第78話.ウォータースライダー
太陽の光が痛いほどに照りつけてくる中、俺達の周りには冷たい水の障壁が張られる。言ってしまえば障壁という名のただのプールなのだけれど。
つい先程まで凛の抱きつき精神攻撃を受けていた俺は、それから何とか逃れると華山達の元へと避難する。しかし、そこでは現の、言葉のストレートパンチをくらって、華山の労いヒーリングを受けるというよく分からない自体が起きる。
「もうやだ……」
「刻兄何言ってんの?今日はまだまだこれからだよ?」
プールにだんだんと沈んでいく俺の頭を、つんつんとつつきながら現はそう言った。
(確かに今日はまだまだこれからだけどさ、始まって早々あの精神攻撃はダメだって。顔は赤くなるし動こうにも大きくは動けないし、周りからの視線はグサグサ刺さるし、なかなかきついのよ?)
そう思いながらひたすらプールの流れに身を任せた。
「あれ?刻どこに行ったの?」
沈みながら流れていると、少し離れたところでそう言う声が聞こえる。首だけで少し振り返って、その声のする方を見る。
「鏡坂くんならさっき向こうの方に流れていきましたよ?」
見てみると話しているのは華山と空宮だ。
「そっか。分かった、多分そこまで離れていないだろうし……」
空宮がそう言ったタイミングで、俺とこちらを向いた空宮の目が合った。
「あ、刻みっけ」
そう言うとプールの流れを利用しながら、俺の方にどんどんと近付いてくる。
「刻〜」
「何だ?」
「ここってウォータースライダーがあるんだしさ、一緒に行こうよ!」
「えぇ……めちゃくちゃ人並んでるじゃん」
そう言うと空宮はプクッと頬を膨らませた。
(何でそんな顔をしていらっしゃるんですかね?もしかして俺言っちゃダメなこと言っちゃった感じ?禁句を口にしちゃった?)
内心少し焦りながら空宮が話すのを待つ。
「あのさぁ、それを含めてのウォータースライダーじゃん!ここでしっかり楽しんどかないと、後々後悔するよ?夏休みもあと少しだしさ」
「いや、それでもな、並んだ時間に対してあれで遊べる時間て、そこまで長くないだろ」
話題に挙がっているそのウォータースライダーの方を見ながらそう言った。
(だって本当に滅茶苦茶並んでるんだよ?あれ、平気で50人くらい並んでるんじゃないのか?)
並んでいる人の数に少し驚きを覚えながら、また空宮の方を向き直る。
「でもさでもさ、それでも楽しそうだよ?」
空宮は俺の意見が決して間違ってはいないということを認識しながらも、それでも俺に行こうと熱心に誘ってくる。
「分かった、行くから」
そう言うと空宮は顔を一気に明るくした。
「やったー!」
✲✲✲
俺と空宮はウォータースライダーに乗るために、ウォータースライダー専用の列に並ぶ。並ぶ場所にの上にはずっと立っているため、日焼けなどをしないようにするために、大きめのテントが張られていた。
俺達は最後尾の所に立つとそこから喋り始める。
「夏休み終わっちゃうね」
「だな」
「課題全部終わらせた?」
「そりゃもちろん」
「じゃあ手伝って〜」
「いやだ」
「ぶー、ケチ」
そんな会話をしながら列が進むのを待つ。実際並んでみると列の進みは想像よりも早くて、気が付けばあと数組というところにまで迫っていた。
「ね?並んでも特に損はなかったでしょ?」
空宮はフフんと控え目な胸を反らせながら、俺にそう言ってきた。
「そうだな」
「今回は私が正しかったのでーす!」
「今回"は"な?」
そう言うと空宮は頬を少し赤くしながら反論してきた。
「別に"は"を強調しなくてもいいじゃん!確かにそうだけど」
「だろ?」
「うぅ……反論が出来なくなるよ」
俺達が馬鹿みたいなやり取りをしていると、気付けば先頭にいた。
「おし、じゃあ行くか」
俺はそう言うと貸出されている二人乗りの大きい浮き輪を持ち、長い螺旋状の階段の最上階をめざした。
「高いね」
「そうだな」
空宮は登りながらそう言う。
(確かに高い。平気で15メートル位ある。という事はここが駆逐するって十歳の子供が言う、あのアニメに出てくる巨人と同じ目線か!)
俺は一人そんな事を考えながら、空宮の歩調に合わせて階段を登って行った。
「よーし、ゴール!」
空宮はそう言いながらシュタッと着地する。
(手に持つ浮き輪が空宮の動きに合わせて荒ぶってるんですけど!?もう少し静かに動いてね?)
「あ、2つあるんだね」
俺は空宮のそのセリフを聞いて初めて2レーンある事を認識した。
「ほんとだな。どっち行きたい?」
そう聞くと空宮はうむと腕を組み真剣に考え始めた。
「どちらも捨て難いね。片方しか乗れないわけだし」
空宮はそう言うと最後の手段と言わんばかりに、「どちらにしようかな〜」と指をさしてそう言うと言いながら、決め始める。
もうほぼ運任せ。スタッフの人も少し困り顔だしさ。
俺はスタッフの人にすみませんと頭を下げて空宮が選び終えるのを待った。
「よしっ決まった!」
「どっちにしたんだ?」
「こっち」
空宮はそう言うと右側にある方を指さした。
「ではこちらにお座り下さい」
スタッフの人が俺たちの持ってきた浮き輪を受け取ると、スライダーに置いてそう指示してくれる。
「後ろの人が前の人を太ももで挟む感じでお願いします」
そしてスタッフの人のその指示を聞くと俺達の思考は一時停止した。
挟む?太ももで?
「ど、どうしよっか?」
空宮は顔を赤くしながら俺にそう聞いてきた。
(どうしようかと聞かれましてもね……)
「じゃあ、俺が後ろ行くわ」
俺はそう言う。
(多分こちらの方が安全!空宮の太ももに挟まれるのって多分俺得だけれども、世間的にね?というか周りの目がね?痛いからさ)
俺は自身の中で適当に理由をつけると座り始めた。
「よいしょっと、これでいいのかな?」
空宮はそう言いながら俺の前に座る。
何だか変な感じだな。
「では、スタートしますね」
「はーい」
スタッフの人のその声に空宮は元気よく返事をすると、浮き輪が押される。
「動き始めたね」
「そうだな。意外とゆっくり」
「だね〜」
俺達がそんなふうに笑いながら話しているのも束の間、すぐに笑い声が絶叫に変わったことは言うまでもない。
第78話終わりましたね。ウォータースライダーバビューン!と、一気に加速するあの感じたまりませんね。また乗りたい。
さてと、次回は26日です。お楽しみに!
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