28話 答えと迷走
「それで? 作るのを見て、食べた料理をどう思った?」
ソージの真摯に、わたしを見詰め問い描けてくるその言葉の意味をは考えてみる。
(わたし達にすれば未知の料理。……この北方領土で出逢った意味。……! まさかっ!!)
「ねえ、ソージ達の世界では、誰でもこういった料理を作れるの?」
わたしは、考え付いた事を言葉にしてソージに話す。
「否、誰もがって訳にはいかない、それでも作り方を載せている書物があるから、調理器具の使い方と、ある程度の料理手順……、調理の常識を知っている事に限り、誰でも作れる様になる」
ソージは薄く笑みを浮かべて、わたしの考え到った事が正解だと肯定したのだ。
「アースィナリア様?」
副官のセレナが、正解に行き着いて胸の内に喜びが増して満ちていくわたしを訝しむ。
「ねぇ、セレナ。この北方の地が、こう言った料理が出せる土地に成ったら、素敵な事だと思わない?」
「!! この北方の名産食にしてしまうのですね? アースィナリア様」
「ええ、その通りよ! セレナ」
「……しかし、それを成すには、彼等の協力と、料理人の教育が必要になります……」
「ソージとシオンは、その為に教えてくれたのよ。ね?」
わたしは二人を見る。
(ねぇ、ソージこれで正解よね……)わたしは、最後の処で不安になる。
「ええ、それぐらいなら、協力するのに吝かではないわ」
「そういう事だ。よろしく」
シオンとソージの行動と思惑が、わたしの野望に重なった様にわたしは感じた。
▽
(さすが、ソージね。プリンおいしい。……昔、彼女が言ってたわよね……。一緒に食べれば良かったな……)
追憶の彼方の契約者との会話が甦る。
『アイリシュティンク。一緒に食べないかしら?』
『……いらない、知っているでしょーーー。わたし達には人間の食べ物を摂取しなくても……』
『はぁ、貴女達も同じ意見と考え? 』
アイリシュティンクと同じ精霊の女王が各々肯定を示す。
『…………』
困った様に、そして、寂し気に彼女が笑う。
『何時か、この旅が終わりを迎えた時には、一緒に食べられたら嬉しいわ』と、食事を再び彼女は独りで摂る。
それは、永遠に叶えられなくなってしまったけれど……。
(…………おいしい、ね)
▽
わたしには懸念がある。それをセレナが「ですが……」と一考する。
「今は、ヴァイスの再興と、ナトゥーラをどうするか……、です」と、わたし、そしてソージとシオンを見た。
(そうなるわよね……。まずソージとシオンから、ナトゥーラの堕ち神の事を聞かなければいけないわね)
「だな……ヴァイスは、前の城主がやらかした後の始末とこの隙を狙って来る連中を警戒しねーといけないからな」
ゼルが拳と拳をぶつける。
「アースィナリア様、それでも、準備は大切です。水面下で、貴族に気付かれずに、行動を起こすときは一気に行わなければ、必ず邪魔をしてきます。そうなれば、この美味しいチキンライスも、ポテトサラダも、ウィンナーソーセージも、焼きプリンも醜悪な物に成り下がってしまいます」
(ソフィーも気に入ってるのね、そうよね……、貴族に腐らされる訳にはいかない)
「本当に、味が迷走してるのね」
「楽市楽座を邪魔する保身ばかりの既得権益の貴族か……。腐った果実が生った木だけを焼却しただけじゃ駄目なんだけどね」
「え? どういうこと?」
ソージとシオンの会話が聞こえ、わたしはソージに聞いた。
「木って言うのは、大地に根をおろし、地中に根を張り巡らせる。だから、一本の木が侵されているなら、それは大地や他の木々をも浸食して腐らせていく、だから、焼き払うなら……その土地から浄化しなければ、いけない」
「な、え……、で、でもそんな事をすれば……」
わたしは、覚悟を決めていたはずだった……。けれど、ソージのその言葉は苛烈だった。
「ば、な、何を……、そんな事、出来――」
「出来る、出来ないじゃ無いだろ? やるか、やらないかだ」
ソージがセレナの言葉をバッサリと斬り捨てた。
「どちらにしろ、アースィナリアが叶えたい願いや、望みがあって、王家の人形や、政略結婚で子を産む道具に成り下がりたく無ければ、何の道、戦うことになる」
「………………」
「変革を怖れる者、変革されては都合の悪い者、ましてや、ナトゥーラは魔精霊を神と崇めてたんだ、北方領城ヴァイスを、ナトゥーラ諸共、アースィナリアを確実に潰しに来るぞ」
「………………」
わたしは、わたし達は何も言えなかった。
セレナは、わたしの野望を知り、自身の父親が領主を務めるナトゥーラが、行って来た祭儀が問題になっているから、ソフィーとゼルもわたしの考えや、政略結婚を嫌っているのを知っている。
「……いったい、どうすれば……良かったの? 諦めて、視て見ぬ振りをして、何も無い風を装い続ければ良かったの? わたしには出来ない、出来ないから、このヴァイス迄来たのよっ」
わたしは泣いていた。ヴァイスに移り住み、わたしなりに変え様とした、変え様とする度に爵位を持つ豪族貴族が、言い掛かりをつけ、度々邪魔をして来た。貧民街の子供がその貴族に売られてしまう、一人、また一人と亡くなっていくが、孤児が無くなる事は決して無い。
決意していた。優しい国を造る為ならば、血の河を渡り、屍の山を越えて行く、と。わたしはソージの言葉の真意を悟った。
(戦わなくてはいけなく為るのは、何も豪族貴族やアルフィードだけじゃない。家臣や民の信頼を失った時、身内とも敵同士に成り争う事に為る……)
そう思うと、もう駄目だった。涙があふれ、次から次へと零れ止まらなくなってしまった。
身体は熱を無くしたように震える。
(わたしは、どうすればいいの? ねぇ、誰か……教えてよ)
わたしは側近のセレナ達では無く、異世界の二人に救いを求めた。この二人がわたしの家臣でも騎士無かったから……。
(光明が見えたのに、また、暗闇は嫌なのっ! 独りは嫌……。わたしを助けてお願い。……ソージ、シオン)




