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40話 再建政策案 3 我成す事

「総司……。さすがに、容赦無さすぎ」

「容赦して救えるのなら、それに越した事は無いんだけれどね。無理だろ。他者に対して、あまりにも命の重さが軽すぎる」

「そう……ね」

「…………」


 総司と詩音は、旅の間に差別も迫害も、貴族に依頼された人拐いの人身売買。更には、その上に成り立つ意味の無い幸福と、悲劇を見てみぬ振りの上に成り立つ、無責任な意味の無い安心感。

 数ヵ月の総司達でそれだ。創世以来、世界を観て来たアイリシュティンクの胸に抱えた想いは如何程であろうか。


「俺達の世界での逸話だけどな」と、総司は前置きをする。

「ええ」と、アースィナリア達が、頷く。

「世界的に有名な歌い手が、自分達の街に訪問するって言うんで、街をあげて住民達が、”汚い街は見せられない”って言って、街を清掃した。と言う逸話があるんだよ」


「えっ!!」

「なんと!?」

「そりゃあ、すげぇな!」

「つまり、汚れきった貴族の政権を一掃しなければ、此れから幾ら改革しても、商人や冒険者、移り住みたい、また訪れたいと、思わせることが出来ない……と、言う事ね」

「その通り!! アースィナリア。まずは”今一度、此のヴァイスを、洗濯する”だ」

「えっと……何、その言葉?」

「さっき、話た、国の古い体制を変える切っ掛けを作った人の言葉よ」

「洗濯して、真っ白にする……ね」

 そう言う志を懐いて、行動した人がいたのかと、そして――

「でも、”何をしたところで、此の国は変わらない”と、言う声は有ったわよ」との、詩音の言葉に――

「”世の人は、我を何とも言わば言え、我が成す事は我のみぞ知る”。利他の精神ならば、他者の評価を気にするな、悪評が気になるならば、それは未だに利己の域を出ていない、と言う事だ」と、総司が言葉を継ぐ。


「っ!!」まさに、今のアースィナリアに合った言葉だった。

(ズルい……。そんな言葉で、わたしの理想を肯定するなんて!)

 ム~と、総司を睨む。


「それで、どうするのよ?」

「労働力として自分達が口にする食べ物が、何処の誰が、どんな苦労をして作っているのか、知るべきだと思わないか?」

「作る人の有り難みをしるべきね」

「労働力も確保出来たし治水工事に着手して、農業改革を――」

「ちょ、ちょっと待って! この農地に適していない土地で!?」

  詩音と総司の会話。

 そして次々に案が出されていく中、アースィナリアが総司の言葉を遮る。


「そんな事が出来るの」

 訝しむアースィナリア達。

「腐葉土を作る」

「腐葉土?」

「蓄積した落ち葉が腐って出来た土の事。養分が多く、空気の流れと排水がいいのよ」

 アースィナリアの疑問に詩音が答える。

「腐葉土で田畑を回復させていく。もしくは、温室だな」

「おん……しつ?」

 (また、聞き慣れない言葉だわ。今度は何?)

「内部の温度を高く保つ、作物の育つのに適した温度を保つ設備だ。此れはさっきも言ったけれど、アースィナリアの許に居るという、物造りに精通している奴に任せるしかない」

「ええ。物造りも立派な冒険者組合の一部。鍛冶組合の査定が有るもの。rank,S よ。凄いわよ!!」

「それなら、決まりね」

 胸を張り、自身の親友で部下の自慢をする、アースィナリアに、それは、頼りになるわ、と詩音。


「温室を造り、此の土地では今まで育てられないでいた作物や、時期外れの作物を育て作る」

「えっ? おんしつは、そんな事が可能なのっ!?」

「ええ。簡単にせつめいするなら、寒い遠征時に幕舎で暖をとる様にね」

「けれど、あれは、最低限の空気の流れを良くしないといこないわ」

「此れを使うの」と、詩音は魔石を取り出す。

「は? ……え!? ま、魔石って! 攻撃支援様でしょ!?」

 そんな物を取り出してどうしようと言うのだろうか? そんな風に、詩音と総司を見る。


「例えば此れだけれど――」と、総司が取り出していた羽の様な物が格子に納められ、持ち手の底に先程とは別の、加工された魔石を二つ入れた。


(あの加工された魔石は、火の下級と風の下級のものね)

(いったい、アレはどの様な魔導具なのでしょうか……?)

(異世界の彼等、面白いですね)

(風火の魔導具か)

(それにしては、形も小さ過ぎて威力も無いわ)


「――此れを風と火の、下級魔石を組み合わせて使えば、寒い季節には温風が、水と氷、そして風の下級魔石を組み合わせれば、暑い季節には冷たい風を送り出す魔導具になる」

「此れを大きく造る、そして温室を造る。総司が言った様にすれば、暑さで熱で、寒さで凍えて死んでしまう人も減らせるはず」

「食糧庫に使えば、保存もできる。保存が効けば、食料不足も解決」


 総司達の語るそれらは、アースィナリア達にとっては、妙案で眼から鱗だった。


「もし、……それが本当に実現出来れば……ですが……」

「ええ。セレナの言おうとする事は、理解できるわ。わたし達の常識には無いし、あまりにも掛け離れているもの。それに実験的……だもの」

 アースィナリアとセレナが思案する。


「アースィナリアの言う通り、実験的だ。それは否定はしないし、出来ない。それが危険と損害と隣り合わせ、逆に成功すれば、他の土地が生産出来なくなった物を生産していれば、その土地の隙を突いて交易出来る」

「それを仕事と扱い、報酬は衣食住とする。王族、貴族の料理人が、料理と称して生ゴミに変えてしまうよりは良い」

 総司と詩音は、知識と実際に行う事には隔たりや、大きな溝が在る事は理解している。していたとしても、リターンとリスクを話さない、説明しないのは卑怯だと感じた。


「召喚された勇者達が、ソージとシオンの様に考えたりしないのかしら?」

「そうですね、同じ同郷なのですから」

「それなら、噂に成ってたりするはずです」

「聞かねぇし、報告も無いな」

 アースィナリア達は、総司と詩音の発明と実物を見て、その疑問を二人に聞く。


「城の中の知識だけだからだろ」

「そうね」

 二人の答えは簡潔だった。

「え?」

「剣ならアレクシが、魔法ならセフィーリアやクレアが教えてる筈だし、城の連中と常に居れば奴等の常識も、無意識にそっちに引っ張られる。……まして、奴等が未だに、遊戯感覚なら尚更だ」

「確かに、自由度は減るわね……。貴族との謁見に社交界。ダンスの練習……。少なくとも、その三人なら歴史も学べるけれど、アークディーネ側からの一辺倒になるわね」

 総司と詩音がアースィナリアの言葉に、自分達の予測が当たり、眉を顰めた。

  

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