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第658話.刻を待つ

 刻が家に帰ってきた頃、ましろは家を駆け回っていた。子猫とは思えぬほどの体力と俊敏さで駆け抜け、またF1のようにヘアピンカーブも綺麗に曲がってみせる。

 子猫の体にあの速度と切り返しは相当な負担がかかってそうなので出来ることなら止めさせたいのだが、けれどそれはそれで体力がありあまって夜中に走り回ってしまう。そういうことが起きないために猫用の車輪があるのだろうが、何せあれはそこそこいい値段をしている。餌代がかかり始めたのもあってすぐには買ってあげれそうにない。


「たでーま」

「おかえり……って何でびしょ濡れ!?」

「んぇ?あぁ、これな」


 私の視界に映った刻は上半身ずぶ濡れの姿。紺色の服が濡れて真っ黒になっている。


「バイト終わりにスタッフルームから出ようとしたら彩芽さんに水道が固すぎてあかねぇって言われてな。思い切り開けたら蛇口がすっぽ抜けてこの有様ってことさ」

「ありゃりゃ、そら大変だったね」

「うん。どうせ帰るところだったから水気とることなく帰宅して、今ってわけだ。さすがにちょっと寒いけどな」


 そう言いながら確かに刻は身震いする。


「お風呂沸かしてあるから入っといで。ちゃんと湯船に肩まで浸かるんだよ?」

「うん、あんがと」


 刻は濡れた服を重そうに着ながら一旦寝室に着替えを取りに行く。そして準備し終えた刻が風呂場の方に向かい始めると、寝室にいたましろもなぜかトタトタと更新するように後を付いて行った。どうやら刻は気がついていないらしい。

 脱衣所の扉が締められる。ましろはどうなったのかなと思って見てみるとどうやらギリギリ入れなかったらしく、扉の上部にある窓から漏れ出る光を眺めていた。


「ほら、ましろ戻ろ?」

「みゃん」


 いつも通り素直に着いてくるのかと思ったが、ましろは変わらず座ったまま。


「刻の事心配なの?」

「みゃーお」


 別に〜?といった感じの返事。ツンデレのようなその様子があまりにも人間らしくて笑ってしまいそうだ。


「じゃあ一緒に待とっか」

「みゃん」


 キッチンからましろ用のお菓子と私の食べるお菓子を脱衣所前に運び、腰を下ろしながらゆっくりと2人で待つ。

 脱衣所前の廊下は電気が付いていないと薄暗く、少し寒い。私は膝の上にましろを乗せて、その体温でぬくまることにした。

 背を撫でやりながら風呂場から聞こえるシャワーの音に耳を澄ませる。今はちょうど体を洗い終わったところかしら。

 なんて事を考えながら、ましろと2人の時間を過ごすのだった。

第658話終わりましたね。作者今はモンスターハンターアイスボーンにてミラボレアスを必死こいてやってるのですが、さすがに強いですね。ソロ討伐達成はなかなか難しそうです。

さてと次回は、24日です。お楽しみに!

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