第686話.双子だってさ
今でも結婚式のあの日の事を思い出す事がある。
華々しくて、祝福に満ちたあの空気感。間違いなくあの時の私達は世界で一番の幸せ者だった。
もちろん今でも幸せだ。
幸せなのだが、お互いに日々奮闘しているという事実だけは拭えない。
双方の仕事柄かなりの激務と責任が伴う。ゆえに結婚以前も何とかして時間を取っていたが、以降はそれ以上に時間を取るのが難しくなりつつあった。
お互い疲れて疲れてヘトヘトになってソファで潰れるなんて事も案外ざらにある。
さて、そんな忙しさマックスの新米夫婦にも当然結婚記念日があるわけだ。むしろ最初の方こそこういう記念日を大切にしていかないといけない。
来る当日。私達は特段おめかしをするでもなく、外出するでもなく普段通り家にいた。私達の記念日は家の中のいつも通りの生活の中でお互いに感謝を伝える、そんな感じの日にしている。
今日はいつもよりもソワソワとしながら準備をしていた。今年はいい感じに休日と重なってくれたので双方共にゆっくりと昼は過ごせた。おかげで体力は回復、元気に準備している。
私は準備の楽しさでソワソワする感情と、もう1つ別の理由でソワソワとしていた。
今日はその理由を刻に打ち明ける日。
完全なサプライズだ。
記念日は夕食とその後寝るまでが記念日で中心になる出来事として置いている。ご飯を食べるのも、食器を片付けるのも、普段は忙しくて中々できない混浴だってしたりする。
その全てが終わってあとは寝るまでの語らいの時間だ。ソファに座って、寝る前なので紅茶を飲みながらほっと一息つく。
「今日もありがとうね」
「ん、こちらこそ。いつも助かってます」
「お互いに助け合えてます」
日頃の感謝を述べながら私達はゆっくり流れる時間に身を任す。明日も休みだ。今日は例年以上にゆっくり過ごせそう。
と、思うのも束の間の話。
私は1人刻にあのことを伝える準備を始めた。
とは言っても大がかりなものでは無い。用意するのは私の伝えるための決意だけ。
「ねぇ、ちょっといいかな」
「ん、どうかしたか?」
「私、ちゃんと刻には伝えないといけないことがあって。今からその話してもいい?」
「いいけど……重い話?」
私の表情が強ばっていたのだろう。刻は私の頬に手を伸ばしながら解してくれる。その解しが私の心も一緒に解してくれた。
ふへへ、と笑いながら私は温かくなった心で、きっとこの人なら大丈夫という気持ちで話し出す。
「単刀直入に言うね?」
「うん」
「私達、パパとママになったみたい」
「うん……え、うん!?パパ!?ママ!?」
「うん!」
「え、え、え、え……子供出来たの!?」
あからさまに驚いた表情をする刻。それと同時に段々と涙を浮かべ始めていた。
感情の急な緩急のせいか震える手を私の肩に置いてからゆっくりと抱きしめられる。そしてゆっくり擦りながら少しくぐもった鼻声で刻が、ありがと……、と呟く。
「あー、もう。涙でぐしゃぐしゃじゃない」
私は笑いながら刻の顔をつたう涙を指で拭ってやる。
「し、しょうがないだろ……夢にまで見たパパになれるんだから……嬉しいに決まってる」
「んふふ、私も嬉しーよ。私もママになるんだから」
お互いに少し照れくさくなる。
幼馴染、幼少期の頃から知っている相手と結婚し、ついにはパパママという親の立場になるわけだ。照れくさくないはずがないだろう。
私達は先程よりもさらに近くに座る。
お互いの体温が腕で感じられるほどに近付いてから私はもう1つ伝えていない情報を刻に伝えた。
「子供は双子だってさ」
第686話終わりましたね。子供が出来たみたいです。めでたい話ですね。ちなみにですが作者この展開自体はだいぶ前から完成していました。だいたい200話付近辺からはほぼほぼ完成形だったのではないでしょうか。ついに書けたことを喜びつつ、もうすぐ終わるんだという寂しさも同士に感じますね。
さてと次回は、19日です。お楽しみに!
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