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第63話.水槽の中

「ですよね!」


 そう言った華山の声が少しだけ響く。華山はすぐに周りの人に迷惑をかけてしまったのではないかと、キョロキョロしながら両手で口を塞いだ。


「で、華山はなんでクラゲが好きなんだ?」


 先程の事が無かったかのように振る舞うと、華山はゆっくり口から手を離して話してくれる。華山の頬は先程の事が少し恥ずかしかったのか、赤く染まっていた。


「私昔から友達が少なかった、というかほとんどいなかったので本とか図鑑とかばっかり読んでたんです。それであるときクラゲの写真を図鑑で見つけて気に入って。その後家族みんなで水族館に行く機会があったんですけど、そこで初めて本物のクラゲを見て、気に入ったから好きに変わったんです」


 華山は丁寧に昔の友達事情も交えながら話してくれた。


「じゃあクラゲを飼い始めてから結構経ってたりするのか?」


 ふと疑問に思い俺は華山にそう聞く。


(クラゲを飼うって犬とか猫みたいによくする事でもないしな。なんなら、飼えるって事も知らなかった)


 しばらく考えた様子を見せた後、口を開いた。


「飼い始めたのはそんなに前ではないですよ。実際に飼い始めたのは高校に入ってすぐくらいですね。お姉ちゃんに飼えるって事を教えて貰って、頑張って飼い始めたんです」

「へー。やっぱり名前とかも付けてんのか?」


 そう聞くと華山は可愛らしい笑顔を浮かべて、「ふふっ」と微笑みながら教えてくれた。


「お姉ちゃんが付けてくれたんですけど、クラゲのクーちゃんって言うんです」

「クーちゃんか」


(クーちゃん?頭の中にオレンジのクジラが浮かんでるのは多分関係ないけど、どこかで聞いた事あるな)


 と、知らないフリをしながら華山との会話を続ける。


「可愛い名前だな」

「ですね。私もそう思います。宝くじのマスコットキャラクターの、クジラのクーちゃんと名前が被っちゃってますけどね」


(あ、この子言っちゃったよ。俺があえて触れないようにしてたのに。いやまあ、いいんだけどね?)


 気にしてない素振りを装いつつ、さらにまた会話を続ける。


「なぁ、華山が飼ってるクラゲの種類って何だ?」


 興味本位で華山にそう聞く。すると華山はよくぞ聞いてくださいました!と言わんばかりに、口を開き話始める。


「私が今飼ってるのは、タコクラゲの仲間のカラージェリーフィッシュっていう子です。ちっちゃくて可愛いんですよ」

「へー、見てみたいな。この水族館にも同じやついるのか?」

「いえ、私が飼ってるのはここにはいませんね。写真ならありますけど見ますか?」

「頼むわ」


 そう言うと華山はカバンの中からスマホを取り出して、写真を見せてくれた。


「この水槽の中でプカプカ浮いている子です」

「おー、本当にちっさいな」


 あと気になる所があるとするならば、水槽越しに生活感丸出しの先生がソファの上でスマホいじってる事だろう。いや、別にいいのだけれども、普段知ってる先生と違うわけだから。なんかね?

 散々脳内で色んな事を考えたが、結局何のために考えているのか分からなくなり、俺は考えることをやめた。


「飼い始めたのは高校に入ってからって言ってたよな?気になったんだけど、クラゲってどれくらい生きるんだ?」


 華山は少し寂しそうな顔をしながら、答えてくれる。


「クラゲはすごく短命な生き物で、半年から長くても1年くらいしか生きれないんです」

「そうなのか」

「はい。だからクーちゃんも長生きしてますけど、もうそろそろいなくなっちゃうんです」

「そうか」


 何となくしんみりさせてしまった空気に俺は責任を少し感じてしまう。


「何かごめんな?」

「いえ、命はいずれ無くなるものですから。そこはちゃんと受け止めてます。それにここにはクーちゃん二世の候補を探しに来たって言うのもありますからね」

「そうか」


 そんな話を続けていると、俺のスマホにLINEの通知を知らせるバイブが響く。ポケットの中から俺はスマホを取り出して、確認すると(うつみ)からだった。


『刻兄イルカショー終わったよ〜。今どこいる?』

『今はクラゲのいる水槽のある場所にいる。俺とお前が別れた場所から少し歩いたところだぞ』

『分かった〜』


 俺達は簡単にそうやり取りを済ませた。


「誰からでしたか?」


 隣で俺がLINEのやり取りを終えるのを待っていた華山は、俺にそう尋ねてくる。


「妹からだよ。一緒に来ててさ、あいつだけイルカショー見に行ってたから、それが終わったっていう報告を受けてた感じ」

「妹さん……」


 華山は妹というフレーズを聞くと固まってしまった。


「どうかしたか?」


 俺は華山にそう聞く。


「あ、いえ。お会いした事がなかったので、私はここでお別れした方がよいかと思いまして」

「何でだ?別にいればいいんじゃないか?(うつみ)のやつも家で部活の話したら、華山にだけは会ったことがないから、会いたいって言ってたし」


 そう言うと華山は自身の手の指同士を絡ませながら、悩み始める。


「そうでしょうか。私あまり初対面の人とは上手く接せませんし、嫌われちゃったらどうしよう」


 華山の声のトーンはクラゲの話をしていた時よりかは幾分低い。どこかに迷いがあるような、そんな声。


「大丈夫だよ」


 俺は一言だけ華山にそう言った。だが、もちろんそんな根拠の無い一言で華山も心を決めれる訳もなく、なぜ?と目で訴えかけてくる。


「理由は簡単だ。あいつは俺に最も近い遺伝子の持ち主で、俺と最も近い性格の持ち主だからだ」


第63話終わりましたね。夏になったら例年なら和歌山に帰って家の目の前にある海で遊ぶんですけど、野生のクラゲは少し怖いですね。毒があるのかよく分かりませんし。でもちっちゃいふぐとはよく遊びますね。

さてと次回は27日です。お楽しみに!もしよろしければブックマークに☆もお願いしますね!

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