に戻す。
「アイツも、ずっとあの調子だよ」
「ハハッ。大変っすね」
どう反応してよいかわからず、ウェインは乾いた笑みを返した。
それでも、相手は恩のあるアルトだからと、聞いた話と質問をよく吟味し、ウェインは自分なりの答えを想像する。
「あの、これは根拠の無い、オイラの意見なんっすけど」
そう前置きをして、少し、切なげな視線を下へと落とす。
「オイラには、ロザリンさんの気持ちはわからないっすけど……でも、もしも、オイラがエレン、好きな人に『好みじゃない』って言われたら、凄いショックかもって……」
「……それだけか?」
「それだけっす。何か、すいません。お役に立てなくて」
申し訳なさそうに、ウェインは肩を落とした。
「……好きな人ねぇ」
今更、ロザリンが誰を好きか質問するほど、アルトの神経は鈍っていない。
ただ、何となく、実感が沸かなかった。
彼女のアルトに対する好意は、あからさまで隠すようなマネはしていないし、時には口に出して愛情を示している。しかし、その度に今日と同じく、素っ気ない態度で返答しては、むくれたり不機嫌になったりしていたが、後を引くようなことは無かった。
なのに今回は、拗ねて引き籠ってしまうほど、後に引いている。
それが不思議でならない。
「なぁ、カトレア」
「なによ」
顔は向けず、料理の上に埃が入らないよう、布をかけながら返事をする。
寝そべっていた身体を起こし、アルトはボンヤリのした口調で言った。
「アイツ、本当に俺に惚れてんのかなぁ?」
「…………」
たっぷり間を置いて、カトレアは心の底から呆れるような顔を、ようやくアルトに向けた。
「……アンタ、本気で言ってんの?」
「女子供に気持ちなんか、俺にゃわかんねぇからな」
ロザリンの気持ちを踏み躙るような発言では無く、素直な疑問から口についた言葉だ。
それが伝わったから、カトレアも嘆息しつつも、怒り出しはしなかった。
「そりゃ、惚れてるでしょ。どこからどう見たって」
当然でしょ。と言った雰囲気で言うと、ウェインも同意するよう頷いた。
けれど、アルトは真面目な表情で、両腕を前に組む。
「子供が大人に憧れるっつーのは、良くある話だろ。あんなモンはな、熱病みたいなもんさ。恋に恋い焦がれるってな……アイツの恋心ってのも、その延長だ。きっと、時が立てば思い出になっちまうのさ」
「それは、ちょっと酷いっすよ」
堪らずウェインが抗議する。
エレンの為に、日々身を粉にして働いている彼には、聞き捨てならない台詞だろう。
しかしもう一人、怒り出しそうな人物は、意外も冷静な言葉を口にした。
「……そうかもしれないわね」
「カトレアさぁん」
てっきり援護してくれると思ったカトレアに肯定され、ウェインは情けない声を上げた。
けれど、カトレアは「でも」と前置きを置いて、アルトに真剣な眼差しを向ける。
「例え一時の熱病みたいなモノだとしてもさ……初恋ってのは、一生に一度しかない、大切なモノなのよ」
怒っているとか、諭しているとか、そういった類の口調では無い。
それはまるで経験談のような、愁いを帯びた言葉だった。
「少なくとも、あたしはそう思うわ」
切なげに、カトレアは視線を外す。
何とも言い難い沈黙が流れる。
妙な雰囲気の所為で、室内はどんよりと重くなる。
自分が切っ掛けを作ったのを気にしてか、それを吹き飛ばすよう、顔を上げたカトレアは無理やりな笑顔を作った。
「でも、ロザリンが情緒不安定なのは、思春期だからってのも、あると思うけど」
「……思春期、ねぇ」
アルトからしてみれば、随分と懐かしくも、青臭い響きだ。
だが、あの年頃の人間は、皆そうかもしれない。
基本的にロザリンは頭が良く、一を聞いて十を知るタイプだ。
元の性格からして冷静だし、状況判断にも優れているから、聞き分けも良い。
ただ、最初に会った時から薄々感じていたが、感情が高ぶると激昂したり、無茶な行動を取ったりと、理性的でない部分も垣間見える。
シリウス辺りなら、アルトの悪影響と一言で断じるのだるが、今考えてみれば、それが思春期から来る、感情の振れ幅なのかもしれない。
「はぁ。歳は近いですけど、オイラ達には、あんま実感無いっすね」
「北街の連中は、元からスレてっからな。それに、生きるのが精一杯で、それどころじゃねぇだろうさ」
「言われてみれば、そうっすね……でも、ロザリンさん、どうして急に?」
思い当る節の無いアルトは、首を傾げる。
それに呆れ顔をしながら、カトレアが代わりに答えた。
「この間の、ラサラの件でしょ」
「……あの別れ際のこと、まだ根に持ってんのかよ」
自分の頬を摩って、顔を顰める。
カトレアは呆れ顔から真剣な眼差しに変え、真っ直ぐにアルトを見つめた。
「それも含めてね。多分だけど、怖かったんじゃないのかしら?」
「怖かったって、変態騎士団長に誘拐されかけたことがか?」
軽く眉間に皺を寄せて、カトレアは首を左右に振る。
「鈍いわねぇ。アンタが、怪我したことよ」
「……はぁ?」
思わぬ答えに、アルトは顔を顰めた。
確かに怪我はしたが、致命傷になるような怪我では無く、服に血は大量についてはいたけれど、殆どが返り血でアルトはピンピンしていた。
怪我なんて今更だろうという顔をするが、カトレアはそうじゃないと首を振る。
「普通に考えてさ、かすり傷でも他人に負わされたら、心配にもなるわよ。ましてや、化物に変身した奴と戦ったり、伝説の暗殺者とか呼ばれる奴と戦ったりしたら、不安にならない方が、おかしいわよ……あたしだって、同じだし」
最後は、小さく呟く。
「それこそ今更だろ。俺は無茶するって言ってるし、知ってるだろロザリンも」
「そりゃ、あたしらはもう仕方が無いことって、半分諦めているけど、ロザリンは街に馴染んだって言っても、まだ出会って二月も立って無いのよ? 頭でわかってたって、感情がそれに追いつかないわよ」
中々伝わらない真意を、カトレアは苛立ったりせず、丁寧に言って聞かせる。
「あの娘はさ、もう、他に家族はいないじゃない」
「……そうだな」
「アンタだけなじゃないの? あの娘にとって、家族って呼べる存在」
指摘され、アルトは黙り込む。
「ロザリンがここに来てから、短い間に色々とあったけどさ そろそろ、お母さんとかお婆ちゃんとか、亡くなってしまった人の重さがさ、不安になって、ドッシリと圧し掛かってくるんじゃないの?」
今更、などという言葉は、発さなかった。
心の傷が時間でしか癒せないように、時間と共に広がって行く傷もある。
最初はただ悲しかっただけだろう。けれど、何かを失えば、何かが変わってしまう。
時間が立てば気づいてしまう。何を失い、何に満たされていたのか。
ほんの些細な変化でも、失ったモノを思い起こせば心がキリキリと痛む。その積み重ねは想像以上に辛く、乗り越えるには、失った日々を日常へと変えて、慣れて行かねばならないのだろう。
ちょうど今のロザリンは、失ったモノを強く実感している時なのかもしれない。
思春期の変化と、周囲の変化。
この二つが戸惑いとなって感情を掻き回し、ロザリンをより過敏にさせる。
青臭い言い方をすれば、ロザリンは大人の階段を昇る、一番初めに立っているのかもしれない。
カトレアは頭を掻く。
「無茶するのも無理すんのも、あたしは止めないけどさぁ……少しくらい、自分の後ろにあるモン、気にした方がいいんじゃないの?」
「……それこそ、無茶ってなモンだろ」
アルトは苦笑する。
自分は人を諭し、導けるような人間では無い。出来る事と言えば精々、己の矜持に従って、何時だって自分らしくあるだけだ。
ソファーから跳ね起きると、テーブルを乗り越えてウェインの隣りに座る。
「ところで、話は変わるが、目標金額に達成したわけだウェイン君」
「はぁ。あ、ありがとうございます。今日は、そのお礼を言いに来たんっすけど」
「律義だねぇ、泣かせるねぇ」
首に腕を回し、軽く締めるよう引き寄せた。
「うわっぷ」
「これで念願の彼女と同棲生活だ。若い身空で、爛れた生活一直線かぁこの野郎」
「ただ、爛れたってぇ!? ま、まだオイラ、エレンとはそんなぁ」
顔を真っ赤にして、俯いてしまう。
「とかなんとか言って、期待で色んなところを期待で膨らませてんだろ、このむっつりスケベがッ」
「アンタ……言い方が下品すぎ」
アルトの下ネタに、カトレアは憮然とした表情をしているが、頬は軽く赤かった。
そして、ウェインは更に顔を赤くする。
「ややや……オイラ、まだちゃんと告白もしねないんすよ!? まずは、デートして、御互いの気持ちを確かめ合ってから、その……」
モゴモゴと照れて口籠るウェインに、顔を顰めて首に回した手を離し、今度は背中をバシッと叩く。
「そんな回りくどいことしてっから、一歩大人な関係に踏み込めないんだろうがチェリーボーイ」
「さらんぼ? なんで、さくらんぼ?」
「……さぁ?」
カトレアの純粋な視線を向けられ、意味を理解しているウェインは直視出来ず、サッと目を逸らした。
元が箱入りお嬢様なだけあって、遠回しな下ネタには知識が無いらしい。
「守銭奴共に金を毟り取られなけりゃ、お前に度胸の一つもつける為、いい感じの店で筆おろしさせてやりたかったが、すまん。この俺が、不甲斐ないばっかりに」
「ああ、筆って高級品だと結構するもんね。でも、何か関係あんの? お祝いの品?」
「……さ、さぁ。オイラ、筆って、使ったことないんで」
ウェインの表情も引き攣ってくる。普通に受け答えしているつもりなのに、何故だか自分の発言も下ネタっぽく聞こえてしまう。
そしてアルトを涙目で睨む。
「アニキ、オイラのことからかって遊んでるでしょ!?」
「んなことねぇよ。さくらんぼと筆の話をしてるだけだろうが……お前だって、興味はあんだろ?」
「そ、そりゃまぁ、自分も男っすから」
肘でツンツンされ、照れながらも素直に答える。
カトレアは意味がよく理解出来ず、首を傾げて難しい顔をしていた。
「そうだろうそうだろう。男なら、興味があって当然なんだよ。桃だってプリンだって、でっかいのが食いたいんだよ。わかるか?」
「桃とプリンという表現で、大体理解してしまう自分が恨めしいっす」
「大きい桃ってどうなのかしら。大味で、水っぽいんじゃないの? ああ、でも昔、バケツで作るプリンには憧れた」
的外れな感想を漏らすカトレアは、とりあえず無視する。
「そもそも、何でこんな下ネタトークになってるんすか?」
「まぁ、要するにアレだ。男は風の子だから、外で遊びたいっつーことだ」
「……遊びたいの意味、絶対違うっすよね」
「んなことねぇよ。見てみろ」
指差すと、カトレアが感慨深げに腕を組んで頷いていた。
「わかるわ。ウチの弟達も、すぐに外で遊びたがって、泥だらけになって帰ってくるから」
「……な?」
「カトレアさんは、あのままでいて欲しいっすね……でも」
ウェインは若干、青い表情をして、階段の方を指差す。
「あっちは、どうしましょう?」
「ん?」
「…………」
視線を向けると、何時の間に出て来たのか、ロザリンが頬をパンパンに膨らませて立っていた。
サッと、アルトの表情から血の気が引く。
怒っている。あきらかに、怒っている。
慌てる必要は無い。何故なら、慌てふためいて言い訳をするようなことなど、アルトは何一つしてないのだから。
大きく息を吸い、何事も無かったかのよう、ロザリンに向かって笑顔を振り撒く。
「よう。ようやく出てき……」
「んッ!」
瞬間、昼下がりに聞いたのと同じ破裂音が、家の中に響いた。
「……ばか」
それだけ言い残して、カトレアが用意した夕食の乗せられた皿を持つと、走って階段を昇って行った。
上で板が閉められる音が、乱暴に聞こえて来る。
頬にくっきりと手形を残したアルトは、二人の憐れそうな視線を浴びながら呟いた。
「……アイツは、俺の言っていること、理解出来てたんだな」
結局その日は、ロザリンが部屋から出てくることは無かった。
★☆★☆★☆
日付は変わって、次の日の朝。
ロザリンはまだ、部屋から出てこない。
「お~い、ロザリン。いい加減、機嫌治せよ」
二階に続く階段にペタンと座り、板で封鎖されている入口を見上げながら、アルトは中にいるロザリンに語りかけた。
コンコンと板を叩くが、応答は無い。
試に力任せに押し開こうとしたが、板はピクリともしなかった。
一体、何を乗せているのだろうか?
今日は天楼へ、約束の金を届けに行く手筈になっている。
相手が相手だけに、約束の時間に遅れると面倒なことになりそうなので、早々に家を出たいのだが、昨夜、カトレアに色々と言われた影響か、ロザリンを放って置くのも何だか気が引けた。
なのでこうして珍しく、非を認めて朝っぱらから謝っているのだが、こうも反応が無いと、イラッとくるモノがある。
「おいコラ、いい加減にしなさいよ。共同生活は協調性が大切なんだから、我がままはお兄さん許しません!」
協調性が無いのが売りの男が、何故か敬語で叱る。
当然、中から返事もツッコミも無い。
頬を掻き、もう一度、板をノックした。
「まぁ、俺も悪かったかもしんねぇけどさぁ、んなところに引き籠ってたって、周りの連中に迷惑かけるだけだろうが。不平不満があるってんなら、口に出して言わねぇとわかんねぇぞ?」
反応はやはり無い。
ヒクッと、唇が引き攣るのがわかった。
「あーっ、もう! 一体どうすり満足するんだよこのお姫様はッ!」
面倒臭くなって、ドンドンと乱暴に板を叩く。
「まさか、眠りこけてるってオチじゃねぇだろうな。オイ、寝てるんなら寝てるって返事しろ!」
大声と共に、けたたましく板を叩く。
やがて、板の向こうから人が動く気配を感じると、不機嫌な声が聞こえてきた。
『……寝てたら、返事、出来ない』
「起きてるじゃねぇか……だったらオイ、出かけるぞ。遅れたら薔薇子が嬉々として襲ってきやがるから、さっさと準備しろ」
別に連れて行く理由は無いのだが、来るなと言ってもくっ付いてくるので、何時の間にかそれが当たり前と受け入れていた。
今日も当然、一緒に行動するのだろうと思っていたのだが。
『……行かない』
感情の薄い声で、ロザリンはそう言った。
『行きたくない』
二度目は、幾分、ハッキリとした口調だ。
「……随分と殊勝な態度じゃねぇか。俺としては、危険地帯に行くんだから、一人の方が楽っちゃ楽なんだがな」
『だったら、一人で、行けばいい。どうせ、私がいても、何にも役に、立たないし』
「お前、そのこと気にしてんのか?」
その言葉で、ようやく、ロザリンが何に苛立っているのか気がついた。
あの時、オークション会場での出来事で、役に立てなかったことを気にしているのだ。
カトレアは傷を負いながらも、雀蜂を倒し、シーさんとシエロもそれぞれの役目を果たした。そしてラサラもまた、オークションの駆け引きで結果を残している。
ロザリンだけがあの時、何も出来ず、ライナに助けられただけだった。
もしも、ミューレリアが倒れた場にいれば、彼女を助けられたのかもしれない。
そんな後悔が、彼女の心を苦しめているように思えた。
「あの時の傷は致命傷だ。毒も使われていた……それ、何とか出来たのか?」
『……出来ない。だから、やっぱり、役立たず』
力の無い言葉に嘆息して、アルトは頭を掻いた。
「そうかい。なら、お前さんは役立たずなんだろうさ」
言った瞬間、板の向こうで何かが割れる音が聞こえた。
厳しい言葉を返されて、癇癪でも起こしたのだろう。
『アルには、わからない。皆に頼られて、皆に好かれて、強いアルには、何も出来ない私の気持ちなんて……』
「……あのなぁ」
『それに、どんなに、私がアルを好きでも、答えて貰えないなら、何時まで経っても、私は一人ぼっち』
言葉に涙が混じるのがわかる。
昨夜のカトレアの言葉が思い返させる。ここでかけるべき言葉、彼女の望む、優しい言葉の数々が脳裏に浮かぶ。
それらを、全て打ち消した。
知ったことかよ。
「ロザリン。俺ぁ最初に言ったよな。俺はお前を守らねぇって……俺の側にいたけりゃ、お前が俺を追い駆けて来るんだ」
ロザリンからの言葉は、無い。
言いたいことだけ言うと、アルトは立ち上がり階段を下りる。
「俺は爺んとこに行ってくる。夜には戻ってくるけど、何かあったら自分で何とかしろ……んじゃな」
それだけ言い残し、アルトは立てかけておいた剣をベルトに繋げると、金貨の入った袋を持って外へと出て行った。
ロザリンだけが、一人家に残る。
急に静まり返った家の中で嗚咽に交じり、「アルの、ばか」という呟きが聞こえて来る。
その夜、アルトが家に戻ってくることは、無かった。




