第576話.伊月の選んだ指輪
黒岩さんは基本現の隣を離れようとはしない。
いや、この空間内に知り合いが現の他に居ないから当たり前と言えば当たり前なのだが。まぁ、凛と蒼の超ハイスペックコミュ力である程度緊張はほぐれたようだけれども。ま、俺の方はなかなか向いてくれないんですけどね。告った相手の兄貴に会うのって多分めっちゃ緊張するし。俺ももし蒼に兄とかがいたら死ぬほど緊張する。
もう少し黒岩さんと喋れたらなぁと思いながら、俺は席に着くとお楽しみのクリスマスパーティーを始めることにした。
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ある程度お腹を満たした頃に俺達は昨年同様メインのクリスマスプレゼント交換会を実施することにした。黒岩さんは蒼に告白する前に一緒にショッピングを楽しんでいたらしく、その時の買った品をプレゼント枠にするらしい。
前回同様全てを白い袋に詰めて紐で引っ張る千本くじ方式をとる事に。使う道具は事前に取りに帰っていたので準備は万端だ。
各々が詰め終えたのを確認するとソファの背にプレゼントを隠し、紐を背もたれの上を通して出してくる。こうすることでどこに繋がっているのか分からなくするのだ。
「うひゃー、やっぱり何回見てもどれに繋がってるのか予想つかないや」
「まぁ、そのためにこの形をとってるわけだしな。むしろ分かられたら困るんだけど」
「いや!僕はそれでも結果を知ってみたいのさ!」
「それは気になる!って段階で留めておくのが一番楽しいやつだな。という事で結果は全員が引き終えてから知ればいいさ」
気になります!モードの凛を宥めつつ俺達はじゃんけんで誰から引くのか決めることにする。
「「「「「「じゃんけん、しょいっ!!」」」」」」
黒岩さんもこの頃にはかなり気が緩んでくれたようで、ノリよく参加してくれる。変に緊張して楽しめなかった、なんて事があったら可哀想だと思っていた分、あの表情を見るにその心配は必要なさそうだ。
そしてじゃんけんの結果は俺が最後で最初は現となった。鏡坂兄妹でサンドイッチする感じだ。間に凛、黒岩さん、蒼、華山という順で引いていくこととなる。
「よーし!誰のが引けるかみんな予想しててねっ!」
現は元気よくそう言いながらよいしょー!といって勢いよく紐を引っ張った。ポーンっと白い袋のプレゼントが舞い上がってちょうど現の手の中に収まる。
「よし!次は凛さんどうぞ!」
プレゼントの開封はみんな一緒にするのだ。そうしないと最後の、つまり俺が引かずして結果が分かってしまうからな。
その後順調に引き終えプレゼントの開封を行う。
袋を開けて中を覗くとなぜかサンタと目が合った。取り出すとサンタの形を模した15センチサイズの人形が出てくる。土台に電源のようなボタンがあり、押してみるとシャカシャカと踊り出した。
「あ、それ僕が選んだやつだよ!」
「へ〜、凛が選んだのか。……なんで踊る人形?」
「なんか面白かったから!」
凛らしい回答に思わず笑ってしまう。
まぁ、確かに動きと音楽が相まって面白いのはそうなのだが。
ふと俺は現の方に目をやる。すると現の手には小さな箱が握られていた。まるでプロポーズをする時に出てくるようなタイプの小さな箱だ。
恐る恐るといった雰囲気で現は蓋を開ける。すると驚いたように目を丸くした。何だろうと思いながら見ていると現が中からリングを1つ取り出す。
「指輪だ」
シンプルだが、可愛くワンポイントで装飾の施された指輪。俺が選んだものではないということは確かな事実として、俺はぐるりと周りを見渡す。すると黒岩さんの頬が少し染っていた。
「それ、私が選んだやつ」
「伊月が?あ、そういえばアクセ買いに行った時に一回はぐれたもんね。その時に買ったの?」
「うん。……元々、現にあげるつもりだったから結果オーライ的な感じかな」
気恥しそうではあるものの、けれどどこか嬉しそうだ。
うんうん、恋心とか関係無しに、プレゼントしたい相手にちゃんとプレゼントが渡るということがどれだけ嬉しいことか。
しみじみとそう思いながら俺は2人の様子を眺めるのだった。
第576話終わりましたね。黒岩伊月のキャラクター的な性格は実はまだあまり固まっていません。というのは作者の僕あるある、即興キャラ作りによって生み出された子だからですね。おかげでセリフも今回が初ですし。さて、彼女はどんな子になるんですかねぇ。
さてと次回は、12日です。お楽しみに!
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