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先代勇者は隠居したい(仮題)  作者: タピオカ
自由都市ガラリエ編
159/192

鎧と狐の激闘

 「すげぇ」

 イーブサルの戦いを見たクオンは一言、そう呟いた。

 たった一言、しかしその一言には凄まじい程の驚きと尊敬と、嫉妬が込められていた。

 たった数秒の戦闘で、クオンはあのイーブサルの実力の一端を垣間見た。

 (ヤシロのアニキ以外にもあんな奴が……っ!)

 クオンがもっとも尊敬するのは父親であるヴォーダン・ヘレオットと己が師と仰ぐ社勇の二人だけである。

 馴染みの深いジャンも尊敬はしてはいるが、その当のジャンから語られた眩い巨星のような人生を歩む社勇の存在は大きい。

 その強さに憧れた。それは一種の恋のようなものにも近かった。


 そして今、その師と仰ぐ社勇と並ぶ程の、己の実力では届かぬ強さを目の前に、クオンは喜怒哀楽の感情、全てを同時に味わっていた。

 あんな化け物が師以外にもいることに喜び、その尋常ならざる力に怒り、今の己の実力を鑑みて哀しみ、そしてこれから勝ち進めば戦えると言う楽しみを抱いた。

 アレは間違いなく人類において最高峰。なればあの、霞んでしまいそうな程遠く彼方にある頂にも、勝ち進めば挑む事が許されるのだ。

 勇を師と仰ぐ以上、彼とは生涯敵としては対峙できないだろう。

 あの男は師でもなく、唯の敵であるが故に、死力を尽くして戦える。


 今はまだ届かぬとしても、本気で戦り合えるのだ。

 それはどんなに──


 「第二試合の選手の方は準備をしてください!」

 闘技場のスタッフに呼ばれ、クオンは思考を切り替える。

 「ウォッホン!遂に我が輩の出番であーる!!」

 今はこの、成金趣味の貴族を叩きのめす事だけを考える。


 「「「うおおおおぉぉっ!!」」」

 クオンとモンテルージ伯爵が控え室から闘技場のリングに出ると歓声に迎えられた。

 一戦目の熱は冷めるどころか、さらに加熱しているようだ。

 

 「では第二試合、黄金鎧のモンテルージ伯爵対、狐族の拳法使いクオンの試合を始めます!」


 クオンとモンテルージがリング上で向い会うと、兎族の司会嬢が片手を振り上げる。


 「戦闘(デュエル)開始!!」


 司会嬢が手を振り下ろして試合開始を宣言するのと、クオンが懐から何かを取り出すのはほぼ同時だった。



 『早速動いたのはクオン選手……おおっとこれは!?』

 マイクで増幅されたウサギちゃんの驚きの声が闘技場に響くのと、観客のどよめきはほぼ同時に起こった。

 クオンが取り出したのは何か、小さく細長い筒だった。そしてクオンが

 「……『八連管狐はちれんくだぎつね』」

と唱えると、クオンの周りに、煙状の狐が管の中から躍り出たのだ。

 その数八匹、両手の指の間に挟んだ管から現れたそれは、クオンの周囲を漂いながら、それぞれモンテルージ伯爵に向け強い敵意を向けていた。

「ほう、式神、それも飯綱(いずな)とは古風じゃのぅ」

 「知っているのかパイモン!」

 パイモンが何か知ってそうなので劇画調になりつつ聞いてみる。

 「うむ。……式神、簡潔に言うならば本来肉体を持たぬ精霊の類を物質界たる現世に縛るため、術法により()を上げた紙を始めとする依り代に憑依させ使役する術よ」

 「格……そうか、魔族とか使徒とかの逆か」

 魔族や使徒は元々魔界や天界におり、本来の姿である霊体(アストラルたい)では俺達が今いるこの世界、パイモンの言葉を借りるなら物質界へ来る事はできない。

 物質より格が上の、霊体だからだ。(ここで言う格と言うのは、例えるならば二次元と三次元のような差である)

 

 故に魔族や使徒がこの物質界へ来るには魔力で作った肉体を作り、それを依り代し、その肉体に魂を移すことで格を下げなければいけないのだ。


 クオンがやった式神と言うのはその逆、本来格が上の相手を用意した依り代に縛る事で精霊を始めとする低級霊体の力を操っているのだ。



 ……うん、色々言って理解してんだけどこんがらがって来た。


 「ところでその飯綱ってなんだ?」

 「煙を依り代とする低級の精霊のことよ。精霊と言うより、魑魅魍魎の方が性質は近いが、な」

煙って……物質に入るのだろうか?


 「煙管(キセル)なんかを良く吹く和国の魔術師どもが使う手よ。流動する煙ながら重い物も持ち上げられる力を持っておる。そう言えば煙管の管を寝床にする事から管狐、などとも呼ばれておったのぅ」

 流石千年以上生きているだけあるぜ。知識量が半端じゃない。


 「覇王金オリハルコン……その堅牢さ、確かめさせて貰うぜ!!」

 クオンが周囲を漂う式神に向け苦無を投げる。苦無を投げつけられた管狐達は飛来する苦無の柄に噛み付いた。


 その瞬間、管狐達がモンテルージ伯爵へ向かい殺到する。

 「むおおっ!」

 苦無を口に咥えた管狐達が、その刃で攻撃をし始めた。

 叩き落そうとすれば空へ逃げる八つの管狐に対応しきれず、モンテルージは防御の構え取り、不動となる。


 そこへ、


 トンッ!

 クオンが一瞬にしてモンテルージ伯爵の懐にまで潜り込んだ。


 「な、なんとおぉぉでああああぁぁるううぅぅっ!?」

 「「「うおおおおおぉぉっ!!」」」

 第一戦目、イーブサルの戦闘の瞬間移動の再現に沸き立つ会場と、驚愕に吼えるモンテルージ伯爵。

 その両方が止むより早く、クオンは金色に輝く鎧に、

 「『魔装剣』っ!!」

 魔力の刃を叩き込む。


 が、

 「ビクとも、しねぇっ!!」

 全力で放った一撃が、鎧に傷すら付けていない事実にクオンは思わず泣きそうになった。

 「……ふ、フーハハッ!我輩の黄金の鎧は無敵であーる!!」

 鎧に全くダメージが無いとわかるとモンテルージ伯爵は身の丈ほどある黄金のタワーシールドを構え、それを大きく振り回した。

 恐らく重量軽減(コストダウン)衝撃増加(インパクトドライブ)など、盾による打撃力を上げるための能力があの黄金の大盾には備わっているのだろう。まるでコットン100%の枕を振り回すように軽々と振り回す。

 それが懐まで一気に距離を詰めていたクオンの、仇となった。

大盾はクオンに直撃し、その小さい身体を吹き飛ばす。

 「っ!?」

 ドンッ! 

 10tトラックが事故を起したような鈍く大きい音が辺りに響く。

 「おいおい、今のはヤバイんじゃないかい?」

 トーレが慌てたように呟く。それに対し、勇はニヤリと笑う。

 「確かにまともにくらったらヤバイけど……」

 空を吹っ飛ぶクオンは、

 「食らってないから関係ねーんだ」

 突然煙となって消えてしまった。


 「忍法、『影分身』」

 モンテルージ伯爵の背後にクオンが現れる。

 「むむっ!?」

 「斬撃が効かないってなら、こいつはどうだ!!」

 気づいたモンテルージ伯爵が振り向くより早く、クオンの拳がモンテルージ伯爵の兜を激しく強打する。

 更に蹴りを加え、身体を捻り踵をヘルムに叩き落とす。

 鎧に傷が付かないのであれば、相手に直接ダメージを与えれば良いのだ。

 兜は衝撃に弱い。いくら兜の強度が高くとも、頭に直接被っているからだ。兜に加えられた衝撃はほぼダイレクトに頭部に伝わる!

 が、

 「フーハハッ!!衝撃軽減(インパクトリドュース)も完備であーる!!」

 兜の奥で、モンテルージ伯爵が咆哮する。

 「伯爵アタック!!」

 安直なネーミングの、盾を構えてただ突進するだけの攻撃がクオンに迫る!!

 「っ、能力による底上げか!」

 当たる瞬間に避けたクオンだが、その表情に余裕はなかった。

 ただの突撃が、オリハルコンの鎧に掛けられた山のような能力によって強化  (ブースト)され、食らえばその身が砕ける程の威力をもっているのだ。

 対峙するクオンには、それが肌で感じられた。


 「だったら、次の手だ!!」

 クオンが両手を組み合わせ印を結ぶ。


 「忍法、『隠れ蓑の術』!!」

 クオンの姿が、霧散するように掻き消えた。



 『おおっと!クオン選手突然姿を消してしまったぁ!!しかし先ほどのように瞬間移動したわけではないようだ!一体どこへ行ってしまったんだぁぁ!?』

「ほぅ……隠遁の使い手、か」

 兎耳の司会嬢がマイク片手に叫ぶ中、貴賓席で観戦していたシルヴィアが感心したように呟いた。

 「どうだレオンハルト、お前にも見抜けないのではないか?」

 シルヴィアは自分が座る椅子の後ろに立つ騎士に尋ねる。

 尋ねられた騎士、レオンハルトは苦笑しつつ首を横に振った。

 「悔しいですが、私には何も見えないですね」

 「うむ。……あの少女、中々面白い逸材だ」

 「陛下には見えているのですか?」

 「うむ……目を擬似的な魔眼にしているからな」

 シルヴィアの碧色の目が、淡い赤色に変わっている。

 「さて、どう攻める?」

 目を細め、シルヴィアはクスリと笑うのだった。



 クオンが姿を消し数秒経つと、盾を構えていたモンテルージの足元が突然爆発した。

 「むぉっ!?」

 爆発により傷こそ負わなかったものの大きく体勢を崩し、モンテルージ伯爵は仰向けにゴロンと倒れてしまった。


 「『爆導陣(ばくどうじん)空崩(からくずれ)』」

 そしてその一瞬を逃さずクオンは追撃する。

 既にリングに配置していた札が爆裂し、モンテルージ伯爵に襲いかかる。

 「な、なんであるかああっ!?」

 爆炎に包まれ叫ぶモンテルージ伯爵、クオンはその叫び声を聞き次なる手を始動する。

 「『火竜息(かりゅうそく)』!」

 両手の指を絡ませ『印』を結ぶ。複数の印を結んだクオンは右手を筒のようにしそこに息を吹き込んだ。すると──


 ゴウッ!!


 まるで火山に住まう火竜が放つ竜息(ドラゴンブレス)が如き熱量が放たれる!

 放たれた火炎放射は爆炎を巻き込み、炎の竜巻を形成しモンテルージ伯爵を包み込む。

 (この連続技ならどうだ!?)

 超高熱の連続技ならば、鎧諸共相手を焼き尽くせる、そう思ったクオンは間違いではなかった。

 だが、


 「ふんぬぅぅぅっ!」

 ゴウッ!

 裂帛の気合いと共にモンテルージ伯爵を包み込んでいた炎の竜巻が弾け飛んだ。

 「なっ!?」

 クオンを襲った衝撃は凄まじかった。

 爆裂の札と火炎の術によるコンボ、それは本来体術を主とするクオンが唯一符術の切り札として師と仰ぐ勇にすら隠していた得意中の得意技だったのだ。


 「ふむん。なかなかであるな!」

 がっちゃがっちゃと音を立てながら鎧についた煤を払うモンテルージ。

 「しかし、我が輩はともかく我が輩の黄金の鎧の前ではあまりにも無力であーる!!」

 ポージングしながらもそう言い放つモンテルージに、クオンの怒りが湧き上がる。

 「……へん、こんだけでお陀仏ってなら詰まんねぇなって思ってた所よ!」

 背中に担いでいた黒刀の柄を掴むクオン。

 その表情には、焦りの色が見えていた。


 ◇

 

 「キキキッ、あの狐娘め、中々やるではないか。符術と印術の組み合わせであそこまでできるとは……流石我が主の弟子よ」

 日傘をさして勇の隣に座るパイモンがやけに嬉しそうに言う。

 「なんだい、あの娘は知り合いなのかい?」

 トーレが尋ねるとパイモンは大きく頷いた。

 「我が主の弟子、つまりはわらわの配下よ」

 「その発想はおかしい」

 クールにツッコむリリルリーであった。


 「どうしたんだいヤシロ?」

 黙ったままじっ、とリングへ視線を向け続ける勇に気づいたトーレが尋ねる。

 それに勇は

 「拙いな」

 と一言呟いた。

 「む?何がじゃ?」

 勇が呟いた言葉にパイモンが反応する。

 「クオンにもう攻め手が無い」

 「攻め手?」

 「今の姿を隠してから一連の攻撃は良かった。多分、あの熱量で蒸し焼きにでもするつもりだったんだろうが……ダメージはほぼ入っていないように見える」

 「蒸し焼きって……」

 想像して絶句するトーレ。以外とグロ耐性はないようだ。


 「それじゃあ勝てぬのか?」

 「勝てないわけじゃない。身体能力じゃあクオンに軍配があがるだろうしな」

 「けどあの守りは抜けない……ってなると、終わらないってわけかい」

 トーレの言葉に無言で頷く勇。

 今回の試合、イーブサルのようなパワーファイターなら簡単に終わっていただろう。鎧が砕けないのなら無理やりリングの周囲を囲む海に叩き込み失格としてしまえば良いのだから。

 しかしクオンにゴリ押しできる程のパワーは無い。

 




一拍の後、

 「何をさっきから黙っておるのだ、魔女の弟子よ」

 パイモンがリリルリーに切り出した。


 「私はこの後の顛末を知っている。だから、ネタバレ厳禁」

 「なっ、……わかっておるならさっさと教えぬか!」

 「ネタバレ厳禁」

 「わ、わらわだけに教えよ」

 「ネタバレ厳禁」

 「それしか言えぬのか貴様はっ!えぇいっ、やはり魔女の弟子じゃ、嫌味な所がそっくりじゃっ!!」

 プンスカとふてくされてそっぽを向くパイモン。それを見て勇がため息をつく。

 「全く、千年以上生きてんのに大人げない……。それにこう言うのは自分で考えるもんだぞ? ……ってわけでリリルリー、ヒントプリーズ」

 「ネタバレ、厳禁」

 リリルリーは悪戯っ子のような笑みを勇に見せるのだった。


三週間、更新が遅れ申し訳ありませんでした!

いやほんと、暑さで半分死んでいました。夏っていやですねほんと


……も、申し訳ないです


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急に忍術とか出てきたな…… まじで忍者枠だったのか
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