精霊武装
「精霊武装!?……とことん模倣ってわけか」
リューネが身に纏った真紅の魔力の鎧。
『精霊武装』。
聖剣より放出される魔力の余剰出力を鎧へと転換した姿。
その鎧、いや、その姿は、聖剣の解放により強化された身体能力とは別に、様々な恩恵を使用者に与える。
その一つが勇が用いる白亜の鎧姿、『古き翼』だ。
淡く光る白亜の鎧はあらゆる攻撃をその堅牢さで防ぎ切る。
次元を切り裂き、防御を無視するような攻撃でさえ『古き翼』の持つ『絶対の護り』という概念が先行し、鎧は切り裂かれるが使用者である勇は無傷、と言う結果を産み出す。
「……」
リューネの精霊武装は四肢のみを覆う魔力の鎧、そして背からはX状の光の翼が見える。
高速形体か、と勇が考えたその次の瞬間、勇の眼前に真紅の聖剣が迫って来ていた。
「!、ビン……ゴっ!」
咄嗟にリューネの真紅の聖剣を打ち払い、返す刃でリューネの肩を狙う。
肩を浅く斬れば剣は持てなくなる。そう考えて放った聖剣による一撃だが、
「……えっ」
自分の腕から吹き出た鮮血に、勇の目が開かれた。
見れば肘から先が切り落とされていた。
見えなかった。
爵位持ちの魔族すら殴打で屠り、雷でさえ見切る聖剣開放時でありながら、見えなかった。
いや、斬られた感覚すら無かった。
まるで最初からそうであったように――
「並行世界の呼び込み……!?」
並行世界と言うものがある。
行動によって起こる様々な可能性により分岐する無数の世界。
勇がリューネの攻撃を防いだ結果、防がれなかった可能性が生まれた。
防がれなかった場合、勇の両腕は切り落とされる。
今起きたのは、そんな可能性を並行世界から呼び込みし、現実を上書きする現象。
「……」
それはかつてただ唯一、魔王が成し得た現象だった。
「なん……なんだよ、お前は……!!」
目の前が真っ白になる程の激痛の中、勇は呻くように言葉を吐いた。
それは彼女、リューネと相対して何度も感じた疑問。
何故勇の名を知っていたのか。何故聖剣を持っているのか。何故常人とはかけ離れた身体能力を持っているのか……何度も沸いた疑問だった。
だがしかし、今回ばかりは、受けた衝撃と動揺が大きすぎた。
迫る聖剣の刃に、意識を向ける事ができなかった程に。
◇
「……っ」
視界がグルリ、と回転した事で漸く勇は首を撥ねられたのだと理解できた。
何かを考える暇も無く意識は遠のき、その刹那、意識は急激にクリアになった。
「き、貴様……!?」
「……俺が化け物だ、って言ったよな?」
少女の驚愕に歪んだ表情は恐らくこの会場の多くの観客の代弁だろう。
「そう、勇者なんてのは化け物へ贈られる称号みたいなもんさ」
首を撥ねられた筈なのに、腕を斬られた筈なのに、落ちた腕と首が綺麗に元通りになっているのだから。
「けどな、俺は心まで化け物になりさがったわけじゃねぇ……お前は、どうなんだ?」
そう尋ねると、リューネは狼狽した。
「わ、私は……うぐっ!……き、貴様を……お前を、殺すっ!!」
だがそんな様子は一瞬で、変貌するように消え去った。
感情を上書きされたような、そんな不自然さが見て取れた。
「どこぞの誰かに弄くり回されたのか知らねぇが……やっぱり《・・・・》って奴なのか」
思えばその兆候はあった。
憎しみの対象が魔族には全く向いていない事もそうだ。
「き、消えろぉぉぉっ!!」
もう一度リューネが姿を消し、光の刃が眼前に迫る。
「二度も、同じ手は食わねぇ」
今度は打ち払う事無く剣の腹で攻撃を受け止める。
甲高い音を立ててぶつかり合った聖剣は、
「な、何故っ!?」
「並列世界の呼び出し……因果の操作……残念だったな、この能力どうしがぶつかると能力が互いに不発に終わっちまうんだ。知らなかったろ?」
つばぜり合いの様相を保ったまま、剣はギチギチと音を立てて擦れ合う。
リューネが驚いたのは仕方の無い事だった。能力が発動してない?何故発動しない?
そんな驚愕から漏れた言葉に、勇は剣に力を込めリューネを押し返す。
「さて、やる事は決まったな。先ずはアンタを正気に戻して、アンタに聖剣の力を与えやがったどこぞの誰かをとっちめる」
聖剣を突き立てた勇は片手の拳を開いた手のひらに打ちつけ気合を入れる。
「だから、……見せてやるよ、俺の二つ目の『精霊武装』!」
勇を包むように現れたのは海のように青い外套、雪のように白い篭手と胸当て。
「『白き大地』!!」
騎士のような軽装鎧を纏った勇が口元をつりあげ不敵に笑った。
ちょっと短めですがお待たせしました。
次話の展開的にここで切るほうが都合が良いのデス
ではまた次回!




