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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
167/192

銀狼の弟子

 「……久しぶりだな、プロキオン」

 「ええ、お久しぶりです、師匠」


 闘技場の選手控え室へと繋がる通路で、俺はと獣人の少年、プロキオンは再会を果たした。

 今の俺は黒き執行者の外套を羽織りフードを被っているのだが、苦もなく俺と特定していたようだ。


 「陛下から教えられていたので」

 「なるへそ」

 俺の思ってる事に気づいたのかプロキオンは苦笑しながら白状する。

 答えを知っていたならそりゃ分かるか。


 「……随分強くなったな、プロキオン。正直見違えたぞ」

 「ありがとうございます。これも師匠のおかげです」

 俺の言葉に嬉しそうに笑うプロキオン。その笑みに、俺もようやく安堵できた。

 リングの上でのプロキオンは、俺が知っていた幼なかったプロキオンとは大きく違っていた。

 背はもっと小さく、またその強さもなかった。

 あのゼファーの顔に傷をつけたのはプロキオンだと言うのは奴、ゼファー本人から聞いていたのだが、俺の頭の中にあったのはやたら俺を慕う幼い少年、と言うイメージだった。

 その少年が今や俺を越える戦士になっているなんて……と思っていたが、その笑みを見る限り内面には大きな変化はなかったようだ。

 年相応に成長したのだろう。


 「しかしお前……デカくなったなこの野郎、俺より高いんじゃないか?」

 「あははっ、この一年で凄く大きくなっちゃったんです」

 近づくと目線はほぼ同じだ。三年前はリリルリーみたいにちっちゃかったのに。

 ……くそ、兄貴ともどもイケメンで俺より身長高いとかマジやめろ。


 「師匠」

 ふと、笑みを浮かべていたプロキオンが突然真面目な顔つきになった。

 大人へとなって行く最中の少年のハズのプロキオンが、大人顔負けの鋭い表情を見せた。

 

 「お帰りなさい」

 見れば目尻に涙が溜まっている。泣かないように表情を堅くしたのだろうか。


 「……おう、ただいま、な」


 肩を軽く叩くと、プロキオンはコクン、と小さく頷いた。


 ◇


 その後、俺の試合後にプロキオンとまた会う約束をして俺は選手控室に向かった。

 

 「ヤシロの、アニキ」

 「……クオン」

 控室前には、クオンが壁に凭れかかって立っていた。


 「……見てたぞ」

 「どう、だった?」

 クオンが俯きながら聞いてくる。

 俺はそれに対し、クオンの頭を少々雑に撫でてやる。

 「まだまだだな。今度からは本格的に鍛えてやるから覚悟しとけ!」

 クオンはハッ、と驚いたように顔を上げ、

 「押忍っ!!」

 と大声で叫び頭を下げた。


 「元気でよろし。さ、行くぞクオン」

 「おーっす!!」


 ……ううむ、若干元気になりすぎな気もするが……まぁ陰気なよりかはマシか。

 元気ハツラツとなったクオンを連れて控室に入ると、四人の視線が俺たちに向けられた。


 「おっ、もう元気になってら。さっきまで泣きそうだったのによぉ」

 ニタニタと笑いながらイーブサルが近寄ってくる。

 「っ、泣いてねー!」

 「ケケケッ……しかしまぁ、確かにあの狼少年のアレはズルいわな。強化の比率が倍とかそんな次元じゃねぇもんよ」

 イーブサルがそう言って視線を俺に向ける。「何か知ってんだろ?」とでも聞きたげだ。

 「『獣化』……獣人なら誰でもその素養を持ちながら、極一部の者たちしか成れない妙技。……知り合いはそう言ってたな」

 「『獣化』……お、オレもなれるの!?」

 クオンが俺に抱き着くように詰め寄り尋ねて来た。まぁそれも仕方ない。『獣化』を使う前まではほぼ互角、あのやけにエロい狐の精霊って言う切り札を持っていたクオンが若干有利だったが、その戦力差は『獣化』にぶち破られたのだ。

 そんな『獣化』に、獣人なら成れる可能性があると言うのだ。


 「俺の知り合いの言葉通りなら、成れる。可能性はとてつもなく低いだろうけどな」

 「オレも、成れるのか……!」

 俺が肯定の言葉を言うと、クオンは強く両拳を握り締めた。




 「ソンナ、単純ナ物ニハ見エナカッタ」


 突然、選手の一人の竜人(ドラゴニュート)から声を掛けられた。並みの鎧よりも堅牢な鱗に剣より鋭い爪を持つ竜人ながら、鎧に盾、そしてメイスを持つ異端の竜人。

 

 「確かアンタは……」

 「我、ド・イジュン」

 低い唸るような声が返される

 「今の、どう意味だ?」

 クオンが尋ねると、ド・イジュンは

 腕を組んで思案するように目を瞑った。


 「オ主トノ試合後、元ノ姿ニ戻ッテイタガ……足取リガオカシカッタ。恐ラクアレハトテツモナイ疲労ソ使用者ニ与エル物ダ」

 こいつ、足取りなんて曖昧な物だけでそこまで考えられるのかよ!


 「当たり、みたいだな」

 イーブサルが俺を見てニヤリと笑う。アレ?俺今黒き執行者の外套のフードを被ってんですけど……表情見えない筈なんだが。


 「……ド・イジュン、アンタの言う通りだよ。『獣化』、アレは諸刃の刃だ。使えば使う程物凄い疲労が身体に蓄積し、それが限界になると勝手に解除される。しかも解除した後は身体能力が大幅にダウンする。……確実に相手を仕留めなけりゃ、逆に自分がやられちまうって言う代物だよ」

 クオンをチラと見ると、少し残念そうにしているも獣化と言う身体能力の強化(ブースト)には惹かれているらしく、腕を組んで悩み始めた。


 「まぁ、なんだ。先ず『獣化』を使えるようになるなんて保障もない。それに単純な能力強化である『獣化』にばかり頼るのも悪手だ。……腐らずお前らしく強くなれば良い」


 言い聞かせるように頭を軽くなでてやると、

 

 「くぅん……」


 と頬を赤らめつつも小さく鳴いて頷いた。


 「しかし『獣化』かぁ……そいつがアレばあのレオンハルトにも勝てそうだな」

 イーブサルの野郎は相変わらず戦闘の事しか頭にねぇしよう。

 俺が小さくため息を漏らすと、控室にスタッフの声が響いた。


 「次の三戦目の方、お願いします!」


 備え付けのベンチに腰かけていた黒レオタードの騎士リューネが立ち上がり、俺の方をチラと見てリングへ向かい歩き出す。

 ヘルムに隠れてはいたが、間違いなくその視線は俺に注がれていた。ううむ、あのエロ女騎士も今回の悩みの種だな。どうして俺の正体を知ってるんだか……。


 「デハ『黒き執行者ダークネス・エクセキューショナー』。先ニ準決勝デ待ッテイルゾ」

 「あいよ、待っててくれるんなら待っててくれや」


 ド・イジュンが牙を見せて笑いリングへ向かう。武具を使う竜人と謎だらけのエロ女騎士がぶつかるこの一戦、見過ごすわけにはいかんな。

 どんな戦いが繰り広げられるんだか。



 「おうおう坊主、わしとの戦いを忘れてるわけやないやろうなぁ?」


 ド・イジュンと黒レオタードが控室からいなくなると、多腕(アスラ)族のザッパが近づいて来た。


 「……風呂での約束忘れてんのかアンタ」

 「気易く声掛けたらアカン、なんて約束はしてへんで?」

 そう言えば名前バラすなとしか言ってなかったか。


 「あ、アニキ! あの『王者』ザッパとも知り合いなの!?」

 クオンがキラキラとした目で俺を見る。

 憧れのスポーツ選手を見る子供の目だこれ。


 「まぁ、ちょっと、な」

 風呂場で会っただけなんだが、なんか期待を裏切るようで曖昧にしておいた。


 「『王者』ねぇ……俺様の前で『王』を名乗るとは、よ。愚かとしか思えねぇぜ、なぁユウ、お前もそう思うよなぁ?」


 なんか知らんがイーブサルが突然ぶち切れた。え、何君、ザッパとは初対面じゃないの!?


 「なんやちょいと踊れるだけで『拳聖』なんて担がれてる皇族様が随分抜かしよるやないか……卸すぞ(わっぱ)ぁ!!」


 ザッパもぶち切れた。え、え?何なのこの二人。とつぜん切れ出して怖いんだけど。


 「アニキアニキ、拳闘士の間じゃこんなの日常茶飯事なんだぜ?」

 嗚呼、そう言えば俺も君に出会い頭で喧嘩売られたっけ……もう帰りたい。


お待たせしました、最新話です。


拳闘師の喧嘩ふっかけは、


「てめぇをぶちのめしてやる(以前よりお名前と武勇を聞き、ぜひとも一度拳を交えてみたいと思っていました)」


「あ?返り討ちにしてやるよゴラァ!!(私も貴方の御高名はかねがね…良い試合にしましょう)」


とこんな感じに翻訳してみてください


ではまた次回。お楽しみにー

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