年下は生意気?
勇敢なる戦士を一人、便所送りにしたところで、他の客人の相手もせねばならない。
明らかに変態臭のするお兄さんは天使さんと別部屋にしておいたが大丈夫であろうか。
全員を別の部屋にして順番に対応ってなんだか事務的だよな。
「次はあの男の子、かな」
こういう厄介事は避けられないくせに解決しても一文の得にもならないから苦手だ。
特に相手が話の通じない相手で、こちらを悪と決めつけている時なんかもう大変。あながち自分に誇りも正義もないだけに、面と向かって糾弾されると返す言葉もないのがまたね。
「参りましょうか」
気がつけば後ろにレオナがいた。その隣にはアイラも来ている。俺から目を離すつもりはないらしい。カグヤは王族かもしれないと見ると早々に引っ込んだ。過去に嫌なことがあったんだったっけか。あまり詳しくは聞いてないけど。
「ちゃんと紹介してくれよ?」
「もちろんです」
返事だけはいいんだからな。
扉を開けると行儀良く座っているあたり、育ちの良さを感じさせる。
お付きの護衛は大半が外で待機しているらしく、二、三人の兵士と一人の世話役のような男性がいた。
世話付きなんて妙齢の女性がお約束だと思ったのは、前世のオタク文化に毒された弊害ということか。
「待たせたね。君の名前を聞いても?」
少年は俺より少し年下だが、おそらく身分の高い相手ということで、やや丁寧に尋ねた。
彼は胸を張ってその名前を言った。
「アンセム・ストンエルだ。レオナの婚約者だ」
主要国家の王族の苗字はだいたい覚えている。その中の一つにストンエル家の名前もあったことを思い出す。俺も行ったことのある国だ。
「違います。舞踏会にて私のことを見て気に入ったらしく、度々婚約を申し込んできているのですが、婉曲表現で断っております。しかししっかりと伝わらなかったようで、大変遺憾です」
そんな冷静な否定も彼の耳には入っていないらしく、アンセムは陶酔したようにキラキラした目でレオナを見つめている。
「あの日、レオナを見たときにから世界が変わったんだ」
そう言うと、彼はレオナへの思いを語りだした。
彼は初めての舞踏会で、レオナを見かけて踊りに誘ったのだが、レオナも外ではお姫様であるため断るに断れなかったのだ。
出会いから一挙一動までつぶさに観察していたというその発言はやや鬼気迫るものがあった。
ひとしきりレオナの魅力を語り尽くされたところで、その本人に説明を求めて目を向けた。
「だから、この間何度目かの婚約申し込み状が来たときに申し上げてあげましたの。私には心に決めた方がございますから、って」
きっとアンセム君にはこのセリフも語尾にハートマークがついて、背後にはお花畑が見えているのだろう。
俺には煽り文句としての星マークと、ゴゴゴゴという効果音しか聞こえないけど。
「レオナの目を覚まさせてやる! きっと怪しげな術とかでも使っているに違いない!」
そんなものがあれば便利だよな。きっとこの間のオークス選挙も楽に勝てただろうよ。
後ろの世話役さんも、自分ところの主人が暴走してるんだから止めてやってほしい。
「ふふっ。あんなこと言ってますわよ」
レオナがそっと俺によりそって囁きかける。当然、彼を煽るためだ。この腹黒お姫様め。アイラが黙っているのが妙に怖い。
「どうせ、外面に釣られただけの哀れなお方ですわ。一思いに言ってやってくださいませ」
いやいや。そんなことを言う権利が俺にはない……そうだな。
「レオナ。君を渡すとか、渡さないとか俺が決めることじゃない。君のことは好きだけど、国とかそういうしがらみを抜きにして、どうするかは君が決めることだ。ここにいることを強制するつもりはないよ。選んでここにいてくれるなら、共に歩んでほしい」
芝居がかった口調で、プロポーズ紛いのセリフをはいた。
渡すとか、渡さないとか(人材的な意味で)俺が決めることじゃないし、共に(自治の道を)歩んでくれないかというのも本当の気持ちである。
レオナの素晴らしいところは、ここで喜びつつも勘違いせずに、こちらの意図を汲み取ってくれるところだ。
俺の芝居に合わせて、見事な女優っぷりを見せてくれた。
「ええ。レイル様は(能力的に)素晴らしいお方ですわ。私はここで存分に(自治に)尽くしたいと思います。私は自分の意思でおります。どうかここを居場所にさせてくださいな」
「レイルくん。私は?」
アイラがいい具合にのってきた。
「もちろん。大切(な仲間)だと思ってるよ。俺に愛想をつかさない限り側にいて(戦って)ほしい」
かっこだらけのやりとりで、擬似的桃色空間を作りあげる。
お前など敵視どころか眼中にもないと言わんばかりの態度に、自分は土俵にさえ上がれていないと気づいたアンセム君は憤慨した。
「いい加減にしろ! バカにしやがって────」
立ち上がって剣を抜いて叫んだ瞬間、俺もまた瞬間移動して剣を抜いた。
「で、どうするって?」
自らの主君が首に剣を突きつけられ、腰の剣を抜こうとする護衛を世話役の人が手で制する。
王子の直接の命令がない限り、世話役の人の命令が最優先されるらしい。
「こんなことをして許されるとでも……」
「なあ、勘違いしてないか? ここはお前のよく知るお城でも、ましてや国の中でさえないんだぜ? ここでお前を含む全員を殺して、お前のとこの国に聞かれても「さあ? くるまでの間に魔物にでもやられたのでは?」ってとぼけることもできるんだぜ?」
剣を抜いた時点で、殺されても文句は言えない。そういう場に立ったこともないのだろう。
剣をおさめると、アンセム君は力が抜けて再び椅子に座り込んだ。
すぐに我を取り戻して、世話役を問い詰めた。
「ガイゼル! どうして止めなかった!?」
いや、そうだよな。確かにこの人護衛を止めたんだけど、その理由がわからない。
「良い経験だと思いましたので」
「経験だと?」
「ええ。どうしようもない相手、権力の通じない恐怖を一度経験してもらった方がよろしいかと。それに、そこのレイル様は自己保身に関してはかなり頭が回ります。ここであなたを殺すことに得がなければ感情に任せて殺すことはあり得ませんので」
「もしかして……俺が褒美に情報開示を頼んだ時に近くにいたか?」
「思い出されましたか? 冒険者が強さ以外の名誉を求めて、間接的に国を後ろ盾にするのは珍しかったもので」
そう、彼らはウィザリアの人間であった。
「アンセム様のお世話は私が一任されております。多少の精神的苦痛を伴う試練もあるということですね」
とんでもねえスパルタ野郎だ。
俺もこいつの教育に利用されたってことかよ。
「くそっ……くそう!」
「年は一つ、二つしか違いがありませんが、彼の方が上手ですよ。まだ敵いませんね」
「レイルくんだもの。諦めた方がいいよ?」
アイラは怖えよ。何の脅迫だよ。
がっくりと項垂れるアンセムはもう議論するほどの元気もないと思ったので、今回はこれで終わって諦めきれないなら滞在中は何度でも面会してあげると言い残して部屋を出た。
「良かったのでございますか?」
「何がだ?」
「レイルくんにしては優しかったっていうか、甘かったね。もっとボロボロにするかと」
「ああ、あれでも結構キツく当たったぞ?」
悪い癖だ。歳が少し違う生意気な相手にはキツく当たるという思春期特有の習慣みたいなものが出てしまった。
お前は精神年齢おっさんだろ? いやいや。いつまでも少年の心を忘れないっていうことだ。悪い意味で。
多分肉体に引っ張られたのかもしれない。
「まああいつはそこそこまともな王様になるかもな」
「悪いのですが、そうは見えませんでしたが……」
「いや、なんだかんだ言って最後までは王族であることを武器にしなかっただろ? 俺だったらふんだんに使ってたなーとか、まだまだ甘いな、使えるものは使えとか言いたいけど、権力を笠に着て驕らないならまだいい子なんじゃね?」
めっちゃ叩き潰したけど。
はあ……まだ一番嫌なのが残ってるんだよな。




