80話:決意 ※アレックス視点※
※アレックス視点※
ギガンテの王都ガシュベルで魔王アレクとメインキャラたちに会ってから1ヶ月近く経つが……俺はまだ決めかねている。
アレクと友好関係を結ぶか、あるいは敵対するか。友好関係を結ぶにしても、どのような関係を築くかだ。
俺はアレクが悪い奴だとは決して思わない。むしろ度量が広い良い奴なんじゃないかと思っている。
トライアンフを殺さなかったことについてはケイリヒトと意見が分かれるから置いておくとしても、他にも理由がある。
アレクが前世の記憶に目覚めたのは、おそらくあいつが『始祖竜の遺跡』に潜った2年半前よりもさらに数ヶ月前だろう。
その頃、魔族軍の動きが明らかに変わったからだ。それまでは世界中で他種族の国へと侵略を繰り返していた魔族軍が、ピタリと侵略を止めた。
だけど数ヶ月と経たずに再び侵略を始めたから、当時はこの空白期間の理由が解らなかった。だが今ならその理由が解る。前世の記憶に目覚めたアレクが、魔族と他種族の戦いを止めようとしたんだ。
勿論、想像だけで言ってるんじゃない。俺もこの世界で14年も生きてるんだから情報を探る伝手はある。
当時、殺戮を好む残忍な性格で知られる魔王アレクが、突然侵略を止めろと言い出したので魔族軍は混乱した。
しかし魔族軍は一枚岩じゃなく、魔王アレクの言葉も絶対じゃない。
魔王アレクの力を恐れて動きを止めた魔族軍だが、数ヶ月と経たずに再び侵略を始めた。
魔族軍にとって他種族の国を侵略するのは当たり前のことであり、魔王の指示に不満を懐いた貴族が勝手に暴走したのだ。
ここからは完全に俺の想像だが。魔王でも魔族軍の暴走を止められないことに失望したアレクは、『始祖竜の遺跡』でレベルアップすることで力づくで止めようとしたのだろう。
ガーランドを最初のイベントで殺したのも、魔族の大規模侵攻を防いだのもそう考えれば納得できる。
アレクと一緒に『始祖竜の遺跡』に潜った仲間の正体はいまだ不明だが。目立つ行動をするアレクは他の転生者を敵に回すリスクを負うのだから、そいつらが正体を隠すのも当然だろう。
アレクはメインキャラたちと一緒に行動することで、彼女たちが仲間だと思わせて本当の仲間の存在を隠しているのか……
いや、アレクとの関係を見る限りはメインキャラたちとも仲間になったと考えるべきだろうな。
魔族軍を止めるために魔王の地位を捨てて、メインキャラたちと共闘するアレクが悪い奴だと俺は思わない。
だがケイリヒトの考えは俺とは真逆だ。ケイリヒトはアレクが俺たちを利用しようしてると考えている。
ケイリヒトは性格は最悪だが凄い奴だ。俺たちが11年前に『始祖竜の遺跡』に挑むことができたのはケイリヒトのおかげだし。第10階層で全滅しそうだったときもケイリヒトが『転移魔法』を発動してくれたから、俺たち4人は今も生きている。
それだけじゃない。その後もあいつらを失って、俺たちは暫く何もできなかったが。ケイリヒトだけは1人でダンジョンに潜り続けた。仲間を失っても『始祖竜の遺跡』の完全攻略を諦めなかったからだ。
幾らケイリヒトでもソロで『始祖竜の遺跡』に挑むことはできないが、いずれ俺たちが再び挑もうとするか、あるいは新しい仲間を見つけるか。その日のためにケイリヒトは今もダンジョンに潜って自分を鍛えている。
ケイリヒトが言うことはいつも正しかった。だけど今回に限ってはケイリヒトの言葉を鵜呑みにすることはできない。
理由は2つある。1つはケイリヒトが全てを自分の思い通りにしようとする性格だからだ。トライアンフも自分が1番じゃないと気が済まない奴だけど、ケイリヒトはもっと強かだ。力ずくとかそんな単純なことじゃなく、どんな手を使っても全てを自分の思い通りにしようとする。
そんなケイリヒトにとってアレクの存在は邪魔だからな。
そしてもう1つの理由は、こんなことを言えばケイリヒトに馬鹿にされるが。俺はアレクのレベルが2,000レベル台どころじゃないと考えている。
ケイリヒトは『流星雨』のレベルをMAXにしたアレクを馬鹿にしたが、それでもスキルポイントが余裕で残るレベルだとしたら?
アレクが『流星雨』だけにスキルポイントを使うような愚かな行為をするとは思えない。幾ら魔王に転生したとしても、転生してからわずか数ヶ月で『始祖竜の遺跡』に挑んで生き残ったような奴だからな。
俺たちは慎重に行動したせいもあるが『始祖竜の遺跡』に挑むまでに3年掛かった。
ケイリヒトがアレクの凄さに気づいていないとは思わないが。自分よりも早く強くなったアレクを認めたくないんだろう。
もしもケイリヒトがアレクの実力を認めさせるを得ない状況になったら……ケイリヒトは何をするか解らない。
だから俺としてはアレクと友好関係を結びたいと思っているが、ケイリヒトの存在が行動を躊躇わせる。
ケイリヒトが入ればアレクと敵対する可能性があるが。どんな奴でもケイリヒトは俺の大切な仲間だからな。絶対に無視することはできない。
「なあ、アレックス。おまえが悩むことは珍しくないが、今回は重症のようだな」
俺の直属の上司が爽やかな笑顔で言う。こいつはジャスティン・ブレックス。ガスライト帝国の現皇帝だ。
俺と同じ28歳で、仲間を失って何もできなくなった俺を拾ってくれた恩人だ。
俺たちは当時最強の冒険者として知られていたから、ジャスティンにも強い手駒が欲しいという打算があったことは解っている。
だけど俺が形ばかりでも帝国宰相なんてやっていらるのはジャスティンのおかげだ。
地位や報酬の話じゃなくて、何もやる気がなかった俺に強制的に仕事を振ったのはこいつだからな。
「ジャスティン。皇帝陛下がこんなところでサボっていて良いのか?」
「ああ。俺の仕事は優秀な宰相がやってくれるからな」
ジャスティンがお世辞で言っていることは解っているが、どうやら俺は行政に関わる仕事が苦手じゃないようだ。
ジャスティンから強制的に振られた仕事に対して、全く経験のない俺は自分の頭で考えることしかできなかった。
できるだけ情報を集めて人から話を聞いて自分なりの答えを出す。その繰り返しだった。
時間は掛かったけどジャスティンは投げ出すことを許さなかったし。俺も他にやることがなかったからな。
おかげで今ではそれなりに宰相の仕事もこなせるようになった。
「アレックス。椅子に座ってばかりじゃ良い考えも浮かばないだろう。どうだ、たまには俺の件の相手をしてれないか」
「皇帝陛下が宰相に仕事をサボれというのか……ああ、解ったよ。ジャスティン、おまえが正しい」
当然だろうという顔のジャスティンに負けて、俺たちは皇族専用の修練場に向かう。
そこにはすでに先客がいて、亜麻色の髪の少女が近衛殺人人形相手にレイピアを振るっていた。
彼女はレイチェル・ブレックス。ジャスティンの年の離れた妹だ。
レイチェルは俺の顔を見るなり駆け寄って来る。
「アレックス! 陛下と稽古をするの? だったら私にもお願いできないかしら!」
「ジャスティン……ハメたな」
「疑われるは心外だな。ただの偶然だよ」
ジャスティンは小さく舌を出す……ああ、こういう奴だったな。
レイチェルは何故か俺のことを気に入っているようで。純真な目を向けて来るレイチェルが俺は苦手だ……あいつのことを思い出すから。
「なあ、アレックス……」
ジャスティンが耳元で囁く。
「これでも俺はおまえを親友だと思っているんだ。だから不躾なことを言うようだが、おまえは1人で考え過ぎなんだよ。考えても答えが出ないときは行動するしかないだろう。アレックス、おまえに解決できないことなんてないさ。万が一解決できないときは、皇帝の俺を頼ってくれ」
「ジャスティン……」
片目を瞑るジャスティンに『もう……男同士で内緒話なんて気持ち悪いわ』とレイチェルが頬を膨らませるが……
ジャスティンのおかげで俺の腹は決まった。
結局やることは1つだからな。俺が何とかして見せる。
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