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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
最終章、争乱編

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180/200

勇者集合

アイラ「私、きめたの」

 霧の深い谷にある里では男たちが集まっていた。鋭い目が霧の中で爛々と光っていた。

 二メートルほどの体躯に、隆々とした筋肉、そして何より頭上にある角が彼らの種族を物語っていた。

 彼らは妖鬼族。彼らもまた、ノーマに属さぬ少数部族であった。


「我らは歴史の表に出ることを望まなかった。だが今やそうも言ってられぬ」

「だがどうする。黙秘を貫いた我らが今更手を貸すなどと言って受け入れられるのか?」


 彼らの存在は知られているが、その里を訪ねる他種族はいない。

 彼らは選り好みが激しく、気に入られた者は酒を与えられたりするが、そうでないものが無事に帰ってきたという例がないからだ。


「……あの男はどうだ?」


 一人の言葉に周囲は少なからず動揺した。


「あれは我らよりも異端だ。だが……あの男ならもしくは」

「どの種族も平等に虐げる勇者、か」


 彼らの心はもともと決まっていた。

 金棒を担いでのそりと立ち上がると、その軍勢をもって里を後にしたのだった。



 ◇



 また、小人の里は悲嘆にくれていた。

 彼らは戦う術を持たない。

 姿を隠すことには長けているが、それも邪神が出現したとなれば気休めにしかならない。

 森の奥でひっそりと暮らす彼らに取れる手段は限られていた。

 同じ森の民であるトロルやドワーフ、エルフに助けを頼むことも考えられたが、彼らも余裕がないのは確か。

 最近は人間とも交流があるなどと言われているエルフを頼るのは不安もあった。




 だが人間への不信をいつまでも引きずっていては、この先生き残るのは難しいかもしれないと考えた者がいた。

 不安と恐怖で押しつぶされそうな小人の集落を、一人の小人が今旅立った。





 ◇


 邪神の出現に世界中が震撼した。

 あっという間に情報は伝えられ、今や子供でもそのビッグニュースを知らぬ者はいない。

 逃げ出したり、神に祈ったりなどと大忙しである。

 治安が荒れることが予想されるので、軍の皆様はますます気を引き締めなければならなかったりする。

 冒険者ギルドは実力のある冒険者の情報を集め、どこにいるかなどの把握につとめた。


 多くの種族に動きが見られた。


 ある意味活気付いている、などと思うのは不謹慎か。レイルはそんなことを思った。

 だが、邪神というわかりやすい脅威を目の前にして、歴史上の因縁だとかをおいて世界の全種族が結託しつつあることは事実だった。

 そしてここで、レイルがユナイティアを結合部として育てるように指示したツケがやってきた。

 レイルとユナイティアを中心に他の種族が集まり出したのだ。

 魔族、魚人、人魚に精霊、獣人にエルフにトロルとこれまでに親交があった種族はもとより、鬼などの滅多に人前に姿を現さない種族が訪ねてきたのには流石のレイルも驚いた。


 そんな時分のことであった。勇者候補全員に召集がかかったのは。

 勇者候補は一応所属の国を決めており、普段はその国に対して利益になるように動くものだが、こういった緊急事態には国の枠を越えて協力できるのが望ましいとされる。

 圧倒的な敵対者がいる時に人間同士で内輪もめをするのはあまりに無駄である。

 歴史からそれを学ばぬほどに人間は馬鹿ではなかったのだ。


 それを引き起こす間接的な原因にして、戦争真っ最中であったアグリーとハイカーデンも渋々ながら協調の姿勢を見せた。


 人が勇者とか呼ぶ冒険者が集められてやってきたのは軍事大国ガラスである。

 ノーマに最も近いことや、最大を誇る面積、そして冒険者の数をもってヒジリアと並ぶ他種族に関する件についての発言力を持つ。


「暫定的にガラスの国王たる私とヒジリアの法皇が司会を担うことになる」


 ガラスの国王は集まった一クラスほどの人数の勇者候補を見渡した。

 一人、二人ほど行方が知れずに召集にも応じなかった勇者候補もいるが、概ね揃っていた。これだけの勇者候補ともなると、錚々たる顔ぶれである。全員の力を合わせれば国の一つも落とせるだろう。

 そしてほとんどが二つ名を持っていた。


 有名な者だけをあげるならばさほど人数はいない。


 座れと言われるまで壁を背に立っていたのが、水属性の魔法と強力な槍の使い手である勇者、"魔装槍トライデント"、ガンマ。


 国を襲ってきた魔物の群れを肉体一つで壊滅させたという伝説を持つ、大男の勇者、救国の豪傑キルモンド・ゴアテイノス。彼は冒険者のギルド長を兄に持ち、元は貴族である。粗暴とも取られがちなその性分から家を出て冒険者として名をあげた。国も家も、どうせ家は継げないなら冒険者として活かすことを望んだ。いつしか功績をあげ、勇者候補として扱われるに至ったという。

 

 縦に細い虹彩に金色の光をたたえているのは、遠い先祖に竜の血が流れているという噂の半竜人ドラゴノイドテナー。まるで竜の息吹のような風属性の魔法は小さな村など更地に変えると言われる。風属性で空まで飛び、暴れるその姿から暴風竜というあだ名もある。


 そして三属性の魔法と剣を使うバランス型の勇者であるトーリ。直情型で目の前の出来事に体当たりでぶつかる部分は危うくもあり、好ましくもあると言われていたが、最近はその危うさも丸みを帯びてなりを潜めた。噂によるとレイル・グレイの部下になった、などというものもある。


 珍しい女性の勇者は戦場の華、ジェンヌであった。素朴な風貌を瞳に宿る鋼の意思と、荘厳たる鎧が引き立て、見る者を惹きつける強いオーラがあった。

 ローマニアの軍を率いて、何度も魔物や盗賊団の殲滅作戦に赴いている。間接的も含めると、関わった事件で倒した敵の数は五本の指に入る勇者である。


 こちらが最強と名高い光の勇者アラン。彼は勇者候補になろうとしたわけではなく、人を助けて魔物を倒すうちに勇者と呼ばれるようになり、ガラスがその身分を保証したことで正式に勇者候補となっている。つまりはどの国にも属さない勇者候補だ。大きく重い剛剣に光の魔法で速度を乗せてどんな敵も一撃粉砕と言われる。その技量さえもが勇者候補の中で頭一つ抜けている。


 虚無の勇者カイは召喚勇者であった。ヒジリアに召喚されて、聖女や女騎士と共に旅に出た勇者候補の一人である。無属性からなる初見殺しの勇者であり、その器用さは剣を扱いながらも魔法使いに負けないという。


 最も早くに集合しながらも、波魔法で姿を隠して周囲を窺っていたのは最悪最低、外道勇者と名高いレイル・グレイであった。

 彼が現れた瞬間、一部の良識ある勇者候補から嫌悪の混ざった殺気にも似た露骨な視線が浴びせられる。

 その功績の数々から有能さは認められているが、何が起こったのかわからないままに負けた敵も少なくなく、実力をこれでもかというほどに秘匿しているので空間術と光の魔法が使える以外は何もわかっていないと言える。実際は魔法の繊細な運用だけならばどの魔法使いにも負けないのだが。

 人質をとられた、毒を盛られた、騙されたなどの噂は尽きず、他の勇者候補を貶めることも厭わない。人によって好みの分かれ、最も功罪相半ばする勇者である。

 今日もその顔に凶悪な笑みを浮かべてゆらりとこの場を訪れた。


「情報元はそこのレイル・グレイからだ。知っている者も多いと思うが、邪神が復活した」


 その言葉に動揺する勇者は一人としていなかった。

 全員が知っていて当然だとばかりに、先の話を促した。

 邪神に関しては概ねはレイルが伝えた情報であるため、レイルは比較的退屈そうに欠伸などをしていたが、光魔法でそれを隠蔽していた。だが隠蔽していることを気づかれてしまい、数人がジロリとレイルを見た。

 さすがは勇者たち、魔法の発動ぐらいはわかるのか、とレイルは心の中で口笛を吹いた。


 次に語られたのは世界各国の動きだった。

 種族を無視して完全停戦協定が組まれ、それぞれの国がそれに調印した。

 その中には国として認められているノーマやサバン、アクエリウムなどの国もある。

 今までは自国の利益のために使っていた小型転送装置、つまりは手紙をやりとりするポストの高性能版みたいなもので各国のネットワークを構築した。

 前世の学級連絡網のように、全ての国が他の全ての国とやりとりできるわけではなく、特定の国を繋ぐことで一つのラインを作りあげたのだ。

 ちなみにユナイティアはギャクラから伝えられた情報をノーマ、アクエリウム、サバンに伝える役割である。


 今度は逆に他の勇者候補が退屈になる番だった。

 多くの勇者の基本行動理念は単純で、困っている者を助けるために目の前の敵を倒す、というものであるからして、そんな細々とした政治的なことを伝えられても困るのだろう。

 むしろレイルは当事者であるため、役割だけは聞いていたがこうして他の国について聞く場面は貴重なのでしっかりと聞いていた。


「──────とまあ、こんなところかね。君たちは勇者候補だ。勇者とはなろうとしてなるものではない。だから君たちにはここで、英雄の卵から孵化するのを諦める権利がある。しがらみも多いだろう。だが結局のところ、覚悟もない者を連れていけば必ず足手まといになる。ここで一度尋ねておこう」


 そんな前フリとともに、法皇はその低く穏やかな声音に重く冷たい刃を含めて勇者候補たちに突きつけた。


「世界のために死ぬ覚悟はあるのか?」


 勇者候補は決してその質問は予想外ではなかった。

 勇者候補などをやっているのは、将来有望とされる若者か、既に功績をあげた者が多い。

 前者の場合は自分に自信があったり、英雄願望があったりするものだ。

 尋ねられれば簡単に頷けるとたかを括り、いざ質問されてみるとその重さに潰されそうになったのだ。

 蓋をあけてみれば、その覚悟の弱さというものを突きつけられる結果となった。


「俺は……できるのか?」

「やっぱり行っても足手まといになるだけじゃ……」


 何人かの勇者候補は怯えをあらわにした。

 それを見て、法皇とガラス国王は退室するように命じた。


「行きます。──────そのために生きて、剣を握ってきた」


 あまりに清廉で、あまりに強いその言葉に多くの勇者候補は勇気付けられた。

 もとより断るつもりのなかった勇者候補たちがそれに追従する。

 カイもまた、苦悩し、迷っていた勇者候補の一人だった。

 彼が恐れていたのは邪神の強さにではない、世界の命運を握る責任の重さに、だ。

 言葉にせずともそのことに気づいていたヒジリアの法皇は、自らが選ぶ勇者に少しだけの手心を加えた。


「世界を背負う必要なんてありません。君は君の大切なもののために戦うのです。君にしかできないことがあるはずです」


 白いヒゲの奥からそっとカイに囁いたのだ。


「そうだな。ありがとう爺さん。俺、いくよ」


 まだ半数の勇者候補がその身の振り方を決めあぐねていた。

 そんな時、背後から噛み殺したような笑い声が聞こえてきた。

 くっくっく、と馬鹿にしたような笑い声に残っていた勇者候補が眉をひそめる。


「死ぬ覚悟? あるわけねえじゃん」


 ないなら出て行け、と法皇が指示しようとした時、笑い声の主は続けた。


「死にたくないから戦うんだよ。どうせ俺なら逃げられるからな。俺にしかできないとは思わない。誰かが戦って勝てるならそこに俺もいればいい。どうせ負ければ世界が滅ぶ。挑むだけで名誉と、勝利と、平和が得られるなら安いもんじゃねえか。選べよ。全てを得るか、全てを諦めるか」


 レイルは所詮、敵と戦うために綺麗な理屈はいらないと言った。

 結局のところ、彼にとって重要なのは結果と周りがどう見るかでしかないのだ。


 打算と、どこまでも徹底した合理主義に基づく自分の命さえ天秤にかけた決断に不気味なものを感じてしまう。

 やはりこいつは勇者ではない。どこまでも自己中心的で、臆病で、最低の人間だ。

 周りは評価を新たに発言者、レイルを見た。


 レイルのこの発言が会議の結末を二分した。

 自分がいなくても勝てるだろう、いれば攻撃を食らって死ぬかもしれない。これは戦いなのだ。戦いに出て死んで勝利を得ることだってある。

 そんな臆病風に吹かれたと一般的に言われるような決断を下した数名。彼らは貴族の放蕩息子で、名誉のために肩書きだけを得ていた勇者候補であった。

 そしてその決断に背中を押された勇者候補。彼らは冒険者としてやっていくうちに任命された者が多かった。

 アランやテナー、トーリにジェンヌなどのその在り方で勇者となっている彼らは最初に立ち上がったのでその発言に影響は受けなかった。


 こうして邪神に挑む勇者候補の勢力が決まった。


おや、ドレイクの様子が……?

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