37話 再建政策案1 乙女心を掴め 後編
後編です。楽しんで頂ければ幸いです。
ステラが、ウキウキと詩音達を風呂場の脱衣場迄案内する、その足取りは、今にもスキップしそうだ。
そんなステラが、大きな失敗をしないか義姉の、フリーデルトはハラハラと、見守る。
フリーデルトが【聖乙女】として、選ばれてからは、何時か訪れる別離の時の為に、突き放していたが、けれど内心では、何時も心配をしていた。
それが、先日、ステラが嬉々として手を引いている、少女と、そして、もう一人の少年が土地神を弑したのだ。その結果、フリーデルトは生き延びた。
その反動か、フリーデルトは過保護に成りすぎている自覚もある。ステラも、今迄の時間を取り返すかの様に甘えてきているのだろう。フリーデルトは、妹離れが出来ていないのは自分も同じかと、苦笑を浮かべる。
アースィナリアと彼女のドレスの背中の紐を解いていたセレナやソフィア、フリーデルト、ステラが、制服のYシャツの前をひらき、胸が開けた状態の、詩音を興味深そうに見ている。
「何か?」
見る。と言うよりは、観察されていた詩音が訝しみ、アースィナリアの方を向く。
「え、あ、不躾だったわ。ごめん。詩音の身に着けているのは何?」
「……ブラと、ショーツ。下着よ」
「し、下着!?」
「「「!!」」」
アースィナリア達は、自身がしている、コルセットを思い浮かべ、詩音の軽装を見る。上下とも、白の横線、黒の縦線がはいった模様をしている。そして、思わず――
「か、可愛いい……。羨ましい」と、口にだしてしまっていた事に気付く。
「えっと……」と、詩音は、なんと言っていいのかと、自身の白黒のギンガムチェックの、下着姿を見下ろす。
こういう時は、どういった顔をして良いのか分からず「ありがとう」と笑う。
この時の詩音の脳裏に、有名なアニメの、ワンシーンの台詞が過ったのかは、定かではないが……。
閑話休題――――
「ガチガチのコルセットじゃないのね?」と、今度は、詩音がアースィナリアのコルセット姿を見て疑問を口にする。
(現代の補正下着に近いのね)
「そうね、昔はそうだったみたいね。だけれど、人体として、おかしいじゃない? 均整がとれていないじゃない? だから、姿勢や体型を崩さず、綺麗に魅せる物に変わっていったの」と、詩音の疑問に答えた。
(確かに、ウエストが40とか……、不自然よね。砂時計じゃ無いんだから)詩音は、さもありなん、と納得する。
浴室に入ると――
「広いのね」
「んー……。じっちゃんが好きだったんだよ。風呂」
「風呂…………ね」
「「「「?」」」」
ステラの”風呂”と言った単語に詩音が引っ掛かりを覚えたのを、何故? と、アースィナリア達が思った。
「浴場や浴室、湯浴び場と、人間は言うのでしょ? 木材で造った”お風呂”は、貴方達がエストレーヤ大戦と、呼ぶ時代に――
大戦を終結に導いた【九曜の戦女神】が、造らせたのよ」サファリアによるの説明。
「お風呂好きだったの。彼女は……」と、アイリシュティンク。
「「「「「!!」」」」」アースィナリア達が、まさか、と言う様に驚く。
「入浴文化が、聖女様由来だったなんて!!」と感動する入浴好きなアースィナリア。
そんな中に在って、詩音は――
「桧の匂いね」(もしかして、その聖女様は、私達と同じ世界の人間かしらね)と、言葉を残し浴室に入る。
湯船に精霊結晶で湯を張り、シャワーを準備する。
「さあ、使ってみて」
「ええ。早速」
一人ずつ身体を濡らし、掌に先ずは、リンスinシャンプーを出し、泡立てて、髪の毛を洗う。
「髪の毛だけじゃなく、頭皮を指の腹で、こうやって、洗うのよ」と、マッサージするように洗っていく。
詩音を真似て、皆が洗う。
「あ、気持ちいいかも」
「アースィナリア様、私が」
「では、私がセレナを」
「クス。じゃあ、わたしはソフィーね」
「それでは、私はシオン様を」
「そうね。ステラを私が」
「じゃあ、アタシは姉ちゃんだ!」と、はしゃぎながら、全員がそれぞれの頭皮と、髪の毛を丁寧に洗っていく。
「ね、シオン。貴女の身体、わたしが洗ってもいいかしら?」
アースィナリアが、詩音の前に立ちきいてみる。
「………………」詩音からは、無言が返ってきた。
詩音は考えてから、直ぐに
「ええ、良いわよ。先ずは、私が貴女を洗ってあげるわ」
「本当に! お願いね」
(さっきの、無言が気になるけど、これを機会にまた、親友になれたら、いいな♪)と、心から願うアースィナリア。
(さっきから、目に入って来てたけど……)と、掌でボディソープを泡たたせながら、「――――それにしても、アースィナリア…………」と、詩音がアースィナリアの脇から、ゆっくりと、手を伸ばす。
「何?」
「胸……、大きい……わよね……」と、何故か、ほの暗い声。
「え……っと? ……そ、そうかしら」と、自身の胸をみる。
確かに、多少、大きいとは、感じていたが……
「ええ。……とても、うらやましいわ!!」と、言う声と同時に、先程から、タユン、タユンと揺れる、たわわに実った、その果実の如き、双丘を下から、ムニュン、と持ち上げられたアースィナリアは、「あん!」と、驚きを含ませた甘い声をあげてしまう。
何事かとセレナ達が見ると、アースィナリアが詩音に後ろから胸を揉まれ、艶かしく形を変えている胸を見た。
「な!?、な!! 何をしているのでしかっ!!」動揺をしたセレナは見事に噛んだ。
「や、やめてあげて!」
止めに入ろうとするも、詩音に睨まれるソフィア。
「ア、アースィナリア様が…………、し、シオン様……」と、フリーデルトが恐れ戦く。
「スゲーなぁ、けどなぁ、姉ちゃんには負けてるな」と、呑気なステラ。
「!! ちょ……待って……、シオン」振り返り、肩越しに自身の胸を鷲掴みをしている詩音を見る。
「凄くやわらかい……。それでいて、張りもある……。一体……これは、どういうことなの…………」
「ど、どういう事って言われても――――やぁん、そんなにしちゃ……、んんっ……」と、艶かしい声を上げる。
「肌を傷付けない様にするには、手で洗う事が、大切」
「だ、だからって……、じ、自分で洗っ――、あぁん」アースィナリアが鳴いた。
「信じられない……。まさか、此処までスゴいなんて……」と、自分の胸を見下ろす。
決して、無い訳では無い……が、大きいという訳でも、小さい訳でもない。だがしかし、周りを見て、くっ、と呻く。……ステラと比べても仕方がない。彼女は子供だ。さすがに矜持が許さない。
そして、このままでは未来への展望も最早望み薄……。
自分の母親、奏も小さい……。泣けてきた……。
自分の身体は気に入っている。不満は普段は全くと言って良い程、無い。ただ、総司が読む少年雑誌には、そういう娘がグラビアとして載っている。総司、曰く「漫画を読む為で、どんな人柄かも判らないのに興味がない」らしい。個人的に救われる。
――閑話休題――
アースィナリアが身体を反転させる。
「も、もうっ、そっちがその積もりなら―― えいっ!! そっちだけズルイわよ! わたしにも、シオンの触らせなさいっ!!」と、正面から詩音の胸に触れた。
「え、私の!? って! ひゃん!! くすぐったいわ……、んんっ……」声を我慢する。
声を我慢すればする程、詩音から悩ましい声がもれでる。
「ホラ、シオンの胸も、こんなに可愛い! 形だって綺麗だしね」
アースィナリアの、お風呂の解放感で仲良くなろう作戦は上手く行っていたりする。
そんな二人を他所に……。
「しかし、この、ぼでぃそーぷと言う物は、実に素晴らしいですね」
「そうよねー。これを使ってしまった後では、今までの石鹸では不満しかありません……。この、香りに、しっとりと肌が潤う感じがなんとも言えません……」
「ええ。この洗髪液……。りんす入りしゃんぷーでしたか。こちらも、洗った後が何時もより軽く、最初は、この涼やかさに吃驚してしまいましたが爽快な気分です」
「ほんとうに……。乙女心を掴まれるよねー。美に敏感な貴族の令嬢や夫人にしても――」
「飛び付くでしょうね」と、相変わらずの口調のセレナに対し、幾分、口調が砕けたソフィアは微笑み、姉妹を見ている。
「ね、姉ちゃん! 湯が、雨の様だっ!!」と、シャワーから流れ出る湯に、きゃっきゃっ、とステラがはしゃぐ。
「そうね。まるで滝の様」と、そのアースィナリアの豊かな胸よりも実り豊かな胸。そして、メリハリの付いた肢体をなぞり、洗い流していく。
彼女達の声は、当然、残された男子である、総司とゼルフィスにも、聞こえてきていた――
(あっちはあっちで、わだかまりを解決しようと試みている……か)
チラリ、とゼルフィスを見る。
(絶対無い。何が悲しくて男の裸姿を見ないといけないんだ……。悲しすぎる。男同士の風呂での裸の付き合いなんて……)
現在の詩音達の状況を自分達に置き換え、想像して精神が削られる。
(それに向こうも、その気は無いみたいだし助かるが……、その代わり、模擬戦をご所望か? いい感じの闘気を放って来ているし……)
(ゴメンだぜ。女の様に風呂ではしゃぐなんてよ。それより、あの、アレクシ殿下とエド騎士隊長を倒し、魔人や半魔神を斃した、お前の剣技、オレに見せてみろ)
ゼルフィスが闘気を放つと、目の前の総司が 反応を見せてきた。
(良いぜ、受けてあげようか――)と、総司は、ゼルフィスに向かい、鋭く研ぎ澄ました剣気で応じる。
それは、詩音曰く――剣士mode―― に、総司の口調と意識が切り替わった瞬間だった。




