第670話.入学式
スーツ姿で電車に乗り込む。
普段とは違う服装のせいか、何だか慣れない。卒業式が終わればまたしばらくスーツを着る機会は遠のくが、早めに慣れておきたいものだ。
近くには私のようにスーツを着た学生がいる。おそらく私と同じく大学の入学式だろう。シーズンだからおそらく合っている。
入学式にはお母さんが来ることになっている。集合は現地でだ。お父さんも行きたがっていたらしいが、仕事の都合で来れないらしい。まぁ、中学や高校の入学式とは違うのだから、両親共々が来るのは卒業式だけで十分だろう。
大学近くの駅に着く。近くには私の通う予定の大学の他に幾つか学校がある。なので電車を降りたすぐのプラットフォームと改札前は非常に混雑していた。
どこもかしこも入学式か。これは帰りも大変そう。
ほんの少し憂鬱になりながら私はお母さんの待つ大学に向かう。
近くにいる人も進行方向的に私と同じ学校に入学したのだろう。既に友達同士で来ている人も幾つか見つかり、なぜ既に友人関係が構成されているのだと疑問に思わざるを得なかった。けれど、1人で歩いている人を見ると少しだけ安心する。私だけじゃなかったってね。
大学の門を抜けたところでバッチリおめかしを決めてきたお母さんを見つけた。
「あ、お母……さん」
手を振って近付こうとしたが思わず言葉を続けることが出来なかった。
「ねぇ、きみ新入生?」
「可愛いね。連絡先交換しようよ」
まさかのナンパを受けていた。
え、その人今年大学生になる子持ちの母親ですけど?もうすぐ40になる人ですけど!?見た目は確かに若いけど!
愕然としながら私は恐る恐る近付いていく。
「あのぉ……」
声を掛けるとナンパをしていた男子学生がこちらを振り向いた。
うっ……似合わないタイプの金髪だ。
怖さよりも金髪のあまりの似合わなさに驚きを隠せずにいると男子学生が話し出す。
「あれ、邪魔が入ったのかと思ったけど、きみも可愛いじゃん。どう、連絡先交換しよーよ」
「え、あぁいやそれは大丈夫です……あとそこの人私のお母さんなので返してもらっても」
そろそろ式の時間が近づいていたので私は単刀直入にそう伝えた。すると彼らはさすがに驚いた顔をする。
「え、お母さん?い、いやいやさすがに冗談キツイって。きみと年齢変わんなそうな見た目じゃん」
「見た目が似てるのは親子だからですけど、年齢が近いように見えるのはシンプルに若く見えるだけですね」
「えぇ……まだ信じられないんだけど」
「年齢も約40ですよ?」
「こーら、蒼?私はまだギリギリ40代じゃありません!」
「あんま変わんないってお母さん」
ザ・親子のやり取りを見せる。すると私の言葉の信憑性が増したのだろう。男子学生達は頭を掻きながら「ま、まぁ今回はいいか」と言ってその場を去っていった。うん、面倒くさいことにならなくてよかった。
「さ、お母さん式始まっちゃうから行こ」
「ん、そうね。お母さん張り切っちゃうんだから!」
第670話終わりましたね。蒼の母親である涼さんは本当に若い見た目をしております。イメージを女優さんで例えると40目前でガッキーの見た目を維持してるものだと思ってください。
さてと次回は、18日です。お楽しみに!
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