第679話.入学式の終わり
家で晩ご飯の準備を始めていると刻が帰宅した。風にでも煽られたのかせっかくセットした髪の毛が少し乱れている。
「おかえり〜」
「ん、ただいま」
リクルートバッグとたくさんの書類が入った袋を手に疲れた表情の刻。忙しかったのかなと思いながら、私は新妻のように荷物を受け取った。
「どうだった?」
「んー……早速留年しそうって思って憂鬱って感じだな」
「そりゃまたいきなりだね」
「うん。何せ単位の仕組みがちょくちょく難しくてなぁ、何かの操作ミスで落単なんてした日には多分泣いて部屋に篭もる」
「単位ねぇ」
確かに高校までは単位なんて制度はなく、学校側から提示された授業で一部選択式というものだった。だからこそ全ての授業を選択し受ける大学のシステムというのは卒業する際も最悪足を引っ張るシステムに他ならない。もちろん計画的に、ちゃんと確認をしながら受けていれば問題ない。けれど思わぬ所で刻の言う操作ミスがあればそれはかなり深刻だろう。加えて落単が発覚すれば1、2回生のうちはまだいいが、後半になるにつれ就活と相まって地獄と化すこと間違いなしだ。おそらくその深刻さ、重要さについて初っ端から聞いてしまったせいでこの表情なのだ。
私は刻の背中を軽く叩いてひとまず今は単位の事は考えないようにとだけ伝えた。
まだ授業の選択すらしていない初期段階なのだ。その段階から悩んでうじうじしていたって仕方がない。むしろサークルとかそっちの楽しげなことにもっと興味を持つ方が建設的だと私は思うのだ。大学は自由なのだ。
周知の事実ゆえに皆が忘れがちなのがこの自由さ。法に触れなければ基本は何をしていたっていい。バイトをする必要性は別に無いし、授業以外は寝ていたっていい。落単しないのなら一回くらいは授業を休んだって問題ない。それくらい大学というのは自由なのだ。
「今日はオムライスだから楽しみにしてて」
そう言って私は刻を先にお風呂に送った。肉体的な疲労もだが、精神的な疲労もお風呂に入ればだいたい治る。きっと上がってくる頃には元気ハツラツないつもの姿に戻っているだろう。その間に私は明日を過ごす活力になるご飯を用意するのだ。
今回は旅路さんの特製ソースを参考にさせてもらうんだぜ!
第679話終わりましたね。作者が大学入ってすぐに思ったのが刻と同じ落単するかもしれねぇというこの感情です。というか、授業選択の時期は毎回そう思ってるんですけどね。けど案外何とかなります。
さてと次回は5日です。お楽しみに!
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