プロローグ ― 不穏 ―
時は少し遡る――
総司と詩音が堕ち神と戦っている時を同じくして――――
その男は雷が轟き、雨が降り頻る暗い森の中をフラフラと覚束無い足取りで歩いている。
幽鬼の様な青白い顔をした男だ。
その男は勇猛な冒険者さえ怖れ、避けて通る程の盗賊団の頭目だった。
街の冒険者組合に討伐依頼が出されるものの、依頼を請けた冒険者一行が返り討ちに合い、全滅や、恐怖感を広げる為に、わざと生かされ瀕死の状態で街に打ち捨てられる。
そう言った理由で依頼難易度が上がるばかりだ。
そして今では、誰もソレを口にする事も依頼を受けようとする者も居ない。
そんな盗賊団の頭目が眼球が眼窩に窪み、眼の焦点が定まっていない痩せこけた姿で――
夜が明け雨が止み泥濘む魔獣の森を、びちゃ、びちゃと足を引き摺る様に歩いている。
「………………」
威圧感と暴力で手下を従えていた盗賊団の頭目で在った筈の男が、陰鬱な様子で何やら呟いている。
たとえ近くに人が居たとしても、正しく聞き取る事は叶わないだろう。
それ程に男の声は小さく、言語も理解し難い。
そんな男を魔獣の森の中を気配を消しながら、後を付けている者達が居る。
その者達は身に纏う物は違うものの、似たような雰囲気を醸し出している。
「……」
先頭の男が素早く、手で合図を後続に伝える。
合図を受け取った者達が、四人一組で森の中に散開していく。
合図を送った男は、此れから起こる惨劇と、その後の凌辱劇に思いを馳せ、ニヤァと厭らしい笑みを浮かべる。
此れから向かう小さな町には、至宝が在るのだから。




