49話 異形
総司と詩音による、【怨呪】の説明が終わりに差し掛かろうとしている時を同じくして、ナトゥーラ門前でフルーレ軍と男で在ったが、今や異形の化け物に成り果てたモノと牽制し合っていた。
フルーレ軍 二番隊 隊長 グレン・バナッシュは隙無く、片刃の直剣【桜吹雪】を正眼に据え、異形の化け物を威圧する。
グレン・バナッシュが放つ戦気を【桜吹雪】が纏い、花弁の様に舞う。
その戦気に呼応する様に、異形の左腕も変異し、右腕と同じ様相を見せる。
その異様に、最初に対応した若い騎士が怖じ気付き、ジャリとと地面を鳴らし、一歩下がってしまう。
音に反応したのか、異形は叫びながら闇雲に両腕を振り、その鎌で騎士達を凪ぎ払う。
「こなくそっ!!」
「ん、なろぉがっ!!」
ギャリッギャリと嫌な音をたて、大鎌を防いだ騎士達の剣が火花を散らし、その膂力で騎士達は吹き飛ばされてしまう。
「ぐはあっ!」
「あがっはっ」
「ぐぶっ」
彼等は地面に、木々に、後に控えていた騎士を巻き添えに叩き付けられた。
男の意識が残っているのか、身体の変化に痛みが伴っているのか呻き声を上げながら大粒の涙を溢し、恐怖から騎士達を威嚇して咆哮する。
先程の攻撃に腰が引けたのか、異形が崩し易いと見て取り、躍り掛かった。
異形の初動の間隙を突き、グレンが【桜吹雪】を下段から斬撃を浴びせた。
ギャリィィンと刃と刃がぶつかり、音が空気を震わせる。
拮抗する刃――
腕を伝い這い上がってくる嫌な痺れに、グレンは内心で舌打ちをする。
それを表情に表す訳にはいかない。
「このヤロー……なんて馬鹿力だっ!!」
剣と鎌が互いを断ち斬らんと、ギシギシと刃を軋ませながら押し合うが、部下を死なせない為に斬り込む体勢が悪くなった。
膝が崩れそうになる。
徐々にではあるが、グレンが押されはじめる。
すかさず横槍を異形に向けて、まさに槍兵が一撃を入れ、グレンは異形から間合いを取る。
「た、隊長ご無事ですか?」
「ああ、すまん。助かった」
グレンは片手を挙げて礼を述べる。
「お前達、まずは下がってろ。俺の【桜吹雪】で散らしてやる」
「はっ!」
二番隊の騎士は知っている。自分達の隊長が、”散らす”と言った時の強さを――
圧倒的な数の敵でも、能力を持つ敵であっても、神剣、聖剣、名剣と、それを持つに相応しい能力を持つ者が、全て覆してくれれると、考えてしまう。
それが彼等の弱点でもあった。
「いくぜ……」
戦気を高めるグレン。
「覚悟しやがれぇぇっ!!!!」
大地を蹴り、走り出す。
自ら向かってくる餌に、異形がニタァと嗤う。
異形は、交差させる様に、腕を撓らせ鎌を振るう。
「ガァァアアッ!!!!」
異形が猛り吼える。
異形の鎌がグレンを切り裂いた。
その瞬間、ざぁぁっと、胴から上下に切り裂かれた筈のグレンの身体が、崩れ、戦気の花びらが舞う。
その瞬間、グレンが【桜吹雪】で異形の真後ろから連撃をあたえる。
「喰らい散れっ! 閃花斬っ!! おおぉぉっっ!!!!」
【桜吹雪】連撃の刃と無数の戦気の小さな花弁の刃が異形を襲い斬り刻んでいく。
グレンが、そして戦気の刃が斬り付け、傷を負わせる度に異形の鮮血が舞い散る。
身体の至る処から血を流させている異形がよろける。その隙を逃さず他の騎士達が次々と槍を突き刺していく。
「がっ、ガフッ、ゴボッ」
ビチャッ、ビチャッと、地を血で染め上げていく。
槍を突き立てられた異形が、口から大量の血を吐き、ボタボタと、後から後から止めどなく血を溢れさせ、喉を詰まらせて苦しそうに吐き出す。
「終いだ。――弧月」
走り跳んだグレンが右肩に担ぐ様に構えた【桜吹雪】に戦気を纏わせ袈裟斬り―― 弧を描くように異形を斬り付けた。
黄色に輝く剣閃がまるで、弓月の様であった、それが、異形の首を跳ねた。
ブシューーッと鮮血が噴き出す。
やがて、それも収まり、異形の化け物は、内包していた、力を天に昇らせた。
それを見届けると、騎士達に漸く安堵が広がる。突然の異形の化け物との戦闘に、さすがの騎士達もへたり込む者も居る。
「お前らっ! よく、やった!!」
グレンが一人一人に労いの言葉を彼等に掛けていく。
もし、この場に総司と詩音が居れば、グレンに詰め寄った事だろう。何せ、彼が使った剣技、戦技は――――
千羽天剣流 巨門 ― 鏡花 ―
千羽天剣流 武曲 ― 弓月 ―
この二種類だったのだから。




