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必勝の聖眼の神殺しと戦女神  作者: 暁 白花
第1部 エピローグ
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67話 真相

 冒険者組合長ガーリッツが、【ジルヴァラ】の三人に長椅子ソファーに座るように促す。

 【ジルヴァラ】の三人は、頷き、指示に従った。


「あ、あの彼等は一体……」

「彼等は冒険者一行パーティー【ジルヴァラ】の方々よ」


 セフィーリアの戸惑いの言葉に、シュリカの隣に立ったリーゼが答えた。


「彼等は組合ギルド直々の依頼の任務中だったの。だけど継続出来なくなったのよ。彼等は任務が終わればrank.昇格する筈だった……」

「だった?」


 淡々と話すリーゼにクレアが疑問を投げ掛けた。


「ええ、組合が今回出した依頼は、かなり厄介なモノだったのよ」

「俺が冒険者の依頼を出すにあたり、設定した難易度はA.rankだ。このスティンカーリンで、この要求を受けられるのは、B++の【ジルヴァラ】しかおらず、彼等にしか頼めなかったというわけだが……」


【ジルヴァラ】のブラン、アラン、エリナが鋭い眼光で睨め付ける。


 千尋と紗奈も威圧感に晒され、ビクリとなる。ブラン達から敵意を向けられ、睨み竦められたのは翔真と一誠の方だったのだが……。


「あ、あの、その依頼というのは、一体どの様な内容だったのですか?」


「オレ達が組合長ギルドマスターから直接請け負ったのは、西の森に縄張りを持つ白灰色の紅い牙の巨猪きょちょの封印だ」


 そして、彼等【ジルヴァラ】が紅牙猪を見つけ、追い詰めた処迄、エリナが理路整然と説明し話していく――――。


「―――― 私、ブランとで巨猪をある程度まで弱らせて、アランが魔獣専用の麻睡ますい矢を射ったまでは良かったの、でも紅牙は猛然と私達の前から逃げた……。振り切られた私達が見つけた時には、牙を奪われ、死に近付いたせいか半狂乱の挙げ句、その辺の魔獣を襲い失った魔結晶の牙の代わりに魔瘴石をバリッ! ボリッ! て砕いて嚥下していた……」


「僕達は数日、見張り、手を出したりもしましたが、瘴気の繭で守護されています」


「遅かれ早かれ、アレ魔精霊に成る。半狂乱は恨みに変わる。そして、襲った者のにおいをたどり、この街に来る……必ず。眷族を引き連れて……」


 エリナ達の報告を聞き、組合長ガーリッツはヌゥ……と、眉間に皺をよせ、呻く。

 その後ろに控える、シュリカは若干青褪め、リーゼは苦汁を嘗めた様な顔になる。


 エリナが説明している間、ブランは翔真達を観察し、彼等・・と比べていた。


「ま、まさかっ! 二人が斃した紅牙猪って!!」

「……翔真と一誠が、依頼と昇格の邪魔をしたのね? そして、二人が持ち帰った紅い牙と二人のにおいが、祟りと禍を呼び寄せてる……と。どうしようも無い程に愚かで浅はか」

「ち、千尋っ!?」

「……チヒロ」

「…………」


 千尋が侮蔑を隠す事も無く、冷淡な瞳を翔真と一誠に向ける。

 その声には感情が感じられず、紗奈を驚かせ、セフィーリアとクレアには訣別を意識させた。


「お、俺達は勇者だっ! 目の前の脅威を放って置けない!! それは、勇者の行いじゃないっ!!」

「その通りだぜ! 相棒っ!! 見過ごせねーよなっ!!」

「ああっ! 当然さ!!」


 翔真達は依然として、事態の深刻さを理解していない。自分達の正しさ、正義を信じて疑わない。


「それに、貴方達が討ち漏らした魔獣を討ったんです。俺達は何も悪く無い」

「まだ、襲われて無いんスから、俺達が行って、チョチョイッと退治って来ますよ! 俺達は勇者なんスから」

「一誠の言う通り、俺達には勇者召喚の加護がある。この力は魔神を討ち果たす為のモノ、魔獣なんて問題にならない!」


 二人の思い違いと思い上がりに、セフィーリアとクレアは失望し、紗奈は場のピリピリしてきた空気にオロオロとしだす。

 

 翔真と一誠の浅慮にガーリッツ、ブランは心の中に激しい怒りが湧いてくる。


 普段はにこやかな優男のアランは、うっすらと眼を開け翔真達を静かに見据える。それは、獲物を仕止める狩人の眼だ。

 

 エリナ、シュリカ、リーゼは彼等の中途半端で甘い考えと覚悟、児戯にも等しい彼等の気概に怒りと呆れを通り越し、最早、憐れですらあると、翔真達を見る。


 翔真達は冒険者組合ギルドの規則を破った。


 組合内の掲示板で依頼を選び依頼書を受け付けへ提出、受理されて初めて依頼を受けることが出来る。

 冒険者Aが受けた討伐依頼のあった魔物を冒険者Bが斃して、依頼主への脅威が無くなった場合、その依頼主が依頼を取り下げ、依頼料の半額を冒険者Aに支払わなければならない。

 この依頼が組合なら、組合が支払う事になる。


 だが、この依頼は【ジルヴァラ】への特別な依頼だった。

 そして、翔真達は組合の許可も得ていない上に、資格停止中、講習を受けていない。

 そして、彼等は勇者として知られている。必ず物を売るときは本人の証明書を提出する必要がある。

 彼等にはそれが先程の理由により、依頼をうけられないし、出来ない。

 だが、彼等は、【ジルヴァラ】の依頼中の紅牙猪を斃し、紅い牙を闇商人に売り払ってしまっている。


 そして、【ジルヴァラ】と翔真達の言い分が違っている。

 違ってはいるが、先程の規則を遵守し、翔真達が補償を行えば良い。

 この場合、依頼料の全額補償になるのだが……。


 それは、今、大した問題では無く、彼等が犯した最大の罪は、魔獣の始末せずに瀕死状態での放置し魔瘴石を砕かなかった事で、今回の事態を引き起こした原因を作った事にあるのだが、彼等は理解せずに自分達の―― 勇者の行いの正当性を主張し、果ては正当化しようとしている事にある。


 セフィーリアとクレアは、翔真の”自分の失敗を都合の良いように記憶を書き換え無かった事にする”という悪癖を思い出す。


 彼にとって、この事態は有り得ない現実なのだ。



 そんな中で千尋は以前、二人きりに為った時に総司から聞き、彼が言っていた事を思い出していた。


 それは、かつて幼馴染みグループに居て、詩音が淡い想いを懐いていた幼馴染みのリーダー(翔真)と、後に出逢い、詩音を救い、彼女が今、想いを寄せている少年《総司》の考え方の違いを――――。


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