表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/700

第56話.打ち上げ花火

「あと30分程で花火が打ち上がります。もうしばらくお待ちください」


 花火大会の会場に無機質な機械の声でアナウンスが流れた。

 アナウンスを聞いたのか、屋台が軒並みに建っている方面からは、ぞろぞろとたくさんの人が流れてくる。その人の中にはポートタワーの中に入って、高い所から見ようとする人も、多くはないが数名いた。


「あともう少しで始まるんだね」


 隣で空宮がそう言うのを聞き流しながら、俺は上を向いた。

 空は暗黒に包まれており、周りの明かりのせいで星一つすら見えない。見えるのは雲に隠れて朧気となった月だけ。

 周囲にも段々と人が集まって来る。自前のレジャーシートを敷いて地面に座れるようにする人もいれば、簡易式の折りたたみ椅子等を持ってきている手練なんかもいた。


「あの椅子ってキャンプとかでも使えんのかな」


 最近見たキャンプアニメの影響かふとそんな事を思い、隣にいる空宮に気づけば聞いていた。


「どうなんだろうね。でもあれだと石ころの上とかじゃ、安定しにくいんじゃない?」

「確かに」


 椅子の足はいわゆるパイプ椅子と同じような足で、簡単に言えば棒二本で支えている感じだ。空宮の言う通りこれだと平らなところならまだしも、でこぼこした所だと安定しないのだろう。

 そんな他愛もない話をしながら、打ち上げ開始までの時間を潰す。


「そう言えば、(うつみ)ちゃんとは会わなかったね」

「そうだな」


(確かにあいつ友達と来るって言ってた割には全然見ないな。どこにいるんだろ)


 つい気になってしまいLINEでどこにいるのか聞いてみる。


(うつみ)今どこにいるんだ?』

『え、どこって何が?』

『いやいや、友達と花火大会来てるんだろ?全然見ないなって話に空宮となって気になったからな』

『あー、そういうこと。実はねあれは嘘なんだよ!』

『嘘?どゆこと』

『刻兄を家から出すための嘘だよ。今ね友達と私達の家であそんでいるのだ!』

『あ、そうなの』

『うん。だからしばらく帰って来ないでねー』


 これで(うつみ)とのLINEのやり取りは終わった。

え、しばらく家に帰ってくるなって、花火見終わったら俺どこに行けばいいんだよ。

 俺は帰る場所が一時的に無くなる不安に駆られつつも、話した内容を空宮に伝える。


(うつみ)のやつ今家で友達と遊んでるって」

「へー、そうなの」

「そう。んでもって、しばらく帰ってくるなって言われた」

「あらら。じゃあ、花火見終わった後どうするの?」

「問題はそこなんだよ」


(本当にどうしよう。浴衣姿でネットカフェに行くか?いやいや、その姿をスタッフの人が見たら訳分からんだろうよ。えー、本当にどうしよう)


 俺は頭を抱えながら悩んでいると、隣から肩をつんつんとされた。


「帰る場所がないならさ、私の家に泊まっていく?」

「あぁ、うん。……え?……はぁっ!?」


 俺は空宮のその言葉にとても驚いた。

 え、泊まるの?俺が空宮の家に?

 困惑していると、空宮はまた口を開く。


「多分、刻ならお父さんもお母さんも許してくれるしさ」

「あぁ、そう?」


(いやいやいやいや!お母さんは許しても、お父さんあなたは許したらダメでしょ。いくら幼馴染で顔も知ってるからって、それはいかがなものかな)


 ひたすら脳内でつらつらと俺が空宮の家に泊まることが普通でない事について話していると、空宮は少し微笑みながらこちらを見る。


「もしかして、私の家に泊まるのは嫌?」

「いや、そういう事じゃない」

「じゃあ、迷うことも無いような気がするけど」


 空宮はキョトン顔を浮かべながら俺に聞いてくる。


「いや、あのさ女子高生の家に泊まるのすごい勇気いるって分かる?緊張どころじゃないからな」

「えー、昔はよくお互いの家に泊まりに行ったじゃん」

「今と昔じゃ訳が違うって……」


 そこら辺の空宮の意識の低さに少し頭を抱えながら、打ち上がる花火を待った。



✲✲✲



「只今より花火大会を開始します」


 先程と同じく無機質な機械の声がそうアナウンスする。


「ついに始まるよ!」

「だな」


 俺達は立ち上がって花火を見る体勢になる。


 立ち上がって数秒すると、一発目の大玉が打ち上がった。周囲からは歓声の声が響き渡ってくる。


「おー!」


 空宮もその一人だ。


「ねぇねぇ刻、花火だよ!大きいよ!打ち上がったよ!」


 空宮はいつも以上のハイテンションで騒いでいる。

 元気がいいこと。


 俺はそんな空宮の様子を横目に見ながら、花火を眺める。


 赤に黄色、青に緑、白に桃色、大きな花が空一面に咲く。花火が破裂する轟音が心臓に響き少し驚きながらも、俺はその花を眺め続けた。


 空宮は可愛らしい笑顔でその花火を眺め続ける。俺がそんな様子に見とれていると、空宮が急にこちらを向いた。


「どうした?」


 俺が空宮にそう聞くと空宮は口を開く。


「えっとね…………だよ」

「え?すまんなんて言ったか聞こえなかった」


 花火の轟音が鳴り響くせいで、空宮の声は要所要所が掻き消されてしまい、なんと言ったか認識出来なかった。

 花火と花火が打ち上がるその僅かな間の沈黙に空宮はまた話し始める。


「ううん、やっぱなんでもない。また言う時が来るから」

「そうか」


 そしてまた大輪の大花火が空一面に咲く。

 それから花火が全発うち終わるまでの間、俺と空宮の間に会話は生じない。だが嫌な雰囲気ではなく、只々各々でその雰囲気を楽しむだけ。

 これが終わった後に何が待ち受けているのか、その未来に少し不安を抱きつつも、今はこの花火を楽しむことに専念した。


第56話終わりましたね。空宮の家に泊まるってどゆこと!?と、思った方もいるかもしれません。僕もその1人です!

さてと次回は13日です。お楽しみに!

よろしければブックマークと☆もお願いしますね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ