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第596話.難しい恋心

 まったりとした時間を過ごすお正月の一幕。

 外は暮れていて闇に飲まれていた。

 そんな外とは対照的に部屋の中は明るく温かい。特に私と刻の間に挟まるこの子がとても温かいのだ。子供体温なのか平熱が高めらしく、人間湯たんぽにちょうどいい。

 ぎゅーっと抱きつくと肩をトントントンッと素早く叩かれ「ギブ……ギブギブ」と小さく訴えられた。


「あぁ、ごめん。つい可愛くって」

「可愛いのは認めるけどそれで軽く殺しかけないでよ」


 そう言いながら、大好きなお兄ちゃんの刻の方に身を寄せて現ちゃんは私からほんの少し距離をとる。けれど、そんな距離も私から詰めてしまうのだ。


「あ、そう言えば現ちゃんはあれから黒岩さんとはどうなったの?順調に話は進んでる?」

「あーと……う、うん、今のところ……は?」


 ものすごく煮え切らない返事。おそらく全くといっていいほど順調ではないのだろう。まぁ、異性からの告白ならともかく、同性からであれば確かに困惑してしまうのも致し方がない。私でも凛とかに本気で恋愛としての好きという感情をぶつけられたらさすがに一歩引いてしまうやもしれない。そう考えると、まだ現ちゃんは立派にやっている方だ。


「お喋りはする?」

「うん、LINEとかで一応」

「内容は聞いてもいい?」

「うん、特段変わったことはないよ。告白されるより前と何ら変わらない」

「うーん、そっか。……黒岩さんの方からは特出した動きがないとすると、純粋に返事を待ってくれているだけなのか、それとも押さずに引く戦法を取っているだけなのか」

「分かんない。私どうしたらいいんだろうね」


 刻曰く、男子からめっぽうモテる現ちゃんは男子の振り方ならプロ中のプロらしい。振りすぎてむしろ振られるために告るドM男子もいるとかいないとか。

 まぁ、でも男子からの告白と女子からの告白じゃやっぱり関係ないか。

 第三者目線で見れば男子を振るのと同じよう振ればいいと思う人もいるかもしれないが、これはそう簡単な話でもない。異性であれば振ったあとに発生する微妙な気まずさも、そもそも所属する人間関係のコミュニティが違うことが多いので、あまり気にならない。しかしそれが同性であれば話は別だ。現ちゃんのように元から同じコミュニティに属する可能性も多くあるし、何よりその他のメンバーが感じる空気が地獄でしかないだろう。

 こんな難しいテーマにいきなりぶつからないといけない現ちゃんは気の毒という他ないが、けれど相手も相応の恋心の提示をしたわけだ。勇気を持って動いたのだから、それ相応の行動で示す他ないだろう。

 しかし、その結末までを歩むのも決めるのもこの現ちゃん本人。私はあまり手出ししないのだ。


第596話終わりましたね。こういう相談は経験者の羽挟先生に聞くのが一番ですが、生憎と現は学校が違うので訪ねに行くことがかないません。となると蒼達の代理で聞くのはどうなのかとなりますが、こういうデリケートな問題は当の本人が聞かねば最も重要視していた部分は聞き逃すので今回は羽挟先生は出てこないのです。

さてと次回は、20日です。お楽しみに!

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