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第546話.甘えたがりの彼女さん

 家に帰ると蒼はクッションを抱きかかえながらソファに座っていた。ぼーっと真っ暗なテレビの画面を見つめているようだ。


「……どうした?」


 彩芽さんを送る直前まで元気な様子をしていたので、家を出ていた間に体調を崩したのではと心配になる。

 蒼はゆっくりと振り向くと、ポンポンっと隣に座るよう促してくる。

 羽織っていたコートをイスに乱雑にかけてから蒼の隣に座る。すると蒼は俺との距離をゼロ距離まで近付けた。

 左半身には蒼の柔らかさと体温を感じる。

 身体を預けてくるように蒼は体重をこちらにかけてきた。支えてあげるようにしながらなんとなく甘えたいのだろうと判断する。

 蒼の手で握られるクッションにはシワがよっている。ギュッと握っているがゆえだろう。


「今日は甘えん坊気分?」


 そう尋ねる。すると蒼は少し恥ずかしげに小さく頷いた。


「じゃあ、今日は時間が許す限りはしよっか?」

「うん……連れてって」


 蒼はクッションをソファの上に置いて俺の方に手を伸ばしてくる。俺はそんな蒼をお姫様抱っこで持ち上げると一緒に寝室に向かう。向かっているその間は蒼が俺の体にギュッとしがみついていた。



✲✲✲



 スマホのアラームが鳴り響いて目を覚ます。素肌そのままの上からかぶさった布団をのけて身だしなみを整えると、私はしぶとく寝続ける刻の事を起こそうとする。


「刻ー、起きてー」

「……あと5分」

「だーめ。今日は早めに学校行かないとでしょ?」

「……んぁ、何で?」

「日番、昨日言われてたじゃん」

「……あぁ、本当だ」


 流石に刻も起きなければならぬと思ったのか、のそりのそりと身体を起こす。布団がはらりとはだけ落ちて露になる刻の肉体。陰影が浮かび上がるほどには鍛えられたその肉体は、触ってもよし、包まれてもよしの一級品だ。


「はい、これが刻の服ね」


 散らばっていた服を予めまとめていたのでそれをそのまま手渡す。目の前で刻が服に身を包んでいく様を眺めた。


「朝ごはん何がいい?」

「んー、おにぎりと味噌汁とか?」

「お味噌汁はインスタントでもいいかな」

「うん」

「分かった」


 前日の夜からお米はいつも炊くようにはしているので、朝になれば万全の状態で保温されたほかほかご飯がお目にかかれる。私はそんなご飯をいい感じにかき混ぜてから、手のひらより少し大きいサイズのラップを手に取ると、その上にお米を乗せた。塩をパッパとかけて三角状にしていく。最後にノリを巻いて完成させたのを六つほど用意したら完璧だ。

 私がこうして朝食の準備をしている間、刻はマンションの共有ゴミステーションにゴミを捨てに行ってくれていたりする。

 それぞれの役割をこなしながら朝の準備が整い始めた。


「刻、ご飯食べよっか」

「ん、だな」


 2人はダイニングの椅子に座って手を合わせる。


第546話終わりましたね。蒼は刻と付き合う前はそうでもなかったですが、付き合ってからは刻に甘えたいという欲が非常に大きくなったようですね。付き合うとはそういうもののような気もしますが、蒼の場合、それが波として定期的に来るそうなので時々大変なことになるそうです。

さてと次回は、13日です。お楽しみに!

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