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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
擬神編

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154/200

森の奥で会うもの

 

 後処理から逃げるようにリューカを後にしたレイル達。その一行にはサーシャが加わっていた。サーシャはアークディアを内包していることなど微塵も感じさせず、朗らかに話している。


「ははっ。それにしても……自己保身が得意で手段を選ばない、か。俺は勇者とは名乗らねえけど、確かに勇者の評価じゃないよな」


 レイルは自嘲を楽しむかのように言った。

 自分でも繰り返したその評価を結構気に入っていた。そういった評価が広まるならば、自然とレイルの元に集まる者も限られてくる。蛮勇や腕自慢ばかり集まってくるのも問題なのだ。


「あってるじゃない。ついでに言うなら敵を道具ぐらいにしか思ってない、ってつけとかなきゃね」


 カグヤがそれに追撃した。

 レイルはそれに苦笑で返した。


「一応手段は選んでるつもりなんだけどなあ。無関係な一般市民は無闇に傷つけないように注意を払ってるじゃん」

「で、敵は過剰に傷つける、と」

「まあまあいいじゃねえか」

「甘やかさないの。こいつ仲間以外には猫かぶってるからまだ外聞がマシなだけよ。本当なら街に行くたびに罵られて石ぶつけられてもおかしくないわ。それに、自分がしていることを客観的に知っておくのも大事なことよ。今回も国に処罰させなければならないはずの罪人を自分の判断で殺したんだから」


 カグヤはレイルに自覚を促した。

 しかしレイルは自分が人道に反していることなど重々承知だと、笑ってごまかす。


「レイルくんが手段を選ぶのは自分のために、でしょ?」

「よくわかってんじゃん」

「で、もうそろそろ私たちが向かう場所を教えてくれてもいいんじゃないかしら」


 ミラは一足先にユナイティアに報告のために戻った。

 では同じく転移が使えるくせに、この五人(サーシャとアークディアをひとまとめに数えてだが)は何をのこのこと歩いているのか。

 さすがに見知らぬミラと二人で戻されるぐらいなら、とレイルたちの寄り道に付き合ってはいるが、こうして徒歩でこんな場所を歩かされるとは思わなかったサーシャは現状説明を求めた。


「ん? 言ってなかったか。エルフの里に向かおうかと思ってな」


 そう、彼らが歩いていたのは緑降り注ぐ森の中であった。

 見通しはよくないものの、普通にしていれば歩いて通り抜けられそうな程度の木々だが、エルフの里にかけられた術はその周囲にも微弱ながら影響を及ぼしている。だからか、森の奥に入るほどに霧が深くなり、景色もゆっくりと歪んでいく。毎年この付近に入るだけでも行方不明者が後を絶たないという。気がつけば同じところをぐるぐる回っていたりするのはまだいい方で、エルフの里の術に本気でかかった場合はそのまま自分の時間を永遠に引き伸ばされて帰ってこれないこともあるという。


「懐かしいなー。ここでフォレスターさんを颯爽と救ったんだっけ」

「何を記憶を捏造しているの? 魔物諸共私の電撃魔法で気絶させて自作自演まがいで信頼させただけでしょ」

「自作自演とはひどいな。魔物に襲われていたのも、それを救うように言ったのも事実だろうが」

「カグヤちゃんならレイルくんが言わなきゃもっと安全な方法で助けてたと思うなー」

「はい。申し訳ない。あれもこれも俺が悪いんです」


 思い出を懐かしみながらも、馬鹿げたやりとりをする三人に、サーシャは話から疎外されたことと、話を誤魔化されたことの両方で怒った。


「まだ私は理由を聞いてないんだけど」

「いやあ、擬神のことを話そうと思ってな。エルフの里とは転送装置の座標交換を済ませてなかったし、こういう話は直接言った方がいいかと思ってさ。で、エルフの里に行けるのってこれを持ってる俺らだけだし、ノーマやアクエリウムならなんとかなるからな」


 とレイルは自分の耳につけた赤い宝石の耳飾りをとんとんと人差し指で示した。

 先ほどから赤い光が一直線に森の霧が深い方に向かって伸びている。


「あんたたちって……」


 人間嫌いのエルフからそんなものを渡されていると聞いて信じがたいが、レイルたちならやりかねないと思ってしまい何も言えなくなる。


「ちょっと里を救ったご縁でな」


 レイルはこまめな男であった。

 こういった情報を流すのは、出し惜しんでも得がないこともあるが、こういった情報を共有することで対応策ができたり、新たな発見に繋がったりすることを身にしみているからだ。

 レイルたちが情報を渡すことで明らかになったことはレイルたちに報告してもらう。そういう姿勢の積み重ねがユナイティアを情報の集まる場所へと変え、自然と柔軟な対応のできる国家へと成長させていく。そのように考えているレイルの思考は既に冒険者のそれではなかった。


 とはいえ、周りも馬鹿ではないし、長く共に冒険した中でレイルの考えをなんとなくではあるが察しているので、レイルがエルフの里に報告に行くと言ってもあまり違和感を覚えなかった。





 エルフの里ではいたく歓迎された。

 サーシャも、レイルたちの知人なら、とやや渋りながらではあるが特に連れて入ったことに咎められる様子もなかった。

 里にいた人が親しげに挨拶し、中には感激して握手を求めてまできたことにサーシャは終始驚いていた。

 もしかしてレイルが悪魔や魔法で幻覚を見せているのかとさえ疑ったものだが、長老の屋敷にて食事まで出されたところで我に返った。


 長老にリューカからここまで空間転移で来たことを話すと、酷く恐縮していた。


「話……とは何のことかの?」


 長老はやや緊張した面持ちで尋ねた。

 レイルは気軽に使っているが、本来空間転移とは人智を超えた技。それを使ってまで来たレイルの用事というものが、そんなものを使えるレイルでさえ手に負えないような難事であれば……という不安があった。


 植物素材の浴衣のような着物に身を包み、腰のところを紐で結んでいる服は全然違うがレイルに日本を思い出させた。その一方で、まさにエルフの服という感じもあり、なんともいえない心もあった。


「実は……」


 五人はリューカにて出会った擬神のことについて話した。

 そもそも精神生命体を作る技術というものは元からあるのか、神の抜け殻のようなものに需要はあるのか、逆にレイルたちから聞くことも多くあった。

 それを作った相手の情報と処分についても話したところで、レイルたちは話を切り上げた。


 手紙の転送装置はこのような場所にも当然あった。

 そしてこの装置にはレイルの前世でいうところの、連絡先交換のような手続きを踏む必要があった。

 ユナイティアがまだ自治区でしかなかったころに、ギャクラから幾つかの国の手続きを済ませてあるので、人間同士の国との手紙転送については問題がなかった。

 しかし、アクエリウムやノーマなどの場所については人間の国との手続きなどしていなかったので、ユナイティアが最初のこととなる。

 このような場所、といったが、このような場所だからこそ、だったのかもしれない。もしかしたら過去にこっそりと人間の国とのやりとりがあったのかもしれないと思うと、初でないことにレイルは微量の悔しさを感じていたり。


 これでサバンと含めて四つもの他種族との交流を持つことになるユナイティア。できてからの期間を考慮せずともこれは異例のことであった。


 前世で連絡先交換は友達とするもの、つまりはアドレス帳は友達リストみたいなもの、という高校生らしい感覚を未だ持ち合わせているレイルからすれば、遠く離れた知人との連絡手段が増えたことを素直に喜ぶぐらいの感覚でもあった。

 いろいろと打算的に動くくせに、そういったところばかりは子供のようだとアイラは思っている。


 レイルたちが再びこの里を旅立とうとした時には何人ものエルフに別れを惜しまれた。

 中には「部屋も空いてるし、よければずっと泊まっていってもいいんだぞ!」とまで言ってくれる人もいたが、レイルたちはそれら全てを丁重に断った。


「ここもここの人たちも好きですが、僕たちの居場所はここではないので」


 珍しく猫を被って丁寧にかつにこやかに断られては、エルフも無理にはとどめようとはしない。

 サーシャはもっと色々と話したかったこともあるようだが、こうして里に入れただけでも貴重な体験ができたとばかりに諦めた。いや、諦めたというよりはいっぱいいっぱいで尋ねる余裕もなかったというところか。



 ◇



 そして、レイルたちは結界の外へと出た。

 しばらくは空間転移も乱れるため、森の外へと出るまでは耳飾りの示す方向とは逆へと歩き続けた。

 森から出ようとした時、木々の間をすり抜けてくる足音を聞いた。レイルは空間把握でその正体を理解しているくせにみんなに報告もせずにそいつを出迎えた。

 間もなくその足音の主が木々の陰から出てきた。

 やや低い鼻に、肩から斜めにかかっただけの服に、大きな口からは歯が見えている。浅黒い肌と巨躯がその正体を如実に示していた。


 森の巨人、または妖精とも言われるトロールであった。


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