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第75話.意外な過去

 駅に着いたモノレールに乗り込み、マリンパーク駅を目指す。目的の駅は俺たちが乗り込んだこの六甲ライナーの駅の中で一番遠い位置にあるので、しばらくの間はゆっくり座ることが出来た。


「あー、荷物重」


 そう言いながら肩にかけていたカバンを隣の席に下ろす。

 こんな夏休み真っ只中という日に、電車とかで荷物を置くためだけに座席を一つ使うのはどうなのか、と思う人もいるかもしれないがそこはご安心。この号車に乗っている人は比較的少なく、俺達以外にも数人程度なので全然席に余裕があるのだ!いやまあ、途中の駅で人が沢山乗ってきたらそりゃのけますけども。

 1人会話を成立させると、「ふぅ」と息を吐きながら窓の外を見た。

 普段はあまり見ることのない角度からの景色は少し新鮮で、少しだけわくわくする。


「何を見られているんですか?」

「ん?」


 後ろからかけられた声の方向を向く。どうやら声をかけてきたのは華山のようだ。


「外の景色を見てただけだぞ」


 そう言うと華山は少し驚いたような顔をする。

 何か驚く要素があっただろうかとそう思っていると華山が喋り始めた。


「そうだったんですか。てっきり飛行機とかを見ているものなのかと思ってました」

「何でそう思ったんだ?」


 そう言うと華山は少し考えるような姿勢になる。


「多分、鏡坂くんが凄く集中して外を見ていたような気がしたからだと思います」

「そんなに集中してた?」

「はい。私にはそう見えましたけど」

「あぁ、そう?」


(正直に言うとかなりぼーっとしてたんだけど。意外と第三者の目からはそうは見えないものなのか?)


 そう思いながらも特に気にせずに華山との会話を続けた。


「そういえば華山は泳げるのか?」

「い、一応は……。あんまり自信はないですけど」

「そっかー。俺も泳ぎ自体はあんまり得意じゃないなー」


 こんな感じで話していると、急に隣から(うつみ)に頭をべしっと叩かれる。


「え!?痛いんですけど、どうしたの突然」


 単純に驚いて(うつみ)にそう聞く。後ろを見てみると華山もかなり驚いていた。


「あのねぇ、刻兄さ今有理さんにあんま泳ぎ得意じゃないって言ったよね?」

「言ったけど?それが何かいけなかったか?」


 華山はキョトンとした顔のまま、そして、俺は(うつみ)が言わんとしていることを理解できないままそう聞く。


「あのさ、刻兄から泳ぎが得意じゃないっていう言葉が出たらダメなんだよ」


 (うつみ)がそう言うと華山は先程よりも一層困惑したような顔になる。


(うつみ)さん、それはどういう事なんですか?」

「簡単なことですよ。刻兄って中学時代に部活でやってた水泳で全国大会出てるんです」

「えっ!?そうなんですか!」


 華山に関しては当然驚いている。

 当たり前か。この事を知ってるのは俺と(うつみ)と、あとは空宮くらいだし。

 ちなみに凛はイギリスにいたのでこの事は知らない。


(にしても(うつみ)の野郎、俺が言うつもりのなかったことをペラペラと喋りやがって)


 俺は内心で少し(うつみ)を恨む。

 しかし、それでも一度始まった話はなかなか終わらない。


「どうして辞めちゃったんですか!」


 華山はかなり食い気味で俺に聞いてくる。


(えー、そんなに気になるかな?気になるよね。はい)


「辞めた理由は簡単だよ。PhotoClubに入部する時の条件的な感じで一回聞いただろ。個人で自由に活動していいのかって」

「確かに聞きましたけど。それが辞めた理由と関係あるんですか?」


 華山は「どういう事?」というオーラを拭いされないまま、俺にそう問うてきた。


「関係は大ありなんだよねぇ。これが」


 そう言うとコホンと少しわざとらしく咳を一つし、今からその驚愕の理由を話しますよと、主張する。


「理由は簡単。俺の入ってた水泳部がな、全然自由に活動させてくれなくてだな、朝練はダメだの、個人練は万が一足とかをつって溺れたら危険だからダメだので、全然練習しやすい環境じゃなかったんだよ」


 一通りの過去を話すと華山は少しぽかんとした顔をする。そして、(うつみ)は俺の話が終わると同時に話し始めた。


「刻兄、今こんなこと言ってくれちゃいましたけどね?でもうちの中学、結構設備整ってたんですよ?ただ、刻兄がそんな設備よりも泳がせてくれーって言うから、むしろ学校側が頭を抱えてたって感じで。というか、学校の設備がどんどん整っていったのって、刻兄を止めるためだったんですけどね」


 隣からは心にグサグサと刺さる(うつみ)の言葉のナイフが、音速で飛んでくる。


「そういう事だったんですか」

「うん、まぁ少し誇張されたような、されてないような気もするけど、そんな感じ」


 そう言うと華山は少し思い出すような素振りを見せた。


「多分なんですけど、うちの高校朝練も自主練も個人でしてよかったと思いますよ?」


 そして、華山はそう言う。


「あぁ、それは一応知ってる」

「知ってたんですか。ならどうして?」


 どうして?の意味は大方どうして水泳部に入らなかったのか、というところだろう。

 そう予想し、それに対応する答えを出す。


「これも理由はわりと簡単だ。ただ、単純に俺が他の選手に合わせるのが嫌だっただけだよ」

「そうなんですか?」

「うん。それに水泳を続けるつもりだったなら、俺に来てた推薦の高校行くしな。受験勉強も要らなかったわけだし」


 そう言うと華山は一瞬呆気に取られたようにも見えたが、すぐに元の表情に戻り「ふふっ」と笑う。


「そう言われれば、鏡坂くんらしいですね」

「そうか?」

「はい。鏡坂くんっぽいです」


 二回目ははっきりと言われる。

 まぁ、この華山がそう俺を評価してるんだし、多分そうなのだろう。

 自身の中で一つ整理をつけると、もう一度窓の外を見た。

 モノレールは既に海の上を走っていて、日光の反射が凄い。先程までとはまるで違う別世界のそこは、俺達が今から行くその場所へと繋がっている。


第75話終わりましたね。しかし今回は、刻が実はスポーツマンだったという過去が明かされたお話でしたね。しかも辞めた理由が怪我とかではなく、全然個人練をさせてくれないのと、人に合わせるのが嫌だという、なかなか刻らしい理由でしたね。

さてと次回は20日です。お楽しみに!

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