23話 分岐点
翔真が総司と詩音に詰め寄る。
「確かに、千羽の言う事も一理ある。俺たちを召喚した、それは自分勝手だと思う――」
国王アマディウスは、到頭如何様にも出来ると思っていた翔真にも言われてしまうが、バッと、翔真が玉座に向き直り、アマディウスを見る。
「それでも、それでも俺たちはやります。戦わなくても滅びを待つだけなら俺たちは戦う!」
な、そうだろう? と一誠を見る。
「ああ、俺たちは力を持ってるんだ! その力で何もかも救ってやりますよ!!」
「やってみなければ分からないし、それを可能にする力をあたしたちは授かっていて、色んな人たちが魔族に苦しめられてる。此れからもそれは続いてもっと酷くなって行く」
「ああ、紗奈の言う通りだ。俺たちがこのエストレーヤの最後の希望なんだ! それなら、出来る奴が出来る事をするだけだっ!!」
翔真が使命感に燃え上がり、総司を見る。
「千羽、お前はクラスメイトとかバカにしていたけど、そう言うモノは積み重ねだろ? この世界でも何も変わらないそう言う情は最初からあるものじゃない。育んでいくモノなんだよっ!!」
どうだと言わんばかりに翔真は詩音に自身に宿った情熱をぶつける。
「…………」
詩音はチョコを一つ口に放り込む。
最早、詩音は翔真を無視する事に決めた。
「…………。はぁ……で、南條。氷鏡たちが先から言ってる力とやらは何時、発揮されるんだ?」
「え……?」
と、先程から無言だった千尋が総司に呼び掛けられ、疑問の声とともに顔を上げる。
「よく考えれば分かることだろう。魔神が自身の脅威と成るまで君たちの成長を悠長に待つと思うかい? 君たちが力を付ける前に始末した方が楽だろう? 世界を滅ぼそうとしている連中がお前たちが力を付けるまで、温和しくしてくれていると本気で考えているのか?」
総司のその言葉に千尋はハッとした様だ。最後に向けたお前たちと言ったのは千尋以外の三人と王たちへ向けてだ。
「もし、此処に居る奴等もそんな甘い考えで居たのなら、人族が滅びかけているのも必然だな」
総司はそう切り捨てる。
「……あげる」
詩音が千尋にチョコを一つ投げ渡す。
「!!」
千尋が慌てて両手で受け取る。
「あ、ありがと」
「ん……」
総司はそんな二人を見て、千尋を気に掛ける。
「そんな中途半端な力で戦場に出陣してどうするつもりだ? 戦を自分達で仕掛けて敗北を喫し、異世界に縋り付く騎士隊の中で戦えるのか? 先から連携だのと言っているが、乱戦になって孤立したらどうする? それに戦は個人の力でするモノじゃない。数で押し切られて、潰される」
人間側で戦える者は少ない。まともに戦えないから異世界から戦える者を拉致するのだから。対して魔軍は戦死した騎士から不死の魔モノを作り出す。または戦中に人間の女性を拐い、苗床にして使い捨ての駒を生ませればいい。
総司はそう説明し――
「勇者の加護を得た者の肚なら、さぞ強力な魔モノがうまれるんだろうな?」
皮肉けに嗤う。
「あ……」
千尋がその事実に思い至り力無く呟く。その顔は真っ青になっている。
総司の言った現実を見ていなかったのだろう、残りの三人が顔を顰める。
「と、言う事で、欺瞞だらけの道化の舞台から降りさせて貰おうか。俺と詩音は此処から出ていかせて貰う」
「え!?」
と小さく千尋が驚く。
総司が詩音の手を取り、詩音が千尋の手を取り謁見の間を出ようとするが――
宰相ウルスヴェインが声を張り上げる。
「その者達を逃してはならないっ!! 捕らえよ!!」
ウルスヴェインの命に一斉に近衛騎士が動き出す。
「「「千尋っ!!」」」
「ウルスヴェインッ! 今すぐに止めさせなさいっ!!」
「何をなさっておいでかっ!!」
翔真、セフィーリアたちが悲鳴を上げる。
(くっ、詩音……。俺が強引にでもあんな奴から引き剥がして救いだしてれば……。くそっ)
翔真は忌々しげに内心で臍を噛む。
その間にも近衛騎士が総司に槍を突き出していた。
「遅いっ!」
総司は片手で木刀を素早く突き出された槍に巻き付けるように振るう。
――千羽天剣流 飃――
ギィィィィンン………………。
大きな音が天井から響き渡り、騎士が自身の手から消え失せた槍に驚き――
誰もが度胆を抜かれ、天井を見上げると、其処には槍が突き刺さっていた。
「ッ!? は? へ?」
近衛騎士は何が起きたか解らず自身の手と天井に突き刺さる槍を見る。そしてまた見るを繰り返す。
その隙を総司が逃すはずもなく。
「セイッ!!」
「がっ、あ゛、ぐがっ」
近衛騎士の苦鳴が三度続き、意識を闇の中に沈めた。
意識を狩り堕とされた近衛騎士は左袈裟斬り、刃を右上へ跳ね上げる逆袈裟斬り、首への薙ぎはらい――
そして、詩音を捕らえ様としている騎士、に向かい身体を旋回させ一文字斬り、右逆袈裟斬り、体勢のぶれた騎士に唐竹割り、逆三角と、正三角を描く技。
――千羽天剣流 籠目――
迫る騎士に対し総司は螺旋を描く様に移動し攻撃をする籠目の派生技。
――千羽天剣流 龍巣――
詩音と千尋は龍の巣の中心で護られる。
「総司……」
「千羽君……」
二人の少女が足手まといに成っている自分達に悔しさを見せ、自分達を背に庇い剣を振るい続けている総司の名前を呟く。
斃されていく騎士たちに二の足を踏み、互いに膠着状態になる。
不意に総司に教室で聞こえた玲瓏な声が聞こえた。
『……その場から逃げたいなら、わたしが力を貸してあげるわ』
『逃げられるなら力を貸してくれっ!』
総司が詩音をきつく抱き寄せ――
『ふふ……。いいわ、救ってあげる』
――その瞬間。
「あっ!?」
「っ!!」
詩音と千尋の小さな悲鳴。
総司が鋭い視線でその元凶を剣気で射抜く。
「ってぇ……。へへっ、千尋は取り返したぜ!!」
その元凶である一誠が千尋を掻っ攫い押し倒していた。
目映い光の渦の中風が吹き荒れ、紫の稲妻がバチバチバチっと走り、壁や床や天井に当たり、周りのモノ全てを破壊又は打ち据え、宮廷魔導師の魔法障壁は意味を成さずに阿鼻叫喚となる。
「ちっ、馬鹿がっ!」
「千尋っ!!」
悲痛な顔で詩音が千尋に手を伸ばし、「詩音さんっ!」と千尋が詩音の名前を呼び手を伸ばす。
だが、その手は一誠に邪魔をされ届く事は無く、悔しさを滲ませた総司と詩音の姿は光に包まれ、そのまま姿を消した。
そこにもう一つ。
『……この国との契約も潮時か』
成り行きを、観察していた存在が魔導大国から立ち去り、この日、二つの加護が魔導大国アークディーネから消失した。




