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弱者は正義を語らない 〜最悪で最低の異世界転生〜  作者: えくぼ
レイルの危機

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誰が誰と戦うのか

待望のアランぼっこぼっこ回(主に精神的に)

 降参するか戦闘不能にする。

 その勝利条件は正々堂々遺恨の残らぬように決闘するときのオーソドックスなルールの一つとしてメジャーなものではあるらしい。


 始まってすぐに攻撃に転じたわけではない。

 両者とも睨み合いの中、アランが尋ねた。


「彼は参加しないのかい?」

「キノにはアイラを守ってもらっているよ」


 ここにキノを参加させなかった理由は簡単だ。

 機械族マシンナーズだと隠しているから一人としてカウントしなかったのである。

 その旨を説明すれば、キノもわかってはくれたようだ。

 だがアイラのことを気に入ってくれているこいつとしても、アランにアイラが連れていかれるのは我慢ならないことらしく、その機械的な口調にも不満の色が滲んでいた。

 人間よりも人間らしい機械、か。


「まあいいか。あいつだけは……僕が倒す。君は両脇の二人を相手してくれ!」


 アランは俺に標的を定めているようだ。

 二人はアランのサポートという形であるようで、その命令に異を唱えることもなく二手に分かれた。

 ばっと二人が飛び出した。


「覚悟っ!」


 男がカグヤに、女がアークディアに斬りかかった。

 カグヤはその剣を刀でいなした。

 だがアークディアは女に手を出そうとはしない。ただその攻撃を避けるだけである。

 それはそうだ。俺の命令は戦え、でも倒せ、でもない。

 いや、いい。下がってろ。である。


「戦う気が……ないのかっ!」


「我が君の命令を忠実に実行するだけですよ」


 ひたすらに避け続けるその技量は圧倒的にアークディアの方が上であるようだ。


「お前も戦う気がないのか?」


「ふふ。攻撃もしてあげたいんだけどね。レイルがダメって言うから」


 カグヤは普通に強いため、時間稼ぎさえ頼んでおけばさほど苦労もしないだろう。傍目には防戦一方のようにも見えるが、それで十分だ。

 二人とも、勝たなくてもいいとわかっていればこれほど楽な仕事もあるまい。わざわざ対等な立場で戦わなくていい。


「レイル・グレイ! 僕と戦え!」


 抜いた剣を俺に向け、宣言してから走り出す。

 だから馬鹿なのか?

 相手に攻撃する前に宣言してどうするんだよ。何の意味があるのかわからない。剣では俺の方が負けそうなんだから、まともに正面からやりあう必要なんてない。

 空間把握と魔法を組み合わせても、接近戦に持ち込まれれば苦しいだろう。

 だから、いつも、側面から戦う。

 いや、今回に至っては戦わない。


「嫌だね」


 俺はアークディアに攻撃を仕掛けている彼女に向かって側面から奇襲した。

 俺が視界に入った瞬間、アークディアがわざと隙を見せたのだ。

 基本一対一の精神が抜け切らない彼女はそこを好機とばかりに踏み込んだ。

 剣がアークディアに届く瞬間、彼女の腕を斬りつけた。


「くっ! それでも、お前はここで終わりだ!」


 アランも不意打ちやらなんやらの策にはまったことに動揺しっぱなしではなかった。

 すぐにその横から俺に向かって突撃してくる。

 ここで「なんて卑怯な!」とか言って止まってたら残念すぎる。


「待たせたな、ロウ。もういいぞ」


 途端にアランの動きが止まる。

 壮絶な殺気を感じて、冷や汗がびっしりと顔面に張り付いている。

 それもそうだろう。


「死にたくなければ動かないでくれよ」


 ぶわっと光が霧散し、アランのちょうど横にロウが現れた。

 アランの首元に短刀を突きつけている。

 ロウはニヒルにニヤリと笑い、その手を緩めることはない。


「どう……いう、ことだ……?」


 喉仏が動くのを恐れるかのように途切れ途切れに話す。

 未だその現状を掴めていないらしい。


「おかしい、だろこんなの!」


 アランの絶叫に他の二人もさすがにその動きを止める。

 驚いたかもしれない。自分たちの中で一番強いであろう男が突然現れた白髪の青年に刃物をつきつけられているのだから。


「おいおい、あんた、どういうことだよ。三対三じゃあなかったのか?」


 最初俺たちを何故かみくびっていた彼がカグヤに対しての警戒を解かないまま尋ねた。


「何が?」


「お前と、このお嬢ちゃん、そんでそこの悪魔だろう? どうしてそこでそいつが出てくるんだよ」


「なあ、俺がいつそこの二人を三人に含めたなんて言った? 俺とロウは含まれているけどな。俺はただ単に、この三人とは言ったが、何もカグヤ、アークディア、俺とは言っていない」


 最初から、戦う予定の三人はロウとカグヤと俺だぜ?

 初見ならともかく、既に手の内を知られたアイラを出すつもりはなかったし、聖騎士を本気で悪魔にぶつけるほど命知らずじゃねえよ。

 誰が言わないにしても、悪魔に殺された聖騎士なんてすぐに誰がやったかバレそうじゃないか。

 一番楽に勝とうと思うのなら、奇襲の得意なロウに仕留めてもらった方が楽なんだよな。


「よくやったな。お疲れ、ロウ」


「ここまでお膳立てしてもらってできなきゃ俺は斥候職をやめるよ」

「じゃ、そいつ縛っておいてくれ」


 そうしている間も、カグヤもアークディアも決して目の前の相手から目を離さない。

 俺に至っては空間把握で全員から目を離さないようにしている。

 それを感覚だけで感じとっているのか、二人は迂闊に攻めてはこない。

 普通に相対するよりも隙を見せていないのだから。


 ロウによって縛りあげられ、それを助けようとなんて真似をすればすぐに俺たちに攻撃されて終わるであろう状況にまで追い込まれたアラン。

 これで三対二だ。

 圧倒的有利とまではいかないから油断はもちろんできないが、それでもいくらか楽になっただろう。

 そして、俺の先ほどの発言から、まだ目の前の二人にはカグヤとアークディア、どちらが参加しているかわからないのだ。

 どちらも手を出さず、俺はロウと俺しか明言していない。

 縛られたままのアランが叫ぶ。


「君はどっちを三人に含めているんだ。説明を要求する!」


 そう。それでいい。

 最初から誰が三人に含まれているか名前を言うように尋ねればこんな事故は起こらなかった。

 俺の故意によるものだから事件だって?

 まあそうとも言う。


「ははっ。最初からこの悪魔は三人に含まれていない。カグヤ、ロウ、俺で三人だよ。仕切り直しだ。始めようか」


 だからこいつら甘いんだよな。

 いくら俺たちが隙を見せなかったからと言って、カグヤにもアークディアにもアクションを起こさないとか。

 正々堂々、ねえ。

 そんなものは糞食らえ。


 縛られたアランを放置し、ロウにはカグヤの補助に回ってもらった。

 というのも、付き合いの長いロウの方がカグヤに合わせやすいだろうし、そもそも俺は二対一という戦い方に向いていない。


「悪魔は外れ、ですか。とことんしょうがない人のようですね。あの子を貴方から助けたいというアランの気持ちもわかりました。また彼の勘違いだったら剣を引こうと思っていたのですが」


「ごちゃごちゃ言ってんなよ。俺がどんな人間であろうと、ついてくるかはそいつが決めることだ」


 なんの挨拶もなしにセリフを喋りながら空間魔法で首元狙いの場所へと剣先を転移させる。

 やはり達人級にもなると、気配だけで避けられるものらしい。

 俺は空間把握に頼っているところを思うとまだまだだとは思う。

 かと言って結果が全てのこの世界で、今更どうかしようとも思わないけどな。


「その域まで空間転移を使いこなせる……だと? それほどの腕がありながらどうして小細工に頼る!」


「逆に仲間がかかってるのにどうしてギリギリの戦いを強いられなけりゃならないんだ」


 つばぜり合いに持ちこまれた。

 非常に嫌なので空間転移で一気に背後に回り込む。

 狙いは背中だったが、転移した瞬間に俺の思考そのものが読まれてたようで、大きく前に跳びのかれた。


「そういう卑怯な戦い方しかできないことを恥だとは思わないのか!?」


 なんだか既視感があるなあなんて思っていたらこれはあれだ。

 主人公が自分よりも強い悪役を倒すことはできないけど物語の展開的に負けられないときに説教で改心させて仲間に取り込むお約束展開のあれだ。

 いや、改心なんて。

 それって罪悪感がある人に向かってやるものですし。

 こんな茶番に付き合ってあげてるだけでも感謝してもらいたいものだ。


「あはははははっ! それなに? その冗談聖騎士の中で流行ってるの?」


 今度は空間転移でいっきに距離をとった。

 そして空間をぐにゃぐにゃに捻じ曲げて、つなぎ合わせていく。

 以前も行ったことがあるかもしれないが、紙をぐしゃぐしゃにして絵の具にその端を突っ込んだものを想像してほしい。

 その紙を開くとおそらく絵の具はあっちこっちに点々とついていると思う。

 それと同じことを空間で行った。

 斬撃は無数に広がり、どこに出てくるかも予測がつかない。

 その全てを剣一本で防ぐのは不可能に近い。


 ガガガガガガッ!!!


 激しい衝突の音が鳴り響く。

 そのほとんどは彼女の鎧に防がれてしまったけれど、いくつかはやはり鎧の関節部分などから露出した肌を傷つけたようだ。やーりぃ。


「なんだ、この技は!」


 だーかーら。それをわざわざ口頭で説明するバカがいるかっつーの。


「つぎつぎぃ!」


 今度は波魔法を組み合わせる。

 剣が反射した光を捻じ曲げて別の方向から来たように見せかける。

 そう、単なる幻惑魔法にすぎない。

 だがいくら気配を読むのに長けていたとしても、人間というものは第一に視覚に頼ってしまうものだ。

 その視覚のズレは暗闇の中で戦うよりも彼女を激しく消耗させる。

 あっちこっちから気配と視覚の二重剣が襲いかかる。

 視覚を無視して気配だけを探らねばあっという間に刈り取られる恐怖に冷静さを保ち続けられるはずもない。


「どこからくるか当ててごらん」


 博打に出られるわけがない。

 必死で剣の場所を俺の気配を読むことでどこにあるか探りながら防ぐので精一杯である。

 空間把握で補助しているからこそできる芸当ではあるが、俺自身の脳も酷使していることには変わりない。

 短期決戦で終わらせてしまいたいものだ。


 ん?

 何あれ、アラン泣いてるじゃん。

 そりゃあそうか。

 自分が勝負をしかけておいて、早々に不意打ちくらって縛られて退場って。

 団体戦だから助けてもらっても構わないんだよ?

 余裕さえあればの話だけど。

 目の前で仲間が一方的に攻められているところを見ると、自分の不甲斐なさに苛立つのだろうか。

 なんにせよ俺にとっては好都合でしかないけど。

 やったね! 今すごく煽りたい。ねえ今どんな気持ち?って詰め寄りたい。


「余所見とは、余裕だな!」


 彼女は俺の姿に向かって駆けてくる。

 剣は俺の胸元にまっすぐ突き刺さった……かのように、見えた。

 剣は空を切り、手応えのなさに何が起こったか正確に把握した彼女の顔が青ざめていく。


「だからさ、ちゃんと気配で攻撃しようぜ」


 俺の姿は光魔法でどこにいるかわからないように偽装したままだったのだ。

 そこにいると思われた俺はそこにはおらず、その横に彼女に剣を添えて立っていた。

 どっちにせよ空間把握で隙なんか見せた覚えもないけど。


 俺のほうは終了っと。


 見れば二人がかりでロウとカグヤが負けるはずもなく、そこには彼が血だらけで膝をついていた。


「あ、レイルの方も終わったみたいね」


「いやあ、楽させてもらったな」


「いやいや、俺もだよ」


 やはり波魔法というのは格別だな。

 物の見え方を理解していないと光魔法は一番攻撃力も応用力もない術だと思われているらしい。

 先ほども彼女や彼らが使っていたのも、光を魔力で強化し、剣にまとって使っていた。

 それができるだけでも彼らは十分すぎるほど優秀な魔法の使い手なのかもしれない。

 ただ、光が人間の視覚にどう作用しているか、生物と物理で教えられてきた現代人の感覚からするとこんな便利な魔法もないものだが。


 やっぱり決闘は自分が楽に終わらせるべきだな。

 実に愉快だ。

さあ、レイルは次にアランに何をしてくれるのか。

説教という名の精神的拷問は終わらない。

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