第685話.バージンロード
随分と久しぶりにここを訪れた。
あの時はまだ制服を着ていた頃だから随分と懐かしい。
季節もあの頃と一緒。
桜が咲く春の季節。
道中にある桜並木が私達を歓迎してくれているようで嬉しかった。
そういえば羽挟先生のところのお子さんは今年で8歳になるらしい。同窓会で久しぶりに会った時に写真を見せてもらった。随分と活発な子だそうで羽挟先生の学生時代のように今は地元の陸上クラブで頑張っているらしい。
羽挟先生も変わりなく元気そうだった。むしろ歳を重ねたせいかさらに大人の余裕というか、頼もしさというのが倍増していた。
みんなが色んな変化をする。
凛も今は元から堪能だった英語を抜群に活かせるCAとしてバリバリと活躍しているようだ。そしてユウは美人カメラマンとして名を馳せている。モデルの撮影から風景。動物の写真など、撮るものの対象は幅広い。
他にもバレー2人組。灯崎くんと上木くんは共に海外リーグで戦っている。世界大会の際は日本の代表として招集されるほどに成長したようで、テレビ中継の映像の中にはお客さんが2人の名前の書いたうちわを持って熱心に応援するところもよく見られるようになった。
みんなの躍進的な活躍を見守りながら私達もちゃんと前に進んでいる。
私は幼稚園の先生として。刻は大手出版社の編集として。
毎日忙しくて楽な仕事では無い。私は命を預かるし、刻はそもそもの仕事量が膨大だ。家に仕事を持ち帰る事も少なくない。けど、ちゃんと頑張れてる。
お互いに支え合いながらこうして何年も過ごしてきて、そうしてついに次のステップに進むのだ。
衣装は2人で選んだ。
場所は私の憧れた場所で。
流す曲も2人で聴きながら選んで。
そうして私は隣に立つ少し緊張した面持ちのお父さんと一緒に閉じられた扉を見つめる。
「緊張してる?」
「そ、そりゃね。愛娘が随分と綺麗になったから、間違っても失敗できないと思うと余計に」
「そんな難しい事しないよ。一緒に歩くだけ」
「その歩く道が父親にとっては試練の道なんだよ」
既に赤くなりつつある目を決して私に見せまいと顔を背ける。私はクスリと笑いながら、そっか、と言うとお父さんの腕を取った。
「ここまで育ててきてくれて、ありがと」
そう言うとお父さんは何かを言いかける。けれどその前に扉が開き口を噤んだ。
赤いバージンロード。白い壁が透き通るように綺麗で、窓からは晴れた蒼い空が見える。
来賓席には見知った顔が沢山並んでいた。レース越しだと少し見にくいが、それでもみんなの顔はちゃんと分かる。
一歩ずつ前に進む。
これまでの人生を色々と振り返りながら、その先にあるこれまでの倍以上の人生を思い描いて。
一番前に辿り着くと私の手はお父さんから刻に渡される。3人の手が重なる時、お父さんは私の名前を呼んだ。
「蒼、僕と涼さんのところに生まれてきてくれて、ありがとう。そして刻くん、あとは頼んだよ」
そう言うとお父さんの手が離れた。
最後の数歩を見守るように後ろをから見守ってくれている。
私達は前を向き直る。
段差を登り神父様の前に立つ。
あとは神父様の言う通りに展開を進めていくだけだ。
緊張して何をしたのか覚えてないところもあるけど、そこはまた式が終わったらお母さん達に聞こう。
顔を隠すようにかかったベールを刻が剥がしてくれる。
開けた視界。
神父様の誓いのキスの言葉を聞き届けると、私達は静かに印を結ぶようにキスをした。
第685話終わりましたね。結婚式ですねぇ。作者は結婚式に参加したことは特に無いのですが、可能性があるとしたらいとこの式ですかねぇ。作者よりも随分と大人ですから。
さてと次回は、17日です。お楽しみに!
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