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39話 再建政策案 2 清濁

 総司が血振りの様にし、鞘に納め、ゼルフィスの襟を掴み引き摺って来る。

 ゼルフィスがまだ若いとはいえ、一廉ひとかどの騎士である事に変わり無い。

 何も出来ずに負けた事、総司のゼルフィスを引き摺る、というあまりにもな対応に、アースィナリアは、絶句したままだ。


「じゃあ、総司達も決着を着けた事だし、話の続きをしましょうか?」

 詩音がアースィナリアに呼び掛ける。


「えっ!? ええ。そう……ね」

(ゼルは、どうするのかしら……)

(泥で、汚れてしまっていますが……)

(え~と、アーシェ様?)


 未だに気絶しているゼルフィスを見る。

 すると、総司がゼルフィスの肩に手を置く。


「おい、起きろ!」


 と、総司がアイリシュティンクの属性でもある紫の雷をゼルフィスに当てる。


「あ゛びゃっばばば!? や゛、やべろ゛!!」


 ゼルフィスが気が付き、総司の手を叩く。


「アーシェ、気が付いたみたいだ。汚れも落としておいた。まだ痺れて動けないだろうから、レオンに運んで貰ってくれ」


 呆気にとられ、アースィナリアはコクンと頷く。


「れ、レオン、ゼルを運んであげて」


 主であるアースィナリアの声に元気良く「ガウッ」と、レオンが応える。

 ゼルフィスを背中に乗せろと言わんばかりに総司に合図する。

 

「総司……。どう……だった?」


 模擬戦の感想を詩音が訊ねてきた。

 それには、自分の騎士隊の練度に関わるためアースィナリア達も耳を傾ける。


「……そうだな、剣術其の物に理が無い。歩法も、体捌きも。魔力や魔法強化まかせ。技は、勢いと乗り、それが此の世界の戦剣術と言ってしまえばそれまでだけれど――」

「それまでだけど? 何?」

「――強くなれても、アレクシ程度だな」

「大した事無いのね?」

「「「「‼」」」」


 不撓不屈、不敗のアレクシを、あの程度(・・・・)呼ばわりする総司と詩音に、アースィナリア達はやはり耳を疑う。


(先程もアレクシ第二殿下を蛮勇や、匹夫の勇と呼んでいましたが……)

(それが軍隊でも弱点だと言っていましたね)

(ええ。……その話も聞けるとおもうわ)


「アレクシが無双出来るくらい強ければ氷鏡達を勇者として召喚なんてしていないよ」

「あ!? それもそうね」

「「「「!?」」」」


 …………詩音もアースィナリア達も総司の一言に目を見張る。すんなりと納得出来てしまった理由にアースィナリア達は、総司を見て申し訳なく思った。


「っ!! …………」


 突然、アイリシュティンクの頭に優しく手が置かれた。


「!? ソージ?」


 アイリシュティンクは、自身の契約者を恐る恐る見る。


「リスティー、帰還方法ならある。勇者召喚魔法からでは無く、精霊側の召喚術を調べてみるさ。その為に旅をしてる訳だし、だから、落ち込むな」

「ソージ……。うん」


 と、アイリシュティンクは総司に身体を寄せる。


(どうやったら、その乱立したフラグを壊せるかしら? ヘカートⅡなら壊せそうよね? どう思う?)


 と、総司の背中に詩音は指鉄砲を押し当てる。


(詩音さん……)


 詩音も、総司の背中に身体を寄せる。


(何時も此の背中を見てる。戦闘時も……)


 それを切なく思う気持ちと嬉しく思う気持ちが何時も鬩ぎ合う。


 総司は会話中、集中を途切れさせずに精霊力を身体に纏わせ、コントロールし汗や汚れを浄化していく。総司はそれでも、と思う。


(それでも気分的に身体や服は洗いたいのですよ)


「………………」

(なんて、綺麗な色なの……)


 瑠璃色の光が、総司の身体をゆっくりと、包み込んでいく。その、精霊力制御に、アースィナリア(わたし)は、魅せられる。


「よし、汚れも無い……。待たせたな。家に入ろう」



「……”あぱーと”や、”せんとう”は、わたしの考えていた事でもあるけれど……」


 アースィナリアと総司の会話に、セレナ達やフリーデルト達が、固唾を飲んで見守る。


「………………」


 考え込む振り(・・・・・・)をする総司に、詩音が脇腹を

軽く肘打ちをする。


「考える振りは今更感しかない……」

「ふー、そうだな。単刀直入に言うと、その貧民区画(スラム)街を更地にして、その住民の仮住まいに幕舎を使い、寝具は城で使わない物を使う」

「えっ!?」


 総司の暴論にアースィナリアは勿論、セレナ達やフリーデルト達迄も驚きの声を上げてしまう。


「ソ、ソージ……、何を言っているの? そんな事、出来るわけが……」

「直球過ぎ……」(此れだから自己完結は誤解される……)


 総司の悪い癖が出たと、額に手をやる。


「あー、わるい。住民を清潔にさせて食べる物、着るもの、住む場所は先程も言ったけれど、兵士の幕舎を使ってアースィナリアの予備軍―― 労働力として住民を使う。それならば、フルーレ軍の幕舎を体裁だけは調う。」

「な!? ろ、労働力に……」

「俺達の世界でも、ピラミッドの石を積み上げるのに雨季で畑が水没して仕事が出来ないから、代わりの仕事として住民を雇ったりしたと言う話もある」

「!! 雇い金の代わりに住む場所と食事で彼等を雇う……。セレナ、出来ないかしら?」

「そう……ですね。前城主が無駄に溜め込んだ食材が有りますから可能ですね。彼等が受け入れるのなら素晴らしい事なのですが……」

「地方豪族……。貴族が問題よね……」

「はい……」


 と、アースィナリアが悔しげに眉を顰め、唇を噛む。


「はい、奴等、必ず邪魔をしてくる……」


 ソフィアが忌々しげに呟く。


「アーシェ……。総司が凄く良い顔をしてる。きっと物凄くエゲツナイ事を考えてる」

「エゲツナイって!?」


 と、詩音の言葉にアースィナリアは総司を窺い見る。


「詩音さん、いったい俺を何だと思ってる?」

「言って良いの? 勝つ為なら、夜討ち朝駆け、搦め手も使うし、使える物は何でも使うじゃない。勝ちの可能性が無くても、使える物は使って生き汚くとも勝つ為の一手を打っていく。違う?」


 詩音が、にやり、と総司を見やる。


「それで、どうするのかしら?」


 と、フフと詩音は笑う。


「……豪族も、私兵持ってるだろ? 出兵させてしまえばいい」

「出さないし、出ないでしょうね」


 と、セレナが分析する。


「出ないなら、出させてしまえ」


 と、総司が事も無げに言う。


(ホトトギス?)


 と、詩音が内心で付け加える。


「出させるって……」


 そんな方法が有るのかと、アースィナリアの瞳が訴える。


「中央を匂わせれば良い」


 総司の、その言葉に絶句する。


「ソ、ソージ、それは……」

「確かにアースィナリア第二王女の名は軽くない。軽くないからこそ口約束でも重い。”戦場で武功を立てれば中央への口利きをする”と、前線に送り込む」

「………………」

「アーシェのフルーレ軍は後陣に控える。アースィナリアに従う将達とは連絡と連携を密にしろ。そして……欲を掻いた豪族には負け戦をしてもらう」

「「「「な…………!?」」」」


 アースィナリア達が総司の打ち出した策に絶句する。


「ソ、ソージッ!! 幾ら何でも、それはやり過ぎよっ!!」

「では流行り病、飢えでまた多くの人が死に孤児院の誰かが【聖乙女】に選ばれるな」


 ビクリ、とフリーデルトとステラが身体を振るわせ、不安気にアースィナリアを見る。


「ね、姉ちゃんが助かったのに……、また、繰り返すのかよぉ……」


 と、ステラが瞳に涙を溜め、アースィナリア達を非難する。


「ステラ、大丈夫よ、ね? あなた達は私が必ず守って見せるから」


 今のステラの視界にアースィナリア達が映るのを、フリーデルトは抱きしめて遮る。


「…………覚悟、決めたのよ」

(此処で、負けるわけにはいかない……)

「ソージ」


 と、強い覚悟を込めてアースィナリアは総司を見据える。


「続きを、お願い……」


「彼等には勝手に戦を仕掛けてもらい、負け戦の責任をとらせる。それが1つ。アーシェとセレナには秘密裏に停戦に尽力してもらう」

「……それで爵位の剥奪、私財を没収するのね。しかも彼等が悪い事をしていたら、それも罪になる。その家は取り潰しでお家断絶……」

「男なら労働力。女なら下働き」

「奴隷同然の労働力確保ね」


 アースィナリア達は総司の容赦の無さに戦慄する。


「その豪族の私財を売り払って財源確保しないと再建の為の資金の捻出が難しくなるぞ?」

「え?」

「食に関する改革が一番問題なんだ。保険の為の食料確保の資金にしないと」

「あっ、そうよね……」

「何も残酷な改革じゃ無いだろ? 戦に出て民を護るのが貴族の役目だろ? その為に民から税を取っている。その役目すら果たさないのなら、それこそ戦犯じゃ無いのか?」


(それに暗愚の王と欺瞞の家臣の下らない思惑で姉妹を争わせたくないよな……)

(そうね……。それに千尋()もいる)

(氷鏡と妻夫木の二人は好きでやってるみたいだし、どうでもいいが……)



(戦の影は在る……。勇者がスティンカーリンに来ている……。それはセフィーリアとの戦争に成る。と、言う事……。ソージ、まさかセフィーリアと戦わさせず話し合わせる為に……?)


アースィナリアはその碧玉の瞳を潤ませて総司と詩音を見詰めた。

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