第662話.見える子見えない子
猫は時折何も無い部屋の隅を見つめたりすることがある。そういう話は聞いたことがないだろうか。
飼い猫がじっと見ているから何かあると思ってもいざ視線をそちらにやったらただの角なんてことはよくある話なのだ。しかし猫には見えて人には見えないものだって沢山あるかもしれない。猫には感じる何かがあるのかもしれない。
その無限の問いに答えはおそらくこの先も見つかることは無いが、問いを問いのまま置いておくことが出来るのもまた人の良いところだろう。全てを知らなくたってこの世界を終わらせることは出来る。
とまぁ、かくしてそんな意味不明な話はさておきだ、猫が実際に変な方向を向くことはあるのだ。事実今のましろがそうだ。ただ1つ難解な点があるとするのなら、ましろは一方向を見ているわけではないということ。正確には目が泳ぐとか落ち着きがないとかそういうものではなく、何かを明確に捉えてそれを目で追っているようなのだ。
定期的に私もましろの向く方を見ては見る。しかし、何度見てもそこは白の壁しかない。
虫ならばすぐに見つかるだろうし、お化けはいないし。……いるとか言った人は後で職員室に来なさい。お化けはいないんだから。
まぁともかく、私の目では何も分からない。
なんだか少し薄気味悪い空気を、こんな清々しく晴れた朝の時間帯から感じるのは嫌だ。
私はましろをテーブルの上に一度座らせると窓を網戸を使いつつ開けた。朝の程よい涼しさの風が部屋に流れ込む。ほんの少し香る排気ガスの匂いとそれを上回る風の匂い。淀んだ空気が一気に換気で入れ替わる。
「すぅー……ぷはぁー」
胸いっぱいの深呼吸をしてからましろの事を抱き抱えて一緒にベランダに出る。この家に来てから外はあまり見ていなかったためだろう。走る車や微かに見える海を見ては目をキラキラと輝かせていた。この子にとっては全てが未知の世界なのだ。
頭を撫でやりながら世界は広いよね、なんて話をする。日本が世界地図で見た時ちっぽけなのに、ここはそんな日本のさらに一部に過ぎないというのだ。そうなると世界は本当に広いと感じる。
まったりとしたましろとの時間を過ごしていると寝室の方から足音がした。芸術的な爆発の仕方をした寝癖を携えた刻の姿がそこにある。
「おはよ」
「んん……おはよぉう」
まだまだ寝ぼけている真っ只中なのか、言葉はふにゃふにゃでとても頼りのなさそうな雰囲気だ。けれどそんなところがまた可愛らしいと思えて仕方がない。
んにゃ、とましろはほんの少し呆れた様子で鳴く。子猫に呆れられてますよーと寝癖を直しに洗面所に向かった刻の背中に語りかけるようにして顔を向けた。もちろん実際には言葉を発してはいないので悪しからず。
第662話終わりましたね。作者はゴールデンウィークとやらにバイトがたっぷり詰まっていて発狂しそうなのですが、今から入れる保険はありますかと尋ねてみたいものです。遊ばせてくれよ。
さてと次回は、2日です。お楽しみに!
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