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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
最終章、争乱編

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不死王の呼び出しし、冥府よりの援軍

 ロウたちの前に現れた不死王リッチーは確かに強かった。

 まず魔法で聖騎士たちを近づけないのだ。

 ロウはといえば、ひたすら防御に定評のあるレイルパーティーの一員、致命傷は負っていなかった。


 しかし攻撃力が足りない。攻撃を受けないだけでは勝てないのだ。

 これまでは勝たなくてもよかった。何らかの形で心を折り、追い詰めればいい。勝てなくても殺す方法ならあった。

 だが今回は相手を消さねば勝ちにはならない。そしてそれができない。レイルたちのもっとも苦手とする戦いである。


 変幻自在の錫杖は、姿を変えられるだけで他に何も機能はない。だが二人の故郷での筆頭術者である朧家の家宝であっただけあり、これだけの近接戦を経てなおその杖身に傷一つついてはいない。


 一人の聖騎士がロウを見上げて問う。その目には疑惑を秘めているのが見てとれる。


「何、を……している?」


 当初は攻撃を避けつつ、我先にと突っ込む聖騎士たちの回復に専念していたロウも途中からぱったりと回復をやめてしまった。

 傷ついているが、まだ意識のある聖騎士は口の端の血を拭って立とうと試みている。うまく腕に力が入らず、ぐしゃりと崩れ落ちた。


「どうした? もう諦めたのか?」


 一人、また一人の手傷を負って倒れていく聖騎士たちの中心で、ロウだけが立っていた。

 時術による回復、暗殺者としての俊敏さはロウを無傷たらしめた。


「いーの、いーの。どうせこいつら、今のままじゃ勝てないってわかってても治せばまた挑んでいく馬鹿正直でくそ真面目だからさ」


「それだけではなかろう」

「しばらく戦って気づいたことがあるんだけどさー。ちょっとそこで観察してもらって自分で気づいてもらおうかと思ってさ」

「貴様一人で相手どれるとでも?」


 そういって今まで戦わせていた上級アンデッドたちを下がらせた。

 騎士道精神みたいなものもあるのか、こちらは数に任せて袋叩きを目指しているのに、とロウはあざ笑い、ほくそ笑んだ。


「時間稼ぎぐらいはなんとかなるだろ」


 風の刃が十字に形成され、ロウの肩を狙う。ロウはそれを時術で狂わせる。術の前半を時間逆行させ、術の後半を加速させる。空気の時間停止と組み合わせて乱れた術は術自身の威力で自爆した。例えどれほど濃密な魔法であっても構造そのものに干渉されてしまえば耐えられない。

 元来、同じ理論で動く時術と属性魔法であるが、その強制力は時術の方が遥かに高い。空間術にしろ、結界術にしろ、格が違う。単純に強さを表すものでもないが、その差は同程度の使い手が正面から勝負した時に色濃く影響する。

 しかし不死王リッチーもそれを予想していたように風に呼応させてロウの足元を隆起させる。持ち上げられたロウがバランスを崩してよろけた。ロウは幻影の錫杖を足元に突き立てて体勢を保った。

 矢継ぎ早に炎の矢が放たれる。ロウは幻影の錫杖を回転させて防ぐが、幾つかを受けてしまう。


 時術で手っ取り早く巻き戻しながら、不死王リッチーに正面から突っ込んだ。

 魔道士タイプであるかと思われた不死王リッチーは意外にも武術が使えた。これまで範囲魔法で近づくこともできなかっただけで、斥候職とはいえ近接型のロウの連撃をいなしてカウンターする。杖での打撃を叩き込まれて数メートルほど吹っ飛ばされる。


 ロウは全くとどまることなく次の動作に移った。自分の正面に時間遅延をかけ、横に大きく飛んだ。そのまま気配と音と魔力を隠して一気に後ろに回り込む。すると、ロウが反射していた光と音が遅れて不死王リッチーに届くため、ロウがその場にいないのにまるで今もいるかのように見えるのだ。

 結果として背後を取られた不死王リッチーはロウの時術混じりの攻撃を受けてしまう。不死王リッチーは背中の大きな傷に思わず呻いた。


「で、わかった?」


 ロウは振り返って聖騎士たちに問いかける。

 何がだ?とぽかんとしたままの聖騎士たちに、「はー、鈍いんだから」と額に手を当てる。

 レイルやアイラ、カグヤなどを基準にしていることや三人のことを知っていたら、こぞって「あいつらと比べんな!」と叫んでいたことだろう。


「まずあいつは目に頼ってる。元が実戦経験がない魂に、近接戦闘が苦手な肉体だ。護身術は身につけているけど、それも受け身なんだよな? 目で見て、耳で聞いて反応してる。ただ能力だけが強化された力任せな対応だ。だから、不意打ちには対処できねえし、自分からの攻撃は弱い」


 僅かな戦闘で次々と解体されていく、戦闘スタイルのブラックボックス。


 何年、レイルの横で一緒に戦ってきたと思っているのか。

 ロウは得意げに、自らの優位を見せつける。


「そんでもって、まだ魔法の行使に慣れてねえから単調だ。不死王リッチーなんて言うだけあって、光に対する理解が足りない。だから光の魔法も使えない。見たところ、時術も使えねえみたいだな。だから速さも足りない」


 膨大な魔法を次々と行使し、多数の聖騎士を相手取ってなお平然としていた不死王。

 圧倒的な実力差に見えていた相手が急に、土俵へと降りた気がした。

 悔しさと怒りで顔をしかめる不死王リッチー。だが水分のない頬はシワを作るばかりで、瞳はぽっかりと虚ろな闇を宿したままだ。


「クククク……まさかこんな短時間でここまで追い詰められるとはな……」


 不死王リッチーは懐から黒い宝玉を出した。それを砕いてばら撒き、詠唱を始めた。

 詠唱を止めようと駆け出そうとしたロウの前に、先ほどまで待機していた鎧スケルトンが立ちふさがる。

 詠唱を終えた後、魔法陣が展開された。


「なるほど……確かにこの肉体は近接が弱い。弱点がないわけでもない。時術を効かなくするために時術が使えないのも痛いな……だがな、自分で使えなくとも人に使わせることはできるのだ」


 地の底から響くようなしわがれた声は乾いて周囲に溶ける。


「我が君、邪神様がこの私に授けた秘技にして最終兵器」


 いつのまにか一人称が変わっているのは、邪神について語るからだろうか。

 地面に黒い穴があき、そこからこれでもかという邪気が漏れた。

 禍々しく、圧倒的な気配。ロウはかつてこんな気配を感じたことがある気がした。


「ヤバイ……これはマズイ」

「冥界より我が眷属を呼び出して見せよう」


 その術式は結界術を弄って魂魄と空間を組み合わせた複合高等術式であった。

 例え魔道探求に長けて、不死の肉体の膨大な魔力と擬似核を持つ不死王リッチーでさえ、邪神の渡した秘の宝玉を使わねば発動できなかった。

 聖騎士とロウの顔が青ざめていく。不死王リッチー一人でも大変なのに、それと同じほどに強い敵が現れればここの撤退を余儀なくされる。いや、撤退できるかさえ怪しくなるのだ。


「こい!」


 紫色の光の中に巨大な刃物のシルエットが見えた。


「かーかっかっか! 間抜けどもめ」


 聖騎士たちが絶望に染まる。既に全てを諦めている者も多い。

 ただ一人、ロウだけは出てきた少女・・を見て目を丸くした。

 少女はまるで威嚇のようにぶんと鎌を振るう。


「未来はいつでも不確定にして不鮮明。こうして出られたのは僥倖と言えるの」

「なんだ……随分ひ弱そうなのが出てきたな。だがその鎌があるなら戦えぬこともなかろう。やってしまえ!」


 声高に不死王リッチーが命令したその刹那、彼を取り囲んでいた上級アンデッドが崩れ落ち、その身を崩壊させていた。口から白い靄のようなものが虚空へと引き摺り出され、少女の手元へと引き寄せられていく。


「なんだ……?」


 不死王を除いた場の全てのアンデッドが消滅したのだ。

 一人でも聖騎士の精鋭が手こずるほどの、不死の眷属は物言わぬ死体となり、そしてゆっくりとその身を朽ちらせていった。


「何が起こっている!」

「カカカ……悪いのう。あまりに脆弱で、まるでたわわに実る果実のようにもぎ取れそうな魂じゃったからつい、の」


 口角を釣り上げ、見た目とそぐわぬ老人言葉で喋る少女をロウは知っていた。


「なんじゃロウか。レイルの危機に颯爽と駆けつけて、一気に心証をよくするつもりだったのじゃがの。まあよいわ。わしは今気分が最高で最悪じゃ。魂と冥界のゴタゴタを片付けられたかと思えば、その要因だと思われる奴が目の前にいるのじゃからな……」


 破壊神、アニマ・マグリットの妹にして冥府の死者の魂魄の管轄における最高位、死の君ミラヴェール・マグリットであった。

 かん、かんと鎌で床を鳴らす。


「どうじゃ? 手伝ってやろう。心配はいらん。わしが死者に負けるわけがなかろう」


 何よりも頼もしい言葉であった。

ダメだ……戦闘を濃密に書きすぎて、なかなか進まない。

レイルたちの戦闘と、仲間の戦闘を交互に挟む予定が、おそらくはもう一度仲間の戦闘になりそうです。

明日明後日も更新できればいいですが、少なくともどちらかには更新しますね。


もし、まとめて仲間の戦闘を見てからレイルの戦闘にしてくれ!

という意見があればそれでもいいんですけどね……

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