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第651話.春の風

 随分と遊んでから私達は自宅に戻ることにする。現ちゃんはまだ遊びたそうだったけど、致し方がない事だ。


「じゃあたまに戻ってくるわ」

「連絡は定期的にしてね〜」


 大きく手を振る現ちゃんに手を振り返しながら私達は駅に向かう。

 すっかり日の暮れた街は静かだ。

 月明かりに照らされた桜が白く光って幻想的な景色を作り出しているのを横目に下っていくと、摂津本山駅と書かれた看板が見えてくる。

 人の少ない改札を抜けてプラットフォームに上がった。電光掲示板にはあと5分ほどで電車が来ると表示されている。


「刻が行きしにさ、猫飼いたいって言ってたじゃん」

「うん」

「私なりにね、まぁふわふわっとだけど考えてみたの。それでまぁあの子一匹だけなら今の私達でも飼うのは不可能じゃないのかなって思った」

「うん」

「だからさ、まだ飼うかどうかは決定したわけじゃないけど、一旦その子と会えるか段取り組んでみない?飼う飼わない以前にその子が私達に馴染めなきゃ最初の段階にも立てないからさ」


 そう説明すると刻は納得したように頷く。


「分かった。じゃあ俺の方で色々と段取り組んでくるよ」


 刻は静かにそう言いながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべている。そんな顔を見た私もつられて微笑んでしまった。

 夜はまだ少し冷える春の風。

 プラットフォームを吹き抜ける風に少し身震いしながらお互いの手を取る。

 違っていた体温が段々と近くなりそして溶けて交わり同じになる。境目が無くなったらやっと落ち着ける。



✲✲✲



 あれから数日が経ち刻からの報告があった。

 まず最初に猫ちゃんとは会えることが決まったらしい。ただ今現在保護している人の住居関係の話で大至急でないとこの子をまた別のところに預けなければならないとの事で、私達はすぐにスケジュールを合わせに動くこととなった。


「それでまぁ……奈良に行くことになるとは思わないよねぇ」


 日帰りのつもりだったので簡単な荷物でまとめてきたが、にしても目的地は随分と奥の方だ。


「タクシーが一番楽だけど高いしなぁ」

「かと言って地元の交通機関を使うのは難易度が高すぎる」


 うむむと悩みに悩んだ末最速で向かうのが先決だという判断を下した。

 と言っても全てをタクシーで済ませるわけではない。ざっくりとした大きな移動は電車で済まして、そこからタクシーで移動する魂胆だ。でないとさすがにお財布にダメージが入りすぎてしまう。

 はてさて、無事に辿り着けるといいのだけれども。


第651話終わりましたね。4月7日は桜花賞がありました。作者は3着に入る馬を悩んだ末に予め選んでいた中から1頭だけ、たった1頭だけ切ったのですが、その子が来てしまいました。おかげで極絞り三連単は外しました。泣きそうです。

さてと次回は、10日です。お楽しみに!

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