カグヤの決闘
カグヤは正統派に剣と魔法のファンタジーな戦いをしてくれるんで、映像にした時に格好良さそうなんですよね……この作品が映像化とかまずないですけどね。
彼はヒジリアを後ろ盾に持つ勇者だ。
それでも神託とか、召喚とか、政治的背景とかそんなものを全て取っ払ってしまおう。
召喚された勇者は総じて身体能力が高く、技術の吸収も早いのだとか。
戦いを通じてその噂が本当であったことを理解させられる。
レイルの元いた世界で住んでいた国が、剣も魔法もない平和な国だったという話を聞いている私だからこそ、驚愕せざるを得ない。
召喚されてから僅か半年で、人間がここまで強くなれるものなのか。
技術はまだ私よりは拙いし、身体能力が高いといえど私の見たてだとアランさんと似たりよったりといったところだ。
しかし半年。
レイルは生前の記憶を活かして、二歳の時から鍛錬を続けてなお、あの技量だ。そして剣聖に教わり、同じく物心ついた時から刀を持っていた私でさえもその一歩、二歩先にしか到達していない。
武器を扱う技量と身体能力の合計ならば互角とさえ言える。
これでも私は才能はある方らしいし、同年代の中では強い自負のある私と互角になれるってことは、あまりに異常な成長速度だ。
ただ、一言だけ言うとするならば。
「どうっ、して、倒せない! どころか、押されて……」
互角なのは、技量と身体能力の合計だけならば、ということであろうか。
「視線、足の動き、呼吸。何もかも足りてないわ」
拙い。私は心の中で呟いた。技術が、ではない。それは圧倒的な経験の不足だった。
私だって、壮年の騎士などに比べれば対人戦の経験は酷く少ない。けれど、量より質が勝り、魔物とも加えればマシにはなるだろう。
「何を思って戦うのかしら」
勝つことが全てだとか思っているのかしら。なんとも空虚な強さね。
「くそっ。本気を出さないとダメみたいだな」
彼が懐から出したものに見覚えがある。鈍く光沢を放つ筒に、持ち手と引き金がついている。
どう見ても銃だ。アイラが作ったものほど大きかったり、ごつかったりはしないようだけど手軽に撃てそう。
彼は何の迷いもなく引き金をひいた。
対処法は簡単。その筒の向く方向から避けて、弾が飛んでくるのであれば刀で弾く。
撃たれる前に動きたかったが、動いている最中に撃たれてしまったのはひとえに距離のせいだ。
両手に二丁持って、交互に私を狙っている。
狙い自体は正確なので、撃たれそうだと思えば弾くか避ければいい。
一気に詰め寄って両方の拳銃を刀で叩き壊した。
「銃なんて物騒なものを。けど、対人戦で剣士相手に出すものじゃないわ」
「どうしてお前が銃を知っている……?!」
完全に銃の特性を知っている動きと、名前を呼んだことで知っていることが知られてしまった。
アイラだけの武器だと思っていたけど、随分簡単に作っちゃうのね。
無属性とか勇者の恩恵とか、ヒジリアの支援とか考えられることはいろいろあるけど、レイルが見ているのなら後回しでいい。
どうせ銃は壊してしまった。残骸でも回収できればアイラの役に立つかもしれない。
「奥の手!」
彼の体から魔力が溢れる。
長く魔法の鍛錬を積んだ者は、それだけで魔力の属性がわかるという。しかし私はそこまで優秀な魔法使いではない。あくまで量だけを感覚的に掴んだところ、私よりは魔力がぐっと少なく感じた。
「くらえ!」
彼はその掛け声と共に、魔法を発動した。重力でも、衝撃波でもない何かが私に向かって飛んできた。
こういった手合いには、と風魔法で空気を剣の周りにまとわりつかせ、回転させる。
そのまま魔力を込めて力いっぱいに振り抜くことで攻撃を防いだ。
「まだだっ!」
詰めの甘さがないだけマトモなのかしらね。
私が攻撃を防いだ隙を狙うのは定石通りすぎて、驚いてあげることさえできなかったけど。
と、彼が飛び上がり、空中を駆ける。
彼の剣はその姿をグニャリと変化させる。
「波魔法? いや、でも」
彼の剣戟は熱を帯びて炎をまとって私の頭上から降り注いだ。
「波魔法に、炎魔法って……」
波魔法は扱いが難しく、私みたいに二属性以上を扱える魔法使いでも波だけ扱えないなんてことはザラだ。
レイルは逆に属性は波しか使えないみたいだけど、空間があるから。
そんな波に加えて炎属性を扱えるとなると、私よりも魔法の才能は上ってことなのかしら。
だとしたら厄介ね。レイルが波だけであれほどできるのだったら苦戦させられるかもしれない。
どのように対処しようかと思っていたら、彼がこんな周りに聞こえるかどうかという声で呟いた。
「……解除」
ぼそりと彼が口にした言葉を聞いて、私は彼の特殊な魔法適性について看破した。
なるほど。これは波と炎なんかよりもずっと特殊で、特別だ。
というか魔法の属性と呼べるのかさえ怪しい。
「へえ……あなた、無属性魔法なんだ」
私の言葉に彼と観客の中で風属性の魔法で聞き耳を立てていた魔法使いたちが驚く。
「どうして、こんなに早く見抜かれるんだ……! わざわざ属性魔法に近いことをしていたのに!」
動揺のあまりベラベラとこれまでの意図を話してしまう。
すっとぼけるとかいった選択肢はないらしい。
無属性。
そんな属性はどの魔術書にも載ってはいないし、そんなものが人間の身でできるとは信じられてはいなかった。
人は自分の適性に合わせて体力を魔力に変換する中で、特定の自然の力を借りやすい形へと変質させている。
その変質の結果こそが属性であり、無属性で運用するなどという考えに至らない。そしてそんなことができる魔術師もいない。
レイルに様々な異世界の知識と概念を学ぶ中で自然と身につけた考え方はこうして活かされる。
彼が異世界の人間ならば、レイルの劣化思考として考えればいいのだ。
レイルは自分を元の世界でも普通だなどと信憑性皆無の発言をしていたが、きっと目の前の彼ぐらいが普通なのだろう。
「わかったからといってなんなんだよ。無属性が万能なのはさっきまでの戦いでわかっただろ? つまり魔法勝負になれば俺の勝ちってことだよ!」
耳障りな声が頭に響く。
二日酔いでもないのに情けないことね、と冷静さを戻した。
ちょっとわからないからって何を狼狽えることがあるのかしら。
私の周りには何を考えているかわからない奴らばかりだっていうのに。
「いいわ。私の一番得意な刀は収めてあげる。かかってきなさいよ、どんな手を使ってもいいから」
レイルならこんなことはしない。
自分の有利を捨てるなんてありえないからだ。
よしんば剣を収めたとしても、次に抜くときのための隠匿でしかないだろう。
私は違う。心を折るのは戦いだと思っているし、そうあるべきだと思っている。
「ははっ。いいのか? それは負けフラグだぜ?」
フラグとはレイルに聞いたことがあったような気もするけど、とにかく相手が怒っているのは間違いない。
圧倒的に相手の土俵で叩き潰そう。
ここからの戦いは魔法合戦となった。
お互い相手を近づけず、自分の得意な魔法を正しい時、場所で打ち込む。
移動用、防御用、攻撃用に魔法を使い分けて効率良く運用していく私とは違い、彼は実現したいことを直接魔法として使っているようだ。
加速と言えば足が速くなるし、浮遊といえば空に飛び上がる。
でも、正しい知識があれば四属性で十分できるのよね。
確かに無属性は汎用性が高い。それも無属性一つで全ての属性を使うに等しい。
風魔法で加速はできるし、地属性の重力魔法で浮遊も再現できる。
つまり戦いの感性と魔法の素の実力勝負といったところか。
彼が拳に金槌のようなものを土で作ってまとわりつかせている。
爆発させながら殴ってくるそれを体術と水属性で弾く。
距離をとった瞬間に土でできた槍を回転させながら突っ込んできた。
回転すると貫通力が上がるのだったかしら。
私は土で彼の足元に垂直に穴を開けた。エルフの里で巨人を倒した時に使った戦術だ。
彼は慌てて槍を解除して、身体能力に反発を組み合わせて飛び上がった。
彼が着地する寸前に足元を凍りつかせる。
彼がそれを解除しようとするが、真正面から力押しで発動を成功させてしまう。
体勢の崩れた彼の目に映るのは。
「炎槍!」
炎の槍を正面に、風魔法で加速しながら飛んでくる私の姿だったのだろう。
◇
勝敗が決して、もう見ることはないとぞろぞろと連れ立って出て行く客人たちと、その対応に追われながらも残るらしいレイルたちが対照的だった。
さすがヒジリアの装備。金属どころか布装備でさえも、あの炎の槍で焦げ一つついていない。
そして基本の身体能力が高いのと、控えている聖女の時術──というと怒られるらしいので治癒魔術による治療で火傷はすっかりと消えていた。
つまり元通りである。まああくまで表面上、身体的には、だが。
「嘘だ嘘だ嘘だ! 無属性は万能で、身体能力も鍛えてきたから強くなってて、対人戦でも魔物相手でも戦えるって……」
彼は敗北を経験したことがなかったのだろうか。それともこの強さになるまでは経験したけれど、この強さになってからはなかったのだろうか。
どちらにせよ、たった一度の敗北で心が折れるなんて随分と脆弱な精神だこと。
「君は……基本四属性の魔法しか使ってなかった!」
「そうね」
「途中から武器さえ使わなかった!」
「そうよ」
「どうして……!」
「あのね。十徳ナイフが銃に勝てるの?」
彼は一瞬目を見開き、そして眉間にしわを寄せた。
「どうして人間が魔法を使うときに属性を帯させると思っているのかしら。効率良く高い出力で魔法を使うためでしょう? 本来あなたのその器用さと出力の弱さは後方支援に徹するべき特性。目立とうと、自分で勝とうと前面に出たことそのものが間違いよ」
彼の魔法は万能ではあれど、最強からは程遠かったということだ。
同じことをしようと思えば属性魔法に威力の面で後塵を拝する。
それは例えるならば、物作りでは勝てても腕相撲で負けるようなもの。
根本的に無属性魔法だけで無双するには工夫が全然足りなかったし、素直すぎた。
その場で叶えたいことばかりを叶えただけでは勝てないということだ。
結局私は甘く、そして困った人間を見捨てられない性質なのだろう。
ロウやレイルが打算と情を天秤にかけられるから、私がそれに従うことで釣りあっているだけ。
一人で戦えば敵を育ててしまうような助言を与えて、どこかでまた強くなって目の前に現れることを期待してさえいる。
無属性、身体能力、成長補正、銃。
どれ一つとっても育てればレイルやロウ、アイラや私を超える可能性を秘めた武器。
どう見てもその全てが宝の持ち腐れであるる。
「確かに私は戦闘技術ではレイルにひけは取らないわ。けどね」
カイと呼ばれた勇者の肩に手を置く。
「本気の殺し合いになれば、十中八九私が死ぬわ」
ちなみに残りの一、二割はレイルが私を生け捕りにしたり心をへし折る方向で負かした場合だ。
彼はうなだれた。
私はもう興味はないとばかりに壊れた銃を拾って闘技場の中心から離れて外に出て行こうとした。
「大丈夫ですよ。今回は運が悪かったというか、相手が悪かったんですよ! ああ、何か卑劣な手を使ったのかもしれません」
「大丈夫。お前は強い。国でも十の指に入る私を何度も降したのだから」
後ろから周りの聖女や女騎士に慰められている声が聞こえてくる。
アイラやロウだったら何と言うのかしら。
殺していいなら簡単だったのに、かしらね。
明日から中間テストなので、ちょっと投稿の頻度が落散るかもしれません。
更新停止にはならないので大丈夫です。
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