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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
間章 聖女編

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盗賊退治

 結局のところ、アランとかいった戦闘オンリーの勇者よりも無属性という固有能力持ちのカイの方が便利であることが発覚した。

 魔物討伐や警備のみならず、本来ならば地属性の結合操作、水属性のイオン操作などの複合高等魔術となっている植物の成長促進など、無属性が行える範囲は実に広い。シンヤに日頃困っていることはないか、と絞り出させて次から次へと問題の解決に奔走させた。

 俺も随分優しいもんだ。こうして使ってやることで、無属性の練習にもなるし、新しい使い方へのとっかかりにもなる。この一週間ほどで新魔法を幾つか生み出したらしい。

 俺なんて十八年ほど生きても波、空間合わせて百は超えないというのに。

 これが反則チートというやつか。ぽんぽんとできることが増えるその様には思うところもないでもない。


「全く、前は余裕がなくて気にも留めなかったけど、ここは異常な国だな」


 カイはここをそんな風に言った。

 魔族、獣人、人間の三種族はもとより、たまに来る客人としては死神に悪魔、エルフにトロル、魚人に妖精と機械族マシンナーズに天使がいる。

 魔王さえもがくつろぐこの国の在り方を呆れたように、そして羨ましそうに言った。

 俺はこの国を国というよりは家のように思っている。みんなで働いて、稼いで、食べて、暮らす。血こそ繋がっていないものの、家族(そこ)には過去も種族差もない。

 だから、カイのことはさほど好きではないとはいえ、こうして自分の居場所の一つを褒められることはくすぐったくも嬉しかった。


「一通り終わりました」


 聖女の方はこの国全体に発動後継続型の軽い結界を張ってもらった。

 結界に必要な高価なものはあらかた取り寄せたり集めたりしたし、失敗しても数回試せと言うあたりかなり甘めの条件ではある。それでも国一つ、まあ大きな都市程度の範囲を丸々覆うというのはなかなかに骨の折れる作業のようだ。


 リオは本当に居着いた。

 いや、俺は全く構わないのだが、わざわざこの前送ってやったというのに戻ってきたともなるとなんだかな。

 故郷を離れるというのは群れで生きる本能を持った獣人にはキツいことなんじゃないのかと聞くと、

「猫人族だから大丈夫なの」

 と言う。ネコ科で群れを作るのはライオンぐらいだったか。だから群れの本能はやや薄いのかもしれない。

 



 ◇


 俺たちはというと、治安維持という勇者候補らしくはあるが、俺たちらしくはない仕事に駆り出されていた。

 以前、自由の町と呼ばれていた町がギャクラの騎士によって潰された。その時偶然遠出していて、いなかった大きな盗賊団の幾つかが戻ってきたというのだ。

 盗賊団はあくまで消費市場や拠点として自由の町を使っていただけで、そこまで自由の町そのものを重視していたわけではなかったようだ。

 シンヤの手腕とコネ、顔の広さによって信用できる奴らは部下に引き込んだとはいえ、略奪を楽しむタイプのどうしようもない奴らは未だこの周辺を跋扈しているのだという。


「こんなことでもなければまともに歩いて冒険なんて機会も少なくなったな」


 そんな時間を楽しみたい、という思いとは裏腹に空間把握でさっさと乗り込んでぶっ潰してしまおう、と範囲をユナイティアに残しながら広げて探る。


「レイルくん、変わったよね」


 街道に沿って歩いている最中、アイラがそんなことを言った。


「そうか? まあ自分ではわからないからな」

「以前は面倒ごとには楽しそうに突っ込んでいったけど、戦うのは避けてたよね」

「そうね。反魔法団体潰す時も、見た目には一番危ない敵の真ん中にいたけど、実質的には一番安全な場所にいたものね」


 まあ、そうか。

 俺は臆病だ。いつ上から岩が降ってくるかもしれないと、いつ流れ矢が当たって死ぬかもしれないといつも最低を想定していた。

 魔獣の群れと戦うなんてあり得なかったし、盗賊には会う前に射撃とか魔法で不意打ち仕掛けて殺すかとにかく避けていた気がする。

 空間把握で不慮の事故が起こらないと心のどこかに余裕ができていたのかもしれない。


「変わらなかったら良かったか?」

「ううん。どっちでも」


 言葉だけなら冷淡で突き放すようなセリフだが、その声音には非難する色は全く見られない。


「どっちもレイルくんだから」


 親しい仲間に"変わらないね"と言われるのと"変わったね"と言われるのはどちらが良いのか。

 俺は幼少期から一向に成果の上がらない訓練を続けていた。それこそ朝起きたら顔を洗う程度の感覚で。成果が上がったのは一、二年ほど前だが、その結果としての退化を恥とは思わない。ただ、仲間に失望されるのは嫌だなあとは思う。


 俺は"強く"なっているのか。

 それとも"弱い"ままなのか。


 どちらでも俺の性質だ、と割り切って受け入れてもらえる限りはこのままでいこう。

 そんな風に思うのだった。



 朝から延々と歩き続けて数時間、昼前に差し掛かるほどになってようやく盗賊のアジトらしきものを見つけた。

 とはいえ、見つけたのは俺だけで他のみんなにわかるはずもなかったが。

 空間把握で前方から右に四十五度、八百メートルほど進んだ森の中にそれはあった。


「相変わらずすごいわよね」


 アイラに手錠だの銃だのと捕縛や攻撃用の道具を出してもらう。

 カグヤは刀を、ロウは短剣やら錫杖やらを出している。暗殺者なんだか術士なんだか。


 敵の数は……数えるのが面倒になるほどいる。

 馬が十匹ほど繋がれており、倉庫は二つ。捕まえてきた奴隷などを保管するための牢屋らしき施設が六部屋。現在は八人ほどが放り込まれている。

 警備が常に二、三人ほどおり、残りは好きにしているようだ。

 だが不自然だ。ユナイティアはほとんど被害を受けていないとはいえ、こうして情報が上がってくるまで俺たちが気づかなかったというのが。

 かなり大きな盗賊団が被害状況からしか推測できなかったというのがおかしい。


 俺たちは警戒しながら根城に近づいた。

 総勢五十を超える盗賊たちの行動には統一性は見られない。

 光魔法で姿を消しながら、一人、また一人と絶命させていく。

 殺した相手も隠蔽し、拠点の外まで連れてきてはカグヤの土魔法で埋めていく。


「この程度の盗賊団か……」


 てっきり凄腕なのかと思えば、こうして姿を消しただけであっさりと殺される集団だということはさほど手練れではないらしい。


 二、三人ほど拷問して知っていること洗いざらい喋ってもらおうかと思ったが、その必要はないだろうか。

 どうせ雑魚すぎて近くの国の騎士団に目をつけられたとかそんな理由で逃げ帰ってきたのだろう。


 俺はそんな風に見くびっていた。


 だから、軽い気持ちでほとんどの部下を殺し尽くした後に、一番力のありそうな奴らの部屋に入った時に驚いた。


「……誰だ!」


 そう、気配で気づかれたのだ。

 そろそろ同じ部屋にまで入れば気づく奴も出てくるだろうかとは思ったが。

 部屋の中央に獣の皮でできた胸当てと腰巻に、幅広の曲刀を担いだ男が座っていた。


「兄貴、気のせいじゃないですかい?」


 やや太めの大柄な男が言った。

 しかし首領らしき男はその髭面を横に振った。


「出てこいよ」


 しょうがない、気づかれているならこちらから、と俺は俺たちの姿を相手に見せた。


「やっぱりか」

「ようやくまともな奴がいたな」


 ロウが挑発する。


「楽に済むと思ったのに」


 アイラは不満そうだ。

 俺はなんの予備動作もなく、アイラの持つ手錠に手をかけた。

 空間を捻じ曲げ、男たちの両手首を近づける。

 突然出現した手錠に両手を封じられた男たちは狼狽えた。


「なんだこれは!」

「おい、外せ!」


 外せと言われて外す馬鹿はいない。

 よし、これであとは連れ出して、と今後の処遇について考えていると目の前の首領が突然消えた。

 俺はアイラを引き寄せ、アイラのいたところに剣を突き出す。


「てめえも空間術持ちか」


 アイラのいたところに同じく剣が突き出され、そしてその剣を俺の空喰らいが受け止めた。

 ニヤリと笑う盗賊の顔には一片の恐怖も見られない。

 そして、同じ空間術なら勝てるとでも思っているのか。

 ただ、アイラを一番に狙ったのは正解なのだが……同時に最大の間違いでもあった。


 一番に接近戦の弱いアイラを何の油断もなく襲える相手。

 それだけの判断力と空間転移を扱えるというだけの実力を見せつけた相手に、俺を含む四人は何の油断もなくこいつらを全力で仕留めることを決めた。


 引き寄せられたアイラはそのまま持っていた銃の引き金を惰性のままに引いた。乾いた破裂音は鈍色の直線を男の胸へと伸ばした。

 男が避けると、後ろにいた盗賊の一人が血飛沫をあげた。


「空間転移を使えるやつが俺以外にもいたんだな」


 残忍な笑顔で男は曲刀を舐める。

 余裕ぶっこいてると、ほら。


「ちいっ!」


 ロウがすでに回り込んでいて、カグヤと連携を取りながら襲いかかる。

 だが俺はこいつの戦い方を見ていて一つ気がついた。

 そう、こいつは空間転移しか使えない。それも入れ替え型の空間転移だ。

 俺は初級だと思っていた空間把握とは、空間術における奥義で、一つの到達点であるらしい。

 ヘルメスも随分スパルタ空間に放り込んでくれたものだ。


 男は俺を最も厄介だと思ったのか、それとも手を出していない俺を最弱と見たのかはわからないが俺に向かって転移してくる。

 俺の胸に曲刀が突き刺さる──────────────光景を見ながら男は逆に自分の胸から俺の聖剣が生えているのを見た。


「何、が……起こった……?」


「空間把握もできないのに目の前にあるものを信じすぎ。残念、それは幻影。本当の俺はズレたところで剣を前に突き出していたよ。お前は自分で剣に突っ込んだんだ」


 空間転移など使う必要もない。

 そうか、これが練度というものか。

 俺の光魔法は威力こそないものの、便利なものだ。

 そして名も知らない盗賊さんには言ってやりたい。

 最初に姿が見えなかった相手が正直に姿を見せたら疑えよ。

 ま、死人に説教なんざ、それこそ馬の耳に念仏唱えるよりも虚しいものだ。


 ずるり、と嫌な音をたてて剣を引き抜く。

 ごぽりと何かを言いかけながら盗賊の男はその場に崩れ落ちた。

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