48話 精霊使い殺し
「さて、怨呪について話そうか――」
そう言った総司の目線はアースィナリアに向けられていて、アースィナリアは、その目線と自分の身に起きている変化、焦燥にも似た感覚に捕らわれ、心臓が鼓動を速く刻んでいる事と合わせ、理解する。
「怨呪に気を付けるべきは、わたし……なのね?」
「ああ」
アースィナリアが出した答えを、総司は肯定する。
「怨呪―― さっき、詩音が言った通り、皇国の人工精霊―― 生きた人間を鬼兵に変異させるのに対して、軍事帝国が作り出した魔導兵器を動かす核、その核の力を呪力と名付け呼んでいたんだよ。対戦末期ではね」
「魔導兵器の核……」
アースィナリアは総司の魔法銃装剣を見る。
総司がアースィナリアの向ける視線の先を察して――
「魔導兵器、魔導人形なんだけれど、騎士鎧に…………」
と、総司がポケットから 一枚の銀板を取り出すと、アースィナリアに差し出す。
「ん?」
アースィナリアが差し出された銀板を手に取る。
「アルフィード王宮で、クレアから適性を調べる時に渡された、魔導銀粘土―― 人工精霊銀とも言うべき、魔力伝導銀の板よ」
「「「!!」」」
準備を終えたらしい詩音が、身体に不釣り合いな程の黒革の鞄を背負っていた。
「帝国では魔導水銀だな、それと組み合わせて造られたのが魔導兵器だ。皇国の精霊使いと非人道的な鬼兵隊に対抗したものだ」
「よく考えて、これは今の魔導文化、文明に近い考えよ」
あえて、アースィナリア達に考えさせる総司と詩音。
暫くアースィナリア達に考えさせ、頃合いを見て――
「アースィナリア、人工魔瘴石だ」
「「「「「「「「人工魔瘴石!!」」」」」」」」
アースィナリア達やフリーデルト達、二柱の女神が驚きの声をあげる。
「帝国は人間主義の魔術国…… いや、呪術国か、どっちでもいいんだけれど、覚えてるか? 魔精霊が生まれる仕組みを」
アースィナリアを含めた全員が頷く。
「純度の高い水晶に集束術式を刻み、瘴気を集める。瘴気の説明もしただろ? 人の悲しみ、悔い、怒り、恨み、そして、生きたい、まだ生きていたかった、親しい人、想い人と別離たくない……そう言った嘆きの願いが、【怨呪】の核と成り、呪力を宿す魔導兵器が造られた……」
「精霊使いと精霊殺しの兵器よ。それが、この不快感の原因ね」
精霊使い、精霊殺し――
その言葉の持つ意味に皆が息を呑む。
「大戦時…………精霊使いは、精霊力を契約精霊に流して、契約精霊が精霊魔法を放つ砲台や契約者の命を聞き、前線でも戦っていたわ……」
「精霊使いは、所詮、人間にすぎず、強力なのは精霊だった……。鬼兵隊が効力を発揮しだしたのは、対精霊使い―― 魔導兵器が戦場に投入されて、精霊使いと精霊の連携が瓦解したから……」
サファリアとアイリシュティンクの言葉にアースィナリアが疑問を投げ掛けた。
「サファリア達と契約していた、マユミ・センヴァーリア様はどうやって精霊殺しの【怨呪】と戦えたの?」
「…………精霊使いであり、剣士だったマユミには、意味を為さ無かったわ。わたし達を穏形させたまま、わたし達の加護を自由自在に最大限の効果を引き出して、戦場を駆け回っていたわ!」
アースィナリアの質問にアイリシュティンクが胸を張って答えた。
アイリシュティンクとサファリアは自分達の契約者を見る。二柱の女神は似ていると思った。
(アースィナリアもソージも、形は違えどシオンも剣士として自身で戦おうとする……)
(それに蒼の姉様、ソージの”テンケンリュウ”と”かたな”に”センバ”……)
(ええ。マユミと同じ戦技……。何より、心根が似ている)
優しい眼差しで契約者の少年少女を見守る。




