第593話.詣でるは雪が残る日の話
公園から見える海の先、大阪の街のさらに向こうからきらりと光る太陽が姿を現す。先程まで暗かったこの辺り一帯を1秒と経たずに明るく照らした。
先程まで恐ろしく寒かったのが嘘のようにじんわりと温かくなってくる。自然の偉大なパワーに人間は為す術がないということを改めて感じさせてくるようなそんなパワーだ。
「綺麗だねぇ」
一年で一番最初の日の出だから初日の出なわけだが、けれどその実態は毎日のように繰り返し起こる日の出と本質は何ら変わらない。けれど、見ている側からすればたったこの一瞬に対する時間の価値が段違いに跳ね上がるのだ。一年の最初という一年に一回きりのこのチャンス。これを逃せばまた来年までお預けという代償の時間も大きい。代償が大きいからこそ、価値も大きいと言える。
とまぁ、語ればそれなりに語れそうな話だが、今日のメインは別に初日の出ではない。あくまで初詣なのだ。
ひとしきり満足すれば私達は何も無かったかのように平然と歩き出し、目的の神社へと向かい始める。
この辺りは生田神社がめっぽう有名なのだが、有名である以上混雑は避けられない。新年早々から人混みに揉みに揉まれるのは嫌だ。だからこそ、そこまで人のいない地域の神社をちゃんと探しておいたのだ。そこで見つけたのが阪急六甲のすぐ近くにある八幡神社だ。
家からはお世辞にも近いとは言えず、どちらかと言えばユウとかが行くのに適している場所だ。しかし、それなりの規模かつ人が空いているとなると場所は限られてくる。そこで出てきたのがこの八幡神社というわけだ。屋台も毎年のように出ているらしく、少しは楽しめそう。
円山公園からは歩いて2、30分と言ったところで、まぁそれなりに歩く。けれど新年早々から時間がありあまって暇で仕方がないのだ。こういう時くらいのんびり散歩気分で行くくらいが丁度いいだろう。
✲✲✲
道中には所々雪が積もっている。日陰にある雪は白に影が重なって薄汚れたような色に見えるが、段々と登ってきた太陽によって陽の光に照らし出され始めると純白の色に輝き出すのだった。まるで宝石のようなその煌めきに心奪われそうになりながらパシャリと一枚写真を撮る。
「蒼も写真上手くなったよなぁ」
感心しながら刻はそう言った。
「私もPhotoClubのメンバーですから!多少はカメラの腕を上げたってものですよ!」
えっへん!と足りない胸を反らしながら自慢げにそう応える。そんな私の姿を見ていた刻はおかしかったのかくすりと笑った。
しばらくして目的の神社が見えてくる。
敷地内に足を踏み入れると一気に人の数が増した。とは言っても生田神社の方に比べたら遥かにマシだろう。
参拝の列の最後尾に私達は並ぶ。列の途中にある階段付近には篝火が置いてあり、その付近は温かそうだ。早くあそこまで進まないかなぁと思いながら待っていると近くからいい香りが漂ってくる。そう、ベビーカステラの屋台だ。朝ごはんは初日の出に間に合わすために何も食べていないのですっかりぺこぺこ。そんな状態でこの香りはあまりにも危険だ。きゅるると鳴るお腹の音を抑えながら私は後で買おうと密かに決意する。
気がつけば次が自分達の番だった。
お金をポイッと投げ入れ鐘を鳴らす。そして二礼二拍手をした後に一礼をして私達はその場を退いたのだった。
第593話終わりましたね。ベビーカステラって美味しいですよね。一口サイズな分いくらでも食べてしまいそうです。油断すると太っちゃいますけどね笑
さてと次回は、16日です。お楽しみに!
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