64話:聞いてないけど
クラーナの街で祝杯を上げた日の翌日。
昨日もみんなで結構飲んだな。飲むとみんながどうなるか良く解ったけど……うん。忘れることにしよう。
俺たちは大規模侵で倒したモンスターのドロップアイテムを売りに、冒険者ギルドに向かった。
収納庫から大量のアイテムを出すと、周りの冒険者たちが唖然とする。まあ、1万以上のモンスターを倒したからな。アイテムの山ができている。
「こ、こんなに沢山……どうやって手に入れたんですか?」
ギルドの職員も完全に引いてるな。
「普通にモンスターを倒したに決まってるだろ。俺たちはカスバル要塞で魔族軍の相手をして来たからな。数が多いのはそのせいだよ」
俺は素直に応える。どうせ噂は直ぐに広まるだろうし、隠しても無駄からな。
「依頼を請けたのは知っていますが……そんな、まさかこれだけの数のモンスターを……でも、この前のこともあるし……」
職員は恐る恐るという感じで、俺とアイテムの山を交互に眺める。
ああ、そういえば俺とサターニャが冒険者をボコったときに、修理代を渡したのはこの職員だったな。
信じがたいけど完全に否定もできない。そんな感じか。
「と、とりあえず量が量ですから、査定に時間が掛かりますので……買取価格を出すまで1週間待って頂けませんか?」
さすがに時間が掛かり過ぎだろ。その間に裏を取るつもりなのが見え見えだな。
俺たちがどこかから強奪して来た可能性を疑ってるんだろ。
別に金に困ってる訳じゃないし、目立たないように少しずつ売る方法もあった。だけど量が大過ぎるから、物理的にみんなの収納庫で運ぶのは厳しいんだよな。
クラーナまで俺の収納庫で運んで来たんだし、このままずっと運んでも良かったんだけど。俺に荷物持ちをさせる訳にはいかないと、みんなに断られた。
「解った。1週間後に金を受け取りに来るよ」
俺たちに後ろめたいことなんて何もないし、調べるなら好きにしてくれ。1週間待つといっても、その間何もできない訳じゃないからな。
クラーナの近くは『ルプテリアの多重迷宮』があるから、俺たちは連日ダンジョンに潜り捲った。
大規模侵攻での戦闘でみんなのレベルはさらに上がったから、全員一緒に行動するには『ルプテリアの多重迷宮』だとちょっと物足りなかった。だからパーティーを分割したり、俺とみんなのうちの誰かがコンビで潜ったりと色々試してみた。
魔族軍の中を強行突破したときに、みんなはスキルや魔法全開のフルパワーで戦う経験をしたから、自分の限界を見極めることができたみたいだな。
だから自分の足りないところを伸ばすために、ダンジョンに潜るときもそれぞれが毎回テーマを決めて挑んだ。
うん。みんなのプレーヤースキルも順調に伸びてるな。俺のレベルは全然上がらないけど。
そんな感じで1週間が過ぎで、俺たちが冒険者ギルドに行くと……
「皆さん、お待ちしていました! ギルドマスター! 『カスバル戦役の英雄』の皆さんがいらっしゃいましたよ!」
おい、今なんて言った? それにギルドマスターとか……悪い予感しかしないな。
「おお! よく来て入れたな、『カスバル戦役の英雄』たち! 俺は冒険者ギルドクラーナ支部のギルドマスター、ライアン・ブランドンだ」
如何にも元冒険者という感じのギルドマスターに、いきなり握手を求められた。
「だからさ……何だよ英雄って」
「噂通りに謙虚なんだな。魔族の大規模侵攻における君たちの活躍は、クラーナの太守であるクリミトン伯爵から聞いている。
ドラゴンまで倒して総司令を討ち取ったのに、謙虚にも爵位を受けるのを辞退したそうじゃないか。さすが『カスバル戦役の英雄』の英雄は違うな」
「あんたは勝手に納得してるみたいだけどさ。俺たちに状況を説明してくれよ」
「おお、そうか。ならば奥の部屋で話をしよう」
ギルドマスターのライアンに案内されて、俺たちはギルドの応接室に通された。
普段は使わない来賓用の部屋で、俺たちは人数が多いから職員たちが追加の椅子を運んで来た。
ライアンから聞いた話を纏めると以下だ。少し俺の推測が入ってるけどな。
俺たちが持ち込んだ大量のアイテムの出所が何処か。冒険者ギルドは裏を取るために、カスバル要塞での戦いにおける俺たちの戦果を、クラーナの太守クリミトン伯爵を通じて聖王国軍に問い合わせたそうだ。
その時点ではまだクリミトン伯爵のところに情報が届いてなかったけど、直ぐに聖王国軍の勝利を伝える早馬が来て、今から2日ほど前にエルリックと衛騎士団が凱旋した。
出迎えたクリミトン伯爵から、俺たちが冒険者ギルドに大量にアイテムを持ち込んだことが伝わると、エルリックは俺たち活躍を認めて散々褒めちぎったらしい。
魔族軍の中を強行突破して、ドラゴンと魔族軍の総指令を討ち取ったこと。大活躍したのに謙虚にも報奨を断ったこと……
つまりエルリックは俺たちが謙虚だから報奨を断ったことにして、体裁を整えたってことだな。
だけど本当に報奨を何も出さないと面子が潰れるから、冒険者ギルドを通じて20億Gの報奨金を俺たちに支払うことになったらしい。
これで俺たちが断っても、エルリックは報奨金を出したことになるから面子は潰れないし、むしろ俺たち冒険者を正当に評価した度量の高さが評判になるだろう。
「ふーん……なんか気に食わないわね」
ライアンの話を聞いて、レイナは顔をしかめる。
「まあ、金なら貰っても構わねえが。勝手に良い話にされるのは癪だな」
「貰えるものは貰う方が得っすよ。冒険者ギルドを通じての報酬なら、王太子殿下に恩を売られることもないっすから」
「そうニャ。金に色はついてないから、ノエルが嫌じゃなければ受け取るニャ」
ライラはきちんとエリスを偽名で呼んでいる。王女の身分を隠すためにエリスはノエルという名前で冒険者登録しているんだよな。
「私は別に構わないわよ。アレクが嫌じゃなかったらね」
王家との繋がりを断ったエリスは、エルリックのことなんて気にしていないようだ。
俺のことを気遣ってくれる優しい笑み。結局、俺次第ってことだな。
魔族軍を強行突破したとか、ドラゴンを倒したとか、総司令を討ち取ったとか。全部本当のことだけど、エルリックの評判を上げることに利用されたのはムカつく。
だけどこれでエルリックの方も俺たちに手を出しづらい状況になった訳だから、全部悪い話って訳じゃないな。
「俺だって報奨金を受け取って構わないよ。ギルドマスター、報奨金は受け取るから。アイテムの買取価格の話の方に移ってくれ」
「王太子殿下と何か訳ありのようだな……余計な詮索をするつもりはないが、王家と揉めても冒険者に勝ち目はないからな」
親切心からの忠告みたいだから、文句を言うつもりはない。
ライアンは買取価格を纏めたリストを見せて、問題ないなら即金で支払うと言った。
金額は文句があるどころか2割増くらいだった。
「高過ぎるな。なあ、ギルドマスター……何を企んでいる?」
「おいおい、別に何も企んでないさ。アレク君がS級冒険者に、他のみんなもA級冒険者に昇格したことへの祝儀だと思ってくれ」
「S級冒険者?」
「ああ。アレク君は単独でドラゴン4体を倒したんだろう? S級冒険者に昇格するのは当然だ。他のみんなもギルドの依頼として戦いに参加したんだからな。A級に昇格するだけの戦果は十分に上げたと評価している」
エルリックの奴はそんなことまで話したのか。て言うか……聖王国軍の魔術士が『千里眼』を使ったのは知ってたけど、そこまで見てたのか。
見られたのは別に構わないけど、戦闘中に何やってんだよ。
「私たちもA級冒険者かあ……えへへっ、なんかニヤけちゃうよ」
ソフィアが凄く嬉しそうだ。チョップスティックのみんなも冒険者として頑張って来たからな。評価されたことが素直に嬉しいんだろ。
「私は冒険者ランクなんて興味ないけど。アレクなら当然S級よね」
レイナは興味がないという割に、S級が一番上だってことは知ってるんだな。俺のことを話してるのにちょっと誇らしげなのは、仲間として認めてくれてるってことか。
俺も冒険者ランクに興味はないけど、ランクが高くて困ることはないからな。
「アレク、昇格おめでとう……で、良いのよね?」
エリスはいつもの優しげな笑みを浮かべる。
まあ、ここは素直に受け取っておくか。それにしても……
冒険者ギルドを出ると、俺は買いたい物があると言ってみんなと別れた。
街中を適当に歩きながら『伝言』を送る。
『おい、エリザベス……おまえは全部知ってたんだろ? 何で報告しなかったんだよ』
諜報部隊がエルリックを監視しているからな。エリザベスなら全部事前に知っていた筈だ。
『勿論、僕は知ってましたよ。だけどアレク様にとって問題になることじゃないですし。小心者が自己保身に走っただけの話ですから、アレク様に報告しても気分が悪くなるだけだと思ったんですよ』
いや、結局俺も知ることになるんだからさ。知ってたなら報告するべきだろ。
『エリザベス、おまえなあ……』
『アレク様、正直に言いますから怒らないでくださいよ。相手はたかが人間ですけど、アレク様を称える者が増えて僕も嬉しかったんです。だから、ちょっとサプライズというか、アレク様を驚かせたくて……ごめんなさい』
ああ、そういうことか。エリザベスが俺のこと思って行動していることは解ってるいけど、勝手に暴走することも多いからな。
『解ったよ、エリザベス。今回は許すけど、次からはきちんと報告しろよ』
『はい、アレク様。ありがとうございます……早速ですけど、アレク様を尾行している小娘のことは気づいていますよね?』
『ああ。エリザベスが二重尾行してることもな』
冒険者ギルドを出てから、俺の後をつけている奴がいる。
別に尾行が下手な訳じゃないけど……格好がなあ。
ゴスロリ衣装で左右の瞳の色が違う10代前半の少女とか……おい。ツッコミどころ満載だな。
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