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26話 お子様定食《ランチ》

此の回は▽は総司、☆は詩音、○はアースィナリアの視点です。

 総司が焼きプリンの完成を目指している頃、詩音は結晶と魔石を入れた肩掛け袋から精霊結晶を取り出し、精霊力を流すと波紋が生じ、やはり、総司の時と同じ様に手を差し込む。


(鶏肉、ウィンナー、ポテトサラダ用のハム、ニンジン、きゅうり、酢、砂糖、マヨネーズ……。後、チキンライスなら、ケチャップよね)と、取り出していく。


 総司が調理を手早く出来る様に、それらを切っていく。


(総司の作るチキンライスとか好きなのよね……)


 自分でも詩音は作れるが、やはり自分自身で作るチキンライスより、総司の作る方が詩音は好きなのだ。


 トン、トン、と丁寧に鶏肉の下準備をし、小さく切り揃えていき、トウモロコシを茹で、その間にジャガイモ、ニンジンの皮を剥いていく。


 総司も焼きプリンを作り終えると詩音の隣で、玉ねぎをザクザクと、切れ目を入れていき、トントントントンと、軽快に手早く、みじん切りにしていく。

 玉ねぎを切り終わると、次は、ニンジンを出来る限り細かく角切りにしていくと、詩音が下処理を終えた鶏肉とコーンを渡してきた。


「下準備しておいたから」

Thanksサンクス

「当然よ」


 総司て詩音は笑顔を交わし、それぞれの調理に戻る。



 詩音は総司に下処理した食材を渡すと、きゅうりを薄切りにして、砂糖を大さじ1、酢に混ぜて、きゅうりを漬ける。

 ジャガイモ、ニンジンを適度な大きさに切り、ハムも薄く混ぜ易い大きさに切り揃える。

 ジャガイモを水に晒す。


「~~~~~~♪」


 詩音が”私を月へ連れて行って”と言う意味の歌を、静かな旋律で紡ぐ。


「綺麗な旋律ね」と、アースィナリアが詩音に聞いた。

「そう?」

「ええ、異世界の曲?」

「そう、私たちの国の言葉て、”私を月へ連れて行って”と、言うの」

「何だか素敵ね」

「とても良い曲」

「「~~~~~~♪」」


 アースィナリアは聞いて覚えたばかりの旋律を詩音と共に紡いだ。




 総司は、その旋律を聞きながら、少量の油をフライパンに入れると、ジュアーッと、鶏肉の皮側を焼き、塩、胡椒をし、下味を付け、鶏肉に軽く火が通ると、そこへ玉ねぎ、ニンジン、コーンを加えて軽く炒める。


 炒める度、ジュアッ、ジュア、と焼けていく小気味良い音を、総司はフライパンを振り、奏でていく。


「もう出来たの?」


 アースィナリアが火に近付き過ぎ無い様に、総司の側に寄り聞いてきた。


「いや、これは、ただ塩と胡椒で炒めただけの下準備。一口食べて見るか?」


 総司は瞳を輝かせているアースィナリアとステラに木の匙を渡す。


「いいのっ!? ソージ」

「いいのかっ! 兄ちゃん」


 二人が嬉々として、木の匙を受け取る。


「一口だけだぞ。熱いから火傷しないように気を付けろよ

「わかったわ!」

「うん、わかった!」


 気が逸る二人に総司は注意をし、二人は元気良く返事をした。 


 総司から注意をされたアースィナリアとステラは、匙で熱々の具材を掬い、ふーふー、と息を吹き掛け、火傷し無い様に気を付けながら、アムッ、と食べた瞬間、二人は驚いた。


 口の中に広がった鶏肉の甘味、そして、二人の認識として頭にあった、玉ねぎはピリッと、舌に痛く、ニンジンは固く、玉ねぎと共にニガイという常識を覆し、甘く、また、塩と胡椒の絶妙な味付けが二人を、良い方へと裏切っていた。


「うまーーっ!!」と、ステラが喜びの声を上げる。

「兄ちゃん、これっ、スゲー旨っ!!」

「ほ、本当にこれが、下準備なの!? これだけでも、十分に完成してるじゃない」


 アースィナリアは美味しさ故に、総司に抗議した。


「ああ、今日の料理には、これでも下準備だな。まあ、この世界の料理からすれば……と言うか、手を抜いた料理として”鶏肉の野菜炒め”で、完成だ」


 その説明に「これで手抜き! 嘘でしょ!?」と、アースィナリアが言う。


「まあ、この世界の料理は辛味を抑えるのには、ミルクか砂糖。臭みを消し、風味を付けるには香辛料をなんでも混ぜる、投入する、だからな」

「ええ、宮廷の料理は、そこに珍しいや高級が付くけど、何れも扱いきれずに持て余してる感じで、兎に角それらを使い、見目良く調えて食べられる物を、わたし達は、料理と呼んで食べてたけれど……」

(これは、少しの塩と胡椒だけ……)


 宮廷料理の無駄遣いを思い知らされる。


(この美味しさ、忘れては駄目ね。折角、ソージが教えてくれた知識を無駄にしては、いけないわ!)


 アースィナリアは気合いを入れ直すと、詩音の許にステラと共に向かう。


 (フライパンの片側に寄せて、空いた片側に詩音が用意したケチャップ、それに隠し味に、コンソメ……に似たスパイス、ソース、塩、胡椒少量と……)


 それをクツクツ煮立たせ、水分を飛ばし、具材と混ぜ、そこへご飯を投入し、中火にし、ご飯と具をしっかりと混ぜていく。




 詩音と共に旋律を紡いでいたアースィナリアは、作業を見ながら聞いてみた。


「ね、詩音は何を作っているの?」


 先程から、二人の刃物を扱う手際があまりにも見事で繊細だった。


「ポテトサラダ」

「え、ジャガイモを塩と胡椒で味を付けて潰して混ぜる……アレよね……」(でも、シオンが作ってるのは……具も沢山)


 アースィナリアが知っていた茹で潰しジャガイモと違い過ぎて味の想像がつかなかった。それは、隣のステラも同じ様で、あまり好みでは無いらしい。


「シオン姉ちゃん、ソレ、食べないとダメか?」

「取り敢えず、一口食べて嫌だったら、残せばいい」と、詩音がステラに諭す。


 詩音はジャガイモ、ニンジンを茹でると、熱い内に塩、胡椒し潰して混ぜていく。

 詩音は粗熱を取っていると、ジュアーッと、音がして、お腹が空く良い香りが、隣からしてきて、アースィナリアとステラがそちらを向く。


「「え?」」


 二人は驚く、鉄の板を器にした様な物を持ち、ソレを振るいながら具材を熱していた。


「あれは、フライパン。ソレを熱し、油を少量いれ、鶏肉、ニンジン、玉ねぎ、コーンを塩、胡椒で軽く炒めてる」

「あ、油って燃えるんじゃないのか!?」

「ど、どうして……」

「調理に必要な温度と油の量、調理方法を守れば良いだけ」と、詩音が説明をする。


 その説明を聞き、二人が総司の方へ行く。


 (ウーン、ただ炒めただけでアレなら、これからの食材と所業をどう思うかしら?)


 と、詩音が思っていると一口試食した二人がほくほく顔で戻ってきた。二人は、感想を言い合っていると、総司が予定通りの工程を執る。


「ソージがフライパンに入れた、あの赤いのは何?」

「血!?」


 見馴れ無い液体をフライパンとやらに入れた、総司にアースィナリアが詩音を揺すり、ステラが、うえっ!? と、驚く。


「血じゃないわ、ケチャップ……よ。トマトを煮詰めた物」


 ガクガクと肩を揺すられながら、詩音が答え、アースィナリアが「わ、御免なさい! シオン」と、慌てて謝罪した。


 詩音はクラクラする頭を堪え、説明を続けながら、粗熱が取れて混ぜてあったポテトとニンジンにハムを投入する。


「ケチャップで炒めた具材の中にご飯を入れて、良く混ぜ合せ、軽く炒めると出来上がり」


 詩音がそう言い終えたと同時に総司が調理を終えた。


 アースィナリアとステラが、湯気を燻らす赤く変わった白米に驚きを顕にし、その香りを嗅ぐと、ふわ~と、二人は声を揃える。

 すると、アースィナリアとステラのお腹がキュルル、ギュルと、空腹とまだ食べられない不満を訴えて鳴いた。


「……………………」


 アースィナリアは顔に熱が入り、耳や首許まで朱に染まっているだろうと自覚出来た。




「総司」と、詩音が総司にウィンナーを渡し、総司はソレを受け取り、詩音が予め切れ目を入れておいたウィンナーを焼いていく。


「ソージそれはっ!?」

「ウィンナーソーセージ。豚肉の腸詰めを燻製したものだ」

「うえっ!? えっと……」

「きちんと、血抜きして、丁寧に処理し、洗えば調理方法のひとつになる」


 ジュージュー、パチパチと、油が弾け、焼けていく音と香りが食欲を誘う。


 総司は切れ目を入れてくれていた、詩音の細やかな気遣いに、「ありがと」と、詩音に伝える。

 感謝はきちんと口に出さないと伝わらず、”なあなあ”や相手なら”言わなくても解ってくれるだろう”、では愛想尽かしされてしまう。

 親しき仲だからこそ礼節は大事だ。

  総司はチキンライスとウィンナーを皿に盛り付け、食台に並べていく。


 総司が並べた終えた頃、詩音もポテトサラダにきゅうりを入れ、マヨネーズを入れて混ぜ合わせていき、皿に盛り付け、総司が、プリンを添えて、二人で「「はい、完成」」と、声を揃えた。

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