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第626話.桜の蕾

 少し久しぶりの通学路。

 自由登校に入る前までは見せていなかった桜の蕾が、だんだんと開く準備段階に入り始めている。このままいけば数週間としないうちに満開に咲くだろう。

 こうしてローファーに制服姿というのも少し日が空いただけでなんだか新鮮だ。長期休暇の夏休みや冬休みの間も時々学校に行ったり模試で着ないといけない日があって、全く着ない日が続く経験がないので余計にそう思うのだろう。

 なんだかこう、姿勢を正されているような、かっちりしたようなそんな感じがする。

 いつだったか。入学したてはいつもこんな感じだった気がする。中学の制服とも違う、より大人に近づいたそんな感覚があった。今更その感覚が戻ってきたとてもうすぐ卒業するわけだが。

 にしてもこうしてこの道を歩くのもそう多くないのだと思うと、やはり少し寂しいものがある。何せ3年間だ。3年間駅からのこの坂道を登り続けた。それがもうすぐ終わるのだから。

 夏の暑い日は灼熱地獄だったし、冬の寒い日は坂の上から吹き下ろされる風に震えていたし。決していい思い出では無い。けど、その日常が無くなるというのはやはりなんだか寂しいのだ。

 かと言って灼熱地獄などをもう一回味わいたいわけではないけど。所詮、エゴのようなものなのだ。

 人間って自分勝手だから。

 ゆらゆらとした歩幅で特に急ぐでもなく歩いていると見慣れた校舎が視界に入る。校門を抜けて教室に向かえば前と変わらない日常だ。


「お、蒼ちゃんおはよー!」


 教室に入ってそうそう凛が飛んでくる。がんばって受け止めながら私は凛の胸で軽く窒息しそうになった。

 本当に凶悪だ。

 おはよと軽く挨拶を返して辺りを見渡すとユウの姿も見つけた。もちろんユウにも挨拶をする。


「みんな元気そうだね」

「モチのロン!最近はバイト先のパンが美味しすぎてちょっとお腹がモチモチしだしちゃったけどね」


 あははと笑いながら凛はお腹を撫でた。

 ふーむ、私からしたら全体的にムチムチ度合いが上がったせいでより一層男の子からの視線に困るようなボディになったとお見受けするのですが。それはいかがかな?

 凛のムチムチボディはちょっと刻には見せたくない。ほら、男の子って女の子が憧れる体型よりもこうしたムチムチしている方が好きなんでしょう?包容力とか抱き心地とか諸々で。

 私もお肉をつけたらいいのかしら。と思うが、多分私が同じことをしたら多分ただ太るだけだ。これはある種の才能なのだろう。

 そんなこんなでみんなと話していると教室には私達のクラスの副担任がやってくる。羽挟先生はお腹の子供のことも考えて卒業式までは基本自宅で安静にとの事らしい。

 私達は席に着くと今日の予定を聞かされるのだった。


第626話終わりましたね。卒業というシーズンがリアルの方でもやって来ました。卒業って寂しいと同時に新しい新生活へのワクワクみたいなのがあると言われますけど、でもやはり寂しいの方が大きいですよね。何せ知らない環境に行くワクワクなんて相当アクティブな人くらいしか持ってなさそうですから。

さてと次回は、20日です。お楽しみに!

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