一つの行動でも違う意義を
全員が降参してこの戦いは終わりとなった。
ここで下手に金など要求すれば、これ幸いとばかりにこいつらは俺たちの悪い噂を吹聴してまわるかもしれない。
アークディアをわざわざ登場させてその口封じをしたのはこのためだ。
アークディアのことを黙っておくと騎士道や自分の名前に誓った以上、彼らはアークディアについて他の人に話すことはできない。
すると、俺たちが卑怯な手を使ったといって他の人に話そうとしても、じゃあロウの代わりに誰がいたんだ?と聞かれると黙らざるを得ない。
それは話に不自然な部分が出てきて信憑性を欠くということである。
どこかの部分で話せない部分があるというのは、そこが自分たちにとって不都合で隠したい部分であるかのように思われ、そんな不都合で隠すことがある人間の話はなかなか信じられにくいものだ。
そうでもなければ、聖騎士相手に、魔族と並んで天敵とも言える悪魔を呼んでくるわけがない。
「ははっ。気分はどうだ?」
不敵に笑いながら尋ねる。
三人とも何故か縛られたままだ。
いや、俺が指示したからなんだけれど。
「こんなことをしてただで済むと思ってるのかしら」
まだ強がるのはイシュエルさん。
そのセリフはむしろフラグだろ。
「じゃあ殺すか?」
ロウがさらりと提案した。
確かにその方法も合理的なのかもしれない。俺の空間転移さえあれば証拠隠滅なんて簡単だ。
三人が硬くなるのがわかる。
「いや、どうせ言えないだろ」
「どうしてそんなことが言えるの?」
「こいつらが俺にとってはどうでもいい誇りとやらにとらわれているからだよ」
それを捨てて誇りなき騎士様とやらに成り下がるならできるけどな。
アークディアのことを出さずに信ぴょう性のある話で俺たちを貶めることは無理だ。
こいつらもそれがわかっているからこそ、それを盾にしようとしない。
「こいつは……!」
「こういう奴なのよ。あなた方が喧嘩を売ってこなければもっと平和だったのにね。諦めなさい」
カグヤの発言だと俺が災害か何かみたいじゃねえか。(見た目だけは)年下の華奢な女にそんな風に言われればもっと激昂するかと期待したけれど、ややぐったりして動かないのはもう電池切れだからだろうか。
「まあいいや。とりあえずアークディアは戻れ」
アークディアは胸の魔法陣に消えていった。
いつでもどこでも人員を増やせるから実に便利だ。
精神世界や冥界でこそ本領を発揮するらしい悪魔は受肉しないとその力も半減らしい。
どうやって受肉するのか知らないから、いつか聞いてみよう。
三人は依然として俺を睨んでいる。
「なあ、どうしたい?」
このまま縛って売り飛ばしたら……ダメだよなあ。
こんなに目立つ奴が売れるわけもないし、こいつの戦闘力は何かに使えないか……といろいろ悩んだが結局どうすることも思いつかない。
「お前らは俺らに負けたわけだけれども、俺らは何か言うこと聞かせられんの?」
そう、それも忘れていた。
俺としたことが、何の理由もなく決闘的なものを受けてしまったわけだ。
なんたる失態。
「そうだ。こいつらに一番屈辱的なことをしよう。俺らにたいしての負けを強制的に認めさせるようなこと」
「何をされても、騎士としての誇りは失うものか!」
「ふん。好きなようにしろよ。どれだけ体を辱められても変わらないぜ」
「僕はアイラを諦めてはいない。アイラ、君は本当はもっと優しい子のはずだ。そんなやつの元にいては毒されてしまう。どうしてこいつに付き従うんだ」
ここにきてまでアイラの心配か。
というよりお前、アイラの何を知ってるんだよ。逆にアイラはこいつに何をしたんだ。かっこよく助けただけじゃないのか?
「うるさい」
ううむ。これってあれだよな、心からの思いを伝えることによる闇堕ち系ヒロインの改心イベントだったんだよな?
いや、アイラがこれぐらいの言葉でほいほいとなびくような軽い女じゃないことはよく知っているつもりだ。
それにそもそも悪いことをしていないのに改心とはこれいかに。
「ねえレイル、彼らに何をするつもりなの?」
「殺すよりもなんかあったか?」
「いや、逆。何もしないよ」
そう。あの時の拷問とは似て非なるものだが、俺たちは彼らに何もしないのだ。
こういう時にこいつらに暴力などをふるえば、彼らに正当性ができる。
やはりこいつらは悪だ、負けたのは卑怯な手を使われたからであって、必ずここから逆転してみせる、と。
彼らは負けたことを罵り、俺たちを害することに理由をみつけ、これまでと同じように反抗し続けるだろう。
何もされなければ?
彼らの怒りの矛先が向かう場所をなくして胸の内へと押しやられるだろう。
負けたのに何もされなかったという矛盾が彼らの中に負い目や引け目を作り出し、俺たちに手を出すことへの罪悪感を生みだす。
そうなれば、彼らが騎士という誇りを捨てないかぎりは俺たちに手を出すことはできなくなるのだ。
なんとも本末転倒な命の恩人という立場になれるわけだ。
誇り高き騎士をやめた場合?
それはそれで俺たちの完全なる勝ちだ。
だって彼らの生き様をたった一度の戦いで、犠牲もなく変えられる。
しかも彼らが忌避する、「決闘で負けたことを認めず、見逃してもらったのに恩を忘れて襲いかかる」ような野蛮で醜いただの人より強いだけの騎士という役職の人間へと堕落させることができる。
彼らの心の中には、自分から決闘を挑んでおいて無様に負けて見逃されたという汚名がつきまとう。
声高に俺たちのあらぬ悪評でも流せれば楽なのだろう。
だが彼らが誇りなどというものを胸に抱くうちは、いつまでたってもこの傷は癒えることはあるまい。
彼らは今、心の中の正義が揺らいでいることだろう。
それがために、目的を達成できず、明らかに真っ当とは言い難い方法で敗北したのだから。
ここまで説明し終えたところで、三人とも何も言うことはないようだ。
「……そうか、いいんじゃねえか?」
「あんたって…………」
「そっかーそんな方法もあるんだ」
何が一番傷つくか。
人によってはきっとこれは一番甘い選択だと言うかもしれない。
だがこれは、相手のプライドが高ければ高いほど、彼らの心を苛む枷となる。
「何も……しない、のか?」
「おう。お前らなんか役にたたん。どこにでもいけ。まだトーリとかいう勇者候補の方がいくらか役に立つ」
ここで再度、今度は不意打ちで襲いかかってきてもどうでもいい。お前らなんか、相手する価値もない。
このように俺たちはきっとこのことをたいして深く考えず忘れていくのだ。
人に相手にされない。それは何よりも屈辱的なことではないだろうか。
俺なら無視されるぐらいなら罵られた方がマシだ。いや、敵に罵られるのもさほど嫌いではないか。
縛り上げた彼らが汚物を見るような目で今もなお睨んでいるのはなかなかに気分がいい。
勝者の余裕というやつだろうか。
◇
面倒くさい奴らを野に放ち、エターニア観光再開と洒落込んだ。
この国の図書館についても興味があったが、隣のヒジリアに目をつけられるのも嫌だしということで遠慮しておいた。
それに薬なら金に任せて買えばいい。
中身や製法まで知らなくても俺たちは保存に心配がないのだから。
毒と薬は紙一重。
その言葉を示すように、この国の医療施設には毒もあった。
面白そうなものを、大量に購入し、この国を後にした。




