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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
174/192

告白と邂逅と

夜なのに祭りのような賑やかさがガラリエの街にはあった。

いや、事実祭りなのだ。


年に一度の魔装演武本戦の夜だ。決勝は明日に延期されたが、祭りが伸びたようで街の住民や観光客は大喜びだ。


「すっげぇ人込み。ルクセリアでも戦勝祝いの祭りがあったけどそれいじょうだな」

水路は様々な色の光でライトアップされたゴンドラが水上を走り、陸路には屋台が並ぶ。

ゴンドラも、陸路も人で埋まり切っていた。


「海上貿易の中心地と言うのもあると思いますけど、この祭りには世界中から人が集まるみたいですよ」

「へぇ、世界中か」

人込みの中をベルナデットと一緒に歩く。その人込みには俺たちのような人間の他にエルフやドワーフと言った亜人も多く見られる。


「拳闘見るために世界中から……まぁそりゃそうか。ワールドカップとかオリンピックみたいなもんだしな」

「わーるど?おりん……」

ベルナデットが首を傾げる。あ、普通に言葉が通じるから忘れてたけどこの世界には流石に言葉自体がないか。

「ワールドカップにオリンピック、な。ワールドカップはサッカーの世界大会で、オリンピックはいろんな競技で各国のスポーツ選手が争うんだ」

「へぇ。本当に魔装演武みたいですね」

「オリンピックとかは四年に一度とかだったりするけどな」

そう言えば2018年のオリンピックはどうなったんだ?開催地が決まる前に召喚されちまったからな。んー、どこだろ。日本とかだったらなんか嬉しいな。



「……それにしても、ヤシロさんには驚かされてばかりでしたね」

「え?……勇者だって隠してた事か?」

他には特に何かした覚えがないからこの事か?


「勇者だって知ったのもあります。けど観戦目的だった筈の大会に出てるんですもん。それも『黒き執行者』だなんて……私、いつの間にかヤシロさんと共闘してたんですねー」

あ……そう言えば俺が『黒き執行者』だってベルナデットに言うの忘れてたな。


「す、すまん。ふつうに教え忘れてた」

「……ふふっ、別に責めてるわけじゃないですよ。それに、リリルリーさんにトーレさん。お二人とも素敵な方でした」

「そう言えばそれもちゃんと紹介し忘れてたな」

「大丈夫ですよ。ちゃんとお二人とお話ししましたし」

「そっか」

「ええ……それで、思ったんです」

「?」

「私はヤシロさんの事殆ど知らなかったんだなって……」

ベルナデットは少し寂しそうにそう言った。


「……そんな事、俺だってそうだろ。俺だってベルナデットの事、半分も知らないぞ?俺が知ってる事なんてスリーサイズと下着の趣味くらいだ」

「ななっ、なんでそんな事知ってるんですか!」

「そりゃぁ……ねぇ?」

「ここでその不敵な笑みは気持ち悪さしか感じません!……ふふっ」

俺を叱るように声を張り上げたベルナデットだったが、何がツボなのかクスクスと笑い出した。


「ん?どうしたよいきなり」

「楽しいんですよ。ヤシロさんと話してると、自分を偽らずに話せますから」

「……そいついはどうも」

あんまりにも嬉しそうに笑うもんだから、俺はついその笑顔に見惚れてしまった。


「……」

「……」

会話が止まる。だが決して居心地が悪いわけではない。

むしろどこか安心できる雰囲気だ。

そんな雰囲気の中、ベルナデットが切り出した。


「私、任を解かれたんです」

「……は?」

「ヤシロさんの、護衛の件です」

「俺を他の代行者から守るって言う、あれか?……結局襲われなかったけど」

「大司教様が……ヤズール・フェルナテオルグ大司教様が手を回していてくれたようです」

「ヤズールって……へっ、随分と出世したなあの不良神父め」

ヤズール・フェルナテオルグ。かつて共に旅した仲間だ。

聖女として覚醒したオリヴィアに慕って旅に同行して来た口だが、酒は飲むしタバコも吸うし娼婦は抱くしと神父らしからぬ神父だった。


「でもなんでまた突然……」

「……仕事が入ったんです。……代行者としての、仕事が」

「代行者ってのは、誰かを……その、」

「はい、殺さなくてはいけません。……ヤシロさんの件こそイレギュラーでしたけど、本来私たち代行者の役目は生かしておいては多くの教徒、いえ、多くの罪の無い人達を陥れようとする邪教徒を暗殺こと」

「今回は、そのひでぇ奴、ってわけか……」

「はい。……『神降ろし《アドベント》』と称し人の身に魔を降ろす邪法を使う者達の征伐……」

「神降ろし《アドベント》あのツインテールが言ってた奴か……」

この街に来た早々に再会した海斗のハーレムの一人、茜が言っていた。


「なぁ、代行者ってのは他にも居るんだろ?……何もお前がやらなくても――」

「ダメです」

俺が止めようとすると、ベルナデットは強い口調で言った。


「ダメなんです。確かに私より腕が立つ代行者もいます……けど、今度のは絶対に、私が終わらせなくてはならないんです」

俺と同じ黒い瞳には、強い意志が感じられた。


「理由を、聞いても良いか?」

「……姉なんです」

「姉って……!」

「アナスタシア・レヴィ……私の、血のつながった唯一の姉……代行者でもあった姉が、邪法を扱う者達を率いているんです。だから、だからこそ私が止めなくちゃいけないんです」

ベルナデットの姉さんとやらにどんな考えがあってどんな理由があるのかはわからない。だが、外道に走った姉をベルナデットはどうしても許せないらしい。


「ですから……ヤシロさんとは、この街でお別れになります」

「そう……か。寂しくなるな」

「一緒に旅ができず、残念です……」



「ま、……その、なんだ。今すぐ行く、っつう訳じゃねぇんだろ?」

「はい。少なくとも明日までは居ますよ。ヤシロの試合だけは見ていくつもりです」

「へへ、んじゃあ頑張らねぇとな」

またもう一つ、戦う理由が生まれちまった。情けない姿は見せられないぜ。


ピュー、とどこか気が抜ける音がしたその次の瞬間、夜空に大きな花が咲いた。


「あっ……花火っ!」

「おおっ!」

色とりどりの光の花が、ドンッ、と音を立てて花開く。

見事な花火に周りから歓声があがる。



「俺のいた地球にもあったけど……レインブルク《こっち》の花火も良いもんだな」

「ほんと、綺麗です……」

俺とベルナデットは並んで夜空に咲く花火を見上げた。

花火は止まる事無く打ち上げれられ、辺り夜とは思えない光に包まれた。


「また旅、しようぜ」

「え?」

「これで終わりなんて、詰まらないっつうか……いなくなるってわかったら地味に寂しくなるっつうか……」

ううむ、続く言葉が思いつかん。ボキャブラリーの無さが露呈してしまう。


「そんな仕事なんてやめてさ。のんびりと旅なんてして……だってさ、女の子がそんな危ない仕事するなんて、なんか、おかしいだろ?」

博愛主義だとでも言われてしまうのだろうが、これは俺の偽りざる本音だ。


「――……ふふふっ。それって女性差別なんじゃありません?」

「ばっか、そう言うんじゃねぇって。……なんつうか、やっぱ嫌なんだよ、俺が」

「嫌、ですか」



「ああ。嫌だね。ベルナデットは笑っている時が、一番良い顔だからな。そんなつらそうな顔する仕事なんて、するもんじゃねぇよ」

「……ふふっ、なんだかそれ、気障っぽいですよヤシロさん」

「えっ、そ、そうか?……あー、でも確かにそうかも……うわっ、なんか意識したらめっちゃ恥ずかしくなってきた」

急激に顔が熱くなるのが実感できる、あーくそ、マジで似合わない事はするもんじゃないのな。



「ヤシロさん」

「ん?」

羞恥に俺が震えていると、微笑んだベルナデットが俺に向き直った。




「私……ヤシロさんのことが大好きです」

「――――」


「笑ってるヤシロさんが大好きです」


「戦う時とかにふと見せる真剣な時のヤシロさんはかっこよくて」


「ちょっとえっちな所もあるけど、そんな所も可愛くて」


「ずっと、誰かを愛し続けている一途さも、愛しくて」


「まだまだヤシロさんの事で知らない事もありすけど……でも、大好きです。貴方の事が、大好きです」


それはどこまでも純粋な、愛の告白だった。

花火が照らすベルナデットの顔は、まだ微笑んでいた。

緊張しているわけでもなく、不安な様子もなく、どこまでも柔らかな笑みでベルナデットは俺を好きだと言った。



知っていた。ベルナデットが俺を好いていてくれていたのは、俺も知っていた。

気づかないわけがない。ベルナデットは言葉にこそしてこなかったが、それでも気づかない筈がない。



「……ベルナデット、俺は――」

知っていた。知っていたが俺は気づかない振りをしてきた。

正直、俺もベルナデットの事は好きだ。だが、だがまだ……――



「わかってます」


「……え?」

「聖女様……ううん。オリヴィアさんの事をまだ愛してらっしゃるのは、わかってます。でも私は、そんなヤシロさんも大好きなんです。それだけは知っておいて欲しかった……なんて、勝手なわがままですね」

そう、柔らかな笑みのままベルナデットはそう言った。


「……敵わないな」

女の子ってのはほんと、男なんかよりも全然強いな。


心地よい雰囲気の中、俺達は打ちあがる花火を見上げた。















「あっ――」


それは、本当に偶然だった。


何故振り返ったのか、俺自身すらわからない。

決して声を掛けられたわけでも、触れられたわけでもなかった。




振り返った俺が見たのは、灰色の少女。だった

身なりの良い服を着てはいたが、その髪と瞳の色が彼女を印象付けた。

くすんだ灰色の髪、濁ったように光の無い灰色の瞳。


そんな灰色の少女を見て、俺の身体と思考は凍り付いた。

水をぶっかけられた電子機器が壊れるように、動かなくなってしまった。


「ヤシロさん?……――」

俺の異変に気付いたベルナデットが俺の視線を辿る。

そして灰色の少女にたどり着いた時、彼女が息を飲むのが聞こえた。





「オリ……ヴィア」


壊れたおもちゃから聞こえるような、かすれた声が、俺の口から漏れ出た。




「…………『担い手』」



夜空を花火が飾る。


待たせたな、一日遅れのクリスマスプレゼントだ!


……ちゃうねん、本当は24日に投稿する予定だったすよ。

こんな遅れるなんて思わなかったんすよ。


……デート回と言っておきながら全然デートっぽくないのは筆者の経験不足なせいです。

デートなんかしたことないんだよこんちくしょう( ;ω;)




……さて、ガラリエ編前編はこれで終了となります。

ガラリエ編後編は来年度の三が日辺りに投稿する予定です(予定を守れるとは言ってない)



ではまた次回。みなさん良いお年を~

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