43話 幼馴染み
「調略する為にチヒロ・ナンジョウ達、勇者に関して教えてくれないかしら?」
”確実に”総司は、そう言ったのだ。その為の理由も聞いたがアースィナリアは納得がいかない。
「…………勇者の翔真、闘士の一誠の二人は俺たちの世界の遊戯や物語の様な此の世界で、勇者の力という万能感を手に入れて強く成れたと勘違いして、魔神族との戦に挑もうとしている」
「絶大な力に酔い痴れているのね」
総司の説明に要領を得て、アースィナリアは納得した。
「そこまで……、酷いのですか? 心得がなってませんね」
ソフィアが騎士として眉を寄せる。
「新人騎士と同じだぜ?」
呆れるゼルフィス。
「大丈夫なのでしょうか…………。スティンカーリンは新人冒険者には容易い容易くは無いでしょう」
セレナは目の前の二人を半眼で見る。
「……う~ん、師匠の許で俺達、学んでたからそうでも無かった」
「師匠、厳しかったもの」
(桶の中の精霊銀をひたすら混ぜる精霊力の集中と制御練習……)
(常に実戦練習……)
総司と詩音の様子を見て、アースィナリア自身も遣り遂げた課題を思いだす。
「千尋は勇者達とは幼馴染みなの、その繋がりで離れられないで居る。だから、凄く心配」
「南條は賢者だ、それを踏まえて考えてくれ。勇者達が相手との実力差も判断できず、まして殺し合いなんて動物ですら狩りの経験が無い人間が、扱った事もない武器……、突然手に入れた能力で調子に乗って魔物と闘ったらどうなる?」
詩音と総司の懸念している事であり、更にアースィナリア達が思った以上に深刻だった。
「…………賢者の負担だけが増して魔力が枯渇する。そうなれば、命の危険度が増すわね」
アースィナリアはそんな判断も出来ない程なのかしら? と勇者の事を考えていたが、思った以上らしい。
「もう一人【至高の魔法士】はどうなのですか? 出来ればと言っていましたが」
セレナが問う。何故扱いが違うのか。
「紗奈・有馬は、昔から勇者を想い慕っているの……」
「それで、出来れば……か」
(本当に難しいわね……)
思いもよらない理由にアースィナリアは渋面を作る。
「ま、その想いを否定はしないし出来無いけど、一応、詩音の幼馴染みらしいし? アノ浮かれた奴らに、彼女達を気遣うなんて出来ないだろうし」
「遠い過去の事だけれど……。勇者の悪癖には嫌気が差す」
総司と詩音が苛つきを覗かせる。
「悪癖?」
「自分の描いた通りに、自分の物語が進まないと全て無かった事にしたり、自分の都合の良い解釈をするの」
「……………………」
アースィナリア達が勇者に対し、今度こそ呆れ果てる。
(成る程……。お調子者でおだてれば思惑に乗せやすいし利用も使い捨ても容易いかぁ……。それは、心配よね。二人の為にも、彼女達の為にも調略してみせないと……)
アースィナリアは総司の言っていた”最後”の意味を漸く深いところで理解した。
「それで……ソージとシオンは…………」
アースィナリアが言い難そうに言葉を止める。
「セフィーリアかクレアが宿代、食事代に装備費を出してると思うけどなぁ」
「浮かれて旅に出て、魔物を斃して部位を採取して魔石を獲得する余裕があるかしら? 王命なのだから、そこからも金貨とか出てそうだしね」
「………………」
(民が窮状を訴えていると言うのに……)
二人の言葉にアースィナリアは頭痛がするとでも言う様に額を押さえる。
「それを解ってるから、セフィーリアとクレアは自分の持っている貨幣を出してるんだと思うぞ」
「それに、千尋がそれを許容出来る筈が無いから、絶対に努力してる」
「それはそれで、あまりにも情けなさすぎだぜ? その勇者はよ!」
ゼルフィスが切り捨てた。
「そうですね……。本当に勇者なのか疑わしいですね」
貴方達とまちがえたのでは? とセレナの瞳が訴える。
「勇者が召喚されたと聞き、どのような御方かと思っていたのですが……」
残念です……。とソフィア。
(本格的に敵対する前に二人に接触しなければ……)
妹と元自分付きの魔導師を想い、アースィナリアは頭を悩ませる。
そんな彼等を二柱の精霊の女王は静かに見守っていた。




