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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
トロルの里編

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155/200

トロルの里

 エルフの里の外で出会ったのはトロールであった。

 いや、ここは省略してトロルとでも呼んでおこうか、などとそんなどうでもいい呼び方についてレイルが悩んでいる間に仲間のうちロウ、カグヤ、アイラが当然のように臨戦態勢をとった。

 足の下の落ち葉が音をたてる。六人の間に沈黙が降りた。


 トロルは五人を見て一瞬は驚いたようだが、すぐに落ち着いて五人の何かを探るように見つめた。


「やめろ。武器をおろせ」


 レイルはただ簡潔に三人に命令した。

 ゴツゴツとした一般的な感覚をもってして醜悪と評されるような顔が笑ったように見えた。


「人間の子よ。私を見ても怯えないのか」


 トロルの彼はくぐもった低い声で問いかけた。その眼差しに敵意はなく、ひたすらに優しげな暖かさだけがあった。


「生憎、自分の目で見たものは信じる性質タチなのと、俺が聞いてるトロルには知識のある思慮深いのもいるからな」


 レイルが言ったのは前世の話である。

 この世界でのトロルというと、女子供を攫い、財宝を隠し持つ邪悪な存在として描かれることが多い。前世でもそういった邪悪な存在としての伝承がある中、薬草などに精通しているとか、気に入った者には富をもたらすなどと神秘的な妖精としての伝承も多く残っていたのだ。

 実際に神秘の種族が存在する世界の伝承よりも、そういったものが科学によって否定されかけた世界の伝承を信じるというのはどこかひねくれていて、皮肉な判断ではある。


「何をたわけたことを。森の中で人を助けるのは可憐な妖精やエルフと相場が決まっているだろう」


 だからこのようにトロルが言うのも正しいことなのだ。

 サーシャはこの展開についていけず、ただ成り行きを見守るだけである。


「人間ってのは都合の良い生き物でな」


 確かに森の中で不思議な巨人に助けられたとか、そういった物語はこの世界にも数多くある。そしてその全てが助けてくれたのは美形だと書いてある。

 レイルはそれを、「助けてくれた相手は美化してしまうものだ」というのと、「物語的に美味しいから美化して伝えてしまう」という体験者の主観と、伝えてきた人の打算や感情があったと思っている。きっとそれらの物語の中には、美化されてきた本当はトロルだった話もあるに違いない、と。

 ロウが殺気を消して、気軽に話しかけた。先ほどまで一歩でも動けば殺すとばかりに武器を構えていたのに、こうも切り替えが早いのかとサーシャはロウへの評価を新たにした。


「で、ここに何か用事があったのか? それともこの近くに住んでいるとか?」


「前者だな。我々トロルはエルフ、ドワーフ、小人の奴らと合わせて森に住む種族、『森人』という名を持つ。自然と共に生き、自然と共に死ぬ。そんな我らは森人同士で交流があるのだ。エルフの奴らとも知り合いよ」


「へえ。じゃあプルトさんやネプチさんとも知り合いなのか」


「小僧……その名を知るということは……」


「それよりこの耳飾りを見せれば話は早いんだろ?」


「ほう……ではエルフの里を救った人間どもというのはお前らのことか。非礼を詫びよう。私の名はセルバ、見ての通りのしがないトロルだ」


「こちらこそ。俺はレイル、勇者候補とかユナイティアの代表とか妙な肩書きはあるけど気にしなくていい。ただの冒険者だ」


「俺はロウ。ちょっと変な体だが人間だよ。レイルについて一緒に旅をしてる」


「カグヤよ。そこのロウと夫婦」


「アイラです。二人と同じくレイルくんたちと旅をしてます」


「サーシャといいます。わけあって臨時で一緒にいます」


 それぞれの自己紹介が終わると、セルバはまるで眩しいかのように目を細めた。目尻にきゅぅとシワがより、整えられていない眉毛が下に向く。


「もしよければ我らの里に来るか? 招待しよう」


 レイルは突然の申し出に驚いた。

 いくらエルフと交流があったからといって、そこまで無条件で信用されるなどとは思っていなかったからである。

 もしかすると監視や見極めのために呼ぶのだろうか。そんな考えも浮かび、それならいくのも悪くないかと承諾した。




 ◇


 突然トロルの里へと招待された五人はセルバに案内されて一時間ほど歩くこととなった。

 場所さえ知っていれば空間転移でいけるのだが、それができないので徒歩でずっと里まで行くのかという不安はあったが、途中で洞窟の中にある転移門ゲートを使うことでその不安も払拭された。


 レイルはずっと考えていた。

 トロルはその見た目から人間に差別されてきた。人間だけではない。魔族も、獣人もトロルへの差別意識はある。ゴブリンなどと同列に扱うような人もいるのだ。

 そんな歴史がある中で、トロルたちから人間に対する不信感というものは並大抵のものではないはずだ。レイルが見た目で差別しない人間だからといって、トロルが人間へのその不信感を置いて接してくれると期待するのは違うだろう。

 だから、セルバが自分たちを恨んでいてもおかしくはないはずなのに、わざわざ里まで招くという行為に特別な理由があるのかとずっと考えていたのだ。


「エルフと仲がいいなんて意外だな」


 ロウがやや無神経なことを言った。

 エルフは美形揃いで、醜いトロルとはあまり繋がらない、と。

 カグヤが失礼なことを言ったことに頭をはたいて怒り、サーシャはそれでセルバが気を悪くしないかとヒヤヒヤしていた。

 意味が伝わらなければいいのに。

 そんな願いも虚しく、しかしセルバの返答は期待を裏切るものであった。


「よく言われるな。だがな、エルフが綺麗だ、と言われるのは顔ではないと我らは思っている。彼らが本当に美しいのは真実見た目を取らない心根の美しさだ。そういう意味では人間や、魔族の方がずっと醜いな。いや、我らが言ったことでもないか」


 よく言われるからこそ、その意味を理解し、そして気にせず自分たちの意見を言った。

 セルバは自己評価が低いようである。


「なんだって俺たちを招いたんだ?」


 レイルは考えるのをやめて直接尋ねることにした。


「簡単なことだ。お前が私を"見て"判断したように、私もまたお前を"見て"判断したのだ」


 やや「見て」を強調するセルバはさらに続けた。


「我らはエルフのように長い寿命による経験や身体能力からくる森への適応はなく、ドワーフのように火を、土を感じる才能もない。ただ我らは「最も目の良い種族」だという誇りがある。その目は視力だけにとどまらない。真実を見抜く洞察力も、だ。だから薬草を見分け、宝石を見分け、木々を、人を見分けて生きている」


 そういったところで、里が見えてきた。


「ここが、トロルの里……」


 トロルの里は独特の作りをしていた。

 階段状に土でできた家が連なり、家の天井の上が通路となっている。

 まるで土でできたマンションのようだ、とレイルは思った。

 しかし通路と家が一体化している分、密集感が高く、隣同士の家との距離も近いように感じられる。


「ふっ。ようこそ。私たちの里へ」


 セルバがごとり、と持っていた棍棒を置いた。


お気に入りって減るとへこみますよね……何か面白くない、お気に入りを外すような点があったのかなあ、なんて。

まあそれでも読んでくれている人がいるなら頑張って書きますけどね!

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