第644話.最後のありがたーいお話
終わってしまったという感情よりも、あまりの呆気なさに驚く。
そうか、そりゃそうだ。式を全部寝て過ごしたとしても1時間もあれば全ての工程が完了するのだ。そりゃ呆気なくも感じる。
涙を流すとか、寂しくて心がキューっ……と痛くなるとか。そういうのがあると思っていたけど、案外そういうのは無かったようだ。
でも、随分と晴れ晴れしたような気持ちではある。そりゃ時間経過後に寂しさが襲ってきたりすることはあるかもしれない。だが、今は全てをやり終えたという感情の方が大きく勝っている。
教室に戻って私達はなんとなく寂しそうな空気の流れる中、友達と話しながら羽挟先生を待つ。おそらく今は体育館で学年主任の話を聞いているか、この後の予定の確認でもしているのだろう。
暇と言えば暇だが、いつまでも続いて欲しいこの何でもない時間に感謝する。
しばらくすると式の間ずっと付き添っていた養護教諭の東先生と一緒に教室に戻ってきた。
「よーし、席に着けー」
いつもは聞くだけで空気がピリッとする声も今日はなんだか優しい。
「えーと、まずは卒業おめでとう。お前達は私が初めて卒業するまで担任を持たせてもらった学年だ。その分他の時よりも思い入れはある。楽しかった時もしんどかった時も、今はクラスが違うが灯崎のコントロールをどうしようかと迷った時も色々ある。けれど、だからこそ、こうやって全員揃ってこの場にまた集まれたことが何よりも嬉しい」
普段はクールな羽挟先生だからこそ、この言葉には少し泣かされてしまいそう。
「まぁ、君たちは今後も人生は長い。旧知の中と酒を飲み交わす日だっていつか来るだろう。大学の4年間も存分に楽しみたまえ。その上でだ、この若いうちの時間、君たちは後悔のないように過ごしたまえ。何となく感じている者もいるだろうが、歳を重ねるごとに1年が占める人生の割合はどんどんと小さくなる。すると時間の経過が早く感じる。親御さんからしたら君たちはほんの少し前までまだ歩くことも出来ない赤ん坊だったと言われても納得できるだろう。そんな事がこの先何度もあると思う。私もつい最近夫と出会った時のことを思い出したが、あれは12年前のことだから末恐ろしい」
初めて羽挟先生の「あー……時間の進み残酷すぎねぇかなぁ」という感情全開の表情を見届けながら、お話は終わる。
その後は先生からクラスメイト1人1人に証書を手渡され、最後の挨拶をして帰宅する運びとなった。とはいえあと1時間くらいは卒業生で学校はごった返すだろう。
第644話終わりましたね。いやぁ、歳を重ねるごとに時間経過の早さは本当に感じるようになってきました。いやね、まじで馬鹿に出来ませんよ。人生100年時代の今に生きる作者がまだその5分の1をやっとこさ迎えたかどうかというあたりでこの感覚なのに、親とかどうなってるねんと思いますもん。
さてと次回は、27日です。お楽しみに!
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