第696話.僕をもらってください
「それで、急にどうして帰ってきたの?」
口に付いたクリームを拭き取りながら僕は単刀直入にそう尋ねる。大地くんは特に動揺した様子も見せずコホンと1つ咳き込んでから話し始めた。
「実は凛さんに大切な事を伝えなきゃいけなくて、それで急遽戻ってきた」
「僕に伝えなきゃいけないこと?」
「そう。電話じゃなくて直接伝えないといけないこと」
真剣な面持ちでそう話す大地くん。僕はそれ相応の覚悟を決めて大地くんのことを見た。
「まぁ、こうやって改まるのもなんだか恥ずかしいけどね」
「うん、それは僕も一緒」
笑いながら大地くんは僕のことを見た。
「これ、受け取ってくれませんか?」
そう言って渡されたのは小さな箱。
シルクを触るような手触りが物の質の高さを表すようだ。
僕は恐る恐る箱を開ける。ゆっくりと開けるとクッションに挟まれたリングが姿を見せた。きらりと光るものを携えている。
「これって……」
「結婚指輪。……ずっと待たせてしまってごめん。凛さん、俺と結婚してくれませんか?」
ジャズの流れるカフェの店内にその言葉が響く。辺りにお客さんはいない。店主も店の奥にいて、今この場にいるのが僕達だけのような感覚に陥る。
待ちに待った、ずっと待っていた言葉だ。
なぜだか自然と視界がぼやけてくる。
ポロポロ落ちる涙を手の甲で拭いながら僕は笑う。
「ごめんね、泣くつもりはなかったんだけど……嬉しくってさ。すぅー……ふぅ」
大きく息を吸ってから僕は大地くんの事を正面から捉える。ちゃんとこの気持ちが伝わるように。
「不甲斐ない僕だけど、それでも良かったら僕の事をお嫁さんにしてください」
第696話終わりましたね。凛と上木が結婚するようです。新婚生活や子育てなどは先輩夫婦の鏡坂家に色々と聞くことになりそうですね。
さてと次回は、9日です。お楽しみに!
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