第642話.終わりの時間
春風が吹く。
柔らかな日差しで校舎に照らしながら、桜の白桃色も綺麗に映えていた。
いつもと同じ時間、同じ道をゆっくりと歩く。
思い出を確かめるように。
記憶を伝うように。
踏み込む度にフラッシュバックする鮮明なあの頃の記憶。新鮮で楽しかった、忘れがたき思い出達。
このローファーもブレザーも着ることはなくなるけれど、私の3年間を陰ながら支え彩ってくれた。
何百と通った校門を抜けて最後のホームルーム教室へと向かう。
教室に入ってすぐ目に入るのは黒板に描かれた桜の木。先に来ていたクラスメイトはその近くにメッセージを書き込んでいた。
中身の無い軽いカバンを机にかけて私も前に出向く。そして粉を少し纏ったチョークを手に取ると、空いたスペースに白く削り書く。
『最高の1年だったぜ!』
文だけ見たら男の子っぽいな、なんて1人思いながらニヤリと笑う。
席の方に戻ろうとすると彼女達がやってきた。
彼女達とも随分と仲良くさせてもらった。久しぶりに会えただけでなく、ここまでまた仲を深められたのはひとえにその隣に立つ彼女のおかげもあるだろう。
だからこそ私はそんな彼女達の名前を呼んで近くに向かうのだ。
✲✲✲
いつだったか。
卒業することがなんとなく今生の別れのように感じてしまうことがあった。
連絡さえ取り合えばいつでも会えるのに、けれどそれでももう二度と会えないのかもしれないという恐怖感。そういう感覚をいつの頃からか覚え始めていた。
けれど、その恐怖はもう無い。アイツらとはいつでも会える。会えないと思うほど柔な付き合いはしてこなかった。
ふざけてじゃれ合いながらもちゃんと1人の友人としてみてきた。
だから大丈夫。
もう怖くない。
✲✲✲
教室とは違う別のホールに私達は集められた。そこで事前の段取り説明の後、式の執り行われる体育館に向かう予定だ。
心なしかここにいるみんな楽しいとも嬉しいともつかない微妙な面持ちを浮かべる。
卒業することは素晴らしくめでたいことだ。しかし、同時に巣立ちも意味する。別れを意味する。これを素直に喜べるほど私達は淡白に育ってきていない。
けれど避けれぬ事があるのだ。
だからこそ、私達は決意を示した表情を浮かべるのだった。
合図とともに1組から動き出す。
遂に始まるのだ。最後の時間が。
これが私達のフィナーレだ。
第642話終わりましたね。事前にお知らせすると今回卒業式パートが入ってきていますが、すぐに終わるわけではありません。まだほんのすこーし、ビミョーに続きます。とは言っても高校生の青春もの!的な内容という訳ではなくほんの少し成長したキャラ達の物語が待っています。まぁ、そんなに長くはしませんけどね!
さてと次回は、23日です。お楽しみに!
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