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26話:不良少女


 冒険者ギルドにやってきた派手な化粧の少女は、レイナたちに仕事を依頼したいと言う。

 格好の割にそれなりに礼儀正しい(偏見?)ので、とりあえず話だけは聞くことになった。


 依頼者から直接仕事を請け負うのはルール違反だけど、冒険者ギルドには指名依頼という制度がある。だから形だけでもギルドを通せば問題ない。

 少女があまり他人には聞かれたくない話だというので、ギルド職員に個室を用意して貰った。


 少女はリンダ・バトラーと名乗って、テーブルを囲む俺たち6人を前に話を始めた。


「実は私のパパが、麻薬の取引をしているみたいで……」


「麻薬って『楽園』のことか?」


 ガルドが訊き返すと、リンダは深く頷く。


「うちは一応貴族なんですが、貴族なんて名ばかりの貧乏だったんです。

 だけどパパが始めた事業が上手く行ったみたいで、急に裕福になって。今はもう死んじゃったママも凄く喜んでたんですけど……

 私、パパが『楽園』の話をしているところを偶然聞いちゃったんです」


 リンダが外出から戻って来たときに、父親は応接室で来客と会っていた。

 その日は使用人が休みだったので、リンダはお茶とお菓子を出そうと応接室に向かったそうだ。

 ノックをしようと扉に近づいたときに、中で話している父親の声が聞こえ、その内容は『楽園』の取引に関するモノだった。


「麻薬の取引なんて……パパがそんなことする筈がないって思いました。だけど、うちの古い方の屋敷を倉庫にしているって話が出たので、内緒で確かめに行ったら……」


 リンダの父親ロベルト・バトラーは準男爵であり、公都ハーネスから2日ほどの場所に小さな所領を持っている。

 バトラー家の屋敷は元々所領の方にあるが、ウルキア公国ではある程度財力がある貴族は公都に別途屋敷を構えるのが一般的だ。

 ロベルト・バトラーもその例に漏れず、事業を始めた3年ほど前に公都に屋敷を購入して引っ越して来た。


 所領の屋敷の方は今は使っておらず、使用人に管理だけを任せているという話だった。

 しかしリンダが確かめに行くと、屋敷には見知らぬ男たちがいて、使われていない屋敷の筈なのに馬車が頻繁に出入りしていたそうだ。


「でもそれって、あんたの父親が普通に事業で使ってるだけじゃないの? 『楽園』って言葉だって、あんたの聞き違いかも知れないじゃない」


「いいえ、間違いありません。私はパパが本当は悪いことをしてないと確かめたかったから、屋敷に忍び込んだんです。そこで……これを見つけました」


 リンダがテーブルに置いたのは、小さな包みだった。

 包みを開けると、中には独特の甘い香りがする紫色の粉が入っていた。

 俺が『鑑定』すると、それは間違いなく『楽園』だった。


「ちょっと待つニャ。見ただけで『楽園』だって解ったってことは、リンダは『楽園』を見たことがあるってことニャ?」


「はい。実は友達が使うところを見たことがあって……」


 『楽園』はウルキア公国全土に広まっており、素行の悪い者たちの中には嗜好品感覚で使用する者もいる。

 使い始めた当初は心地良い酩酊感を伴う幻覚を見るだけで、大きな弊害はないからだ。

 だけど『楽園』は常習性が高く、使い続けると情緒不安定となり、さらには暴力衝動を伴う幻覚を見るようになるのだ。


 リンダは金持ちの不良少女で、彼女の友達なら気楽に『楽園』に手を出すような奴がいてもおかしくない。

 ハーネスから2日の距離にある所領に親に内緒で行けるくらいだから、リンダ自身も普段から素行が良くないってことだな。


「つまり私たちは屋敷にある『楽園』を押収して、貴方の父親を罪人として衛兵に付き出せば良いの?

 それと貴方は私たちに『楽園』を気楽に見せたけど、『楽園』は持っているだけで犯罪になるわよ」


 リンダの迂闊な行為を咎めるように、エリスが真顔で告げる。

 密室に『楽園』を持ち込んだ時点で、ギルドにバレれば俺たちまで共犯者だと疑われる可能性がある。

 それに俺たちにとっては、リンダから依頼を受けるよりも、彼女を『楽園』所持の現行犯で捕えて父親を犯罪者として告発した方が、リスクの少ないのだ。


「それは……私も犯罪だってことくらい解っています。『楽園』のせいで人が死んでいることも知っています。だけど……パパは本当は悪い人じゃないんで、できれば悪いことを2度としないように懲らしめて欲しいんです」


「それって『楽園』の取引は止めさせるけど、貴方の父親は見逃せってこと? 随分と都合の良い話ね」


 だけど未だエリスの意図に気づいていないリンダは、感情だけで発言している。エリスが呆れるのも当然だな。

 ゲームのときは、リンダは父親思いで世間知らずの不良少女というキャラが立っていたから、深くは突っ込まなかったけど。


「エリスの気持ちは解るけど、その前に確認したいことがあるわ。ねえ、リンダ……貴方のお父さんは『楽園』を押さえたくらいで改心するの?」


 セリカが問い掛ける。ゲームのときはセリカがリンダを問い詰める役だったけど、エリスが自分が言いたいことを言ったから、他の可能性を探っているんだろう。


「それは大丈夫だと思います。パパは私のことが大好きだから、こんなことを続けるなら嫌いになるって言えば止めてくれると思います」


 バトラー家の屋敷にある『楽園』の現物を押さえて、言い逃れのできない状態でリンダが迫れば、父親が改心するという筋書きだ。


「私は犯罪者を全部捕まえなきゃいけないなんて思わないけどニャ」


 ライラは自分も暗殺者であり盗賊ギルドと付き合いがあるから、そういう感覚なんだろう。

 発覚しなければ犯罪じゃないと、不法な手段に手を染める盗賊も多いからな。


「私としてはリンダの父親次第ね。自分の目で見てどうしようもない馬鹿だと思ったら、容赦なく衛兵に突き出すわよ。それでも良いなら依頼を受けても良いわ」


 レイナの赤い瞳がリンダを射抜く。


「はい、それで構いません。パパは本当は悪い人じゃないって私は信じてますから」


 意見は分かれたけど、結局のところ条件付きを含めれば、エリス以外はリンダの依頼を受けても良いってことだな。


「みんながそう言うなら、仕方ないわね……だけどリンダ、貴方の依頼を受けることで、私たちが犯罪の片棒を担いだと疑われるリスクを負うことは理解してよね。

 私たちが貴方の父親を見逃したとしても、他の人が告発する可能性もあるから」


 転生者のエリスは、リンダの依頼を受けた方がイベントが進むことを解っていながら、みんなのリスクを考えて苦言を言ったんだろう。


 だけど、みんなの意見を尊重してエリスが折れたから、結局俺たちはリンダの依頼を受けてバトラー家の所領に向かうことになった。


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